(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第17話

ロジャー海賊団が偉大なる航路を制覇し、ロジャーが世間から海賊王と呼ばれるようになって早1年。不気味な沈黙を続けているとされているが、不治の病になったロジャーがすでに解散を宣言しているため、幹部から見習いにいたるまで世界各地に散っている。かつてのセンゴクの話のとおりなら、処刑の日はちょうど南の海バリテラで潜伏中のポートガス・D・ルージュがロジャーの子ポートガス・D・エースを宿してちょうど5ヶ月目になるだろうか。

 

ここから世界政府の命令で乗り込んできた海軍により、バリテラ中の父親不明の妊婦ごと殺害される事件が起きる中、一年半にも渡って妊娠し続けるわけだ。人間の母体は10ヶ月前後で子供を産むようにできている。

 

それを何らかの方法で2年もとなると羊水は出産間近になると体内から排出されるべく腐敗し始めるので、10ヶ月近く体内で胎児や自分の老廃物が限界を超えてまで溜まり続けることになる。妊娠はいつの時代も母子共になにがあるかわからない、生死が隣り合わせの重労働だ。それを2年だ。

 

ルージュがエースを産んだ瞬間に死ぬのも、自然の摂理に逆らい生まれてきたから鬼の子と呼ばれるのも運命なのだろう。それがロジャーの異名のひとつなのは皮肉ながら当然の流れだ。

 

なぜ私がそんなことを知っているのかというと、ルージュの主治医から聞いた情報から逆算したからだ。他ならぬガープ中将から直々にエースが生まれたら故郷であるゴア王国フーシャ村に届けるよう頼まれている。

 

今回も2年も妊娠し続けるかはわからない。私の船があるから安心して10ヶ月で産むかもしれないし、呼び出されたら数時間で船は来るが常駐するわけではないから2年も妊娠するかもしれない。それはわからないから、仕事を部下に任せながら私は仕事をセーブして定期的に通うことになるだろう。

 

今は粛々とウミット海運の仕事をこなしながらルージュが潜伏している港町に新聞を含めた生活必需品などを届けるだけだ。ロシナンテ達の恩があるから引き受けざるをえないという建前を手に入れた私は、こうして定期的に南の海にやってきているわけだ。

 

常駐している医者や看護師、世話役の女性はガープ中将に頼まれた人間かルージュの家族のようで、私が存在をモルガンズにリークしなければ見つかることはまずないだろう。断じてしないが。

 

なにせ、かつてエースの処刑は世界を揺るがした。私が生きたかった新時代の到来を告げた。世界の均衡が破れて時代のうねりが加速したのだ。その動乱の前に私は黒ひげに敗れた。新時代到来前に旧時代の敗北者として真っ先に脱落したのだ。これから生まれてくる赤子の死によって新時代が到来するなら私は全力でエースを守らなければならない。

 

潜伏先を訪問するとルージュが申し訳なさそうに御礼をいってきた。

 

南の海は南極を有する海で、東の海とは偉大なる航路を、西の海とは赤い土の大陸を挟んでいる。 東の海ほど治安は安定していないが、北の海ほど荒れている海域ではない。どのみち深層海流を使うからそれほど苦にはならないと告げながら、ロジャー逮捕の新聞が入った日用品を渡した。

 

新聞を見つけたルージュは三面記事を見るなり抱きしめるようにかかえたまま目を閉じた。

 

「ホーミングさんは2人お子さんがいるのよね?」

 

「そうだね、前話したとおり2歳差の兄は海賊をやっているし、弟は今年海軍に無事入隊した。弟をガープ中将に託した時にはすでに子供だったが、無事に育て上げてくれたのは確かだから心配しないでいいよ」

 

「そうね......そのおかげか、あまり心配はしていないの。お子さんのお名前はどうやって決めたの?」

 

「そうだね、妻と様々な本を読みながら考え抜いた名前にしたことを昨日のことのように覚えているよ」

 

「そうなの、素敵......。私はもう決めているの。女の子なら『アン』、男の子なら『エース』。彼がそう決めてたから」

 

「2人の子どもなんだ、それが1番いいだろうね」

 

「ありがとう、ホーミングさん。もし、あなたの船にフーシャ村以降も乗る機会があるとしたら、その時はよろしくね」

 

「はは、いいとも。その時は格安にしようか」

 

「ふふ、そのときのお代はきちんとお支払いできるようお金をためておかなきゃ」

 

「なにかと先立つものが必要なんだ、そんなことより自分とお腹の子のことを大切にしなさい。働けるようになるのは何年後だと思っているんだ」

 

「ありがとう、ホーミングさん。あなたのおかげで普通に暮らしているのとなにも変わらない生活ができているわ」

 

「お礼ならガープ中将にいいなさい、私はかつての恩を返しているだけだからね」

 

ルージュはうれしそうに笑った。

 

「ねえ、ホーミングさん。お願いがあるの」

 

「なんだい?なにか足りないものでもあったかな?一通り言われたものは揃えたはずなんだが」

 

「いえ、大丈夫。そうじゃないの。彼の処刑が決まったでしょう、故郷のローグタウンで」

 

「そうだね、東の海の港町だったか」

 

「彼の最期を見てきて欲しいの。そして教えてくれないかしら。ガープ中将は海兵さんだからどうしても難しいだろうし、頼めるのがホーミングさんだけなの」

 

「しかし、その間になにかあったら......」

 

「大丈夫、お願い。一生のお願いよ。彼がどんな誇り高い最期を迎えるのか、教えてほしいの」

 

私は主治医に視線を向けるが、ルージュにすがられてしまった。30分ほど泣きながら懇願されてしまったため、仕方なくいざというときのためにウミット海運の船を別で用意し、イールに任せることにした。

 

処刑日の1週間前から新聞を注視し続けてきたが、金獅子が脱獄した話は聞かない。ガープ中将に報復を恐れていると伝えて状況を聞いたところ、インペルダウンに収監された金獅子は落雷の影響で今なお意識不明だそうだ。フワフワの実を閉じ込めておくためとはいえ、あらゆる手段で医者を用意して治療しているというんだから終身刑にしては高待遇にもほどがある。唯一の懸念材料から解放された私は、安心して前日には東の海ローグタウンに足を踏み入れたのだった。

 

とあるホテルの一室にて、護衛しているはずの魚人から客人がと声をかけられた。偽名で宿泊しているため私がここにいることは誰も知らないはずなのに、私を名指しで取り次いで欲しいと言っているらしい。

 

「今日会う予定はないんだがな、誰だい?」

 

「誰ってドフラミンゴだよ、船長。北の海からはるばるきたんだってよ、会ってやったらどうだ?」

 

ドフィじゃなくドフラミンゴ。ドフィの子供時代をよく知るイールの部下がわざわざそういうということは、仕事としてきたのだろう。にやっとしているのは隠した方がいいが。

 

「ああ、なるほどドフラミンゴか。情報がはやいことだ、通してくれ」

 

「了解」

 

ドフィの手配書にドンキホーテの文字はないから、世界政府の思惑が働いて天竜人だとは知られていないのだ。わざわざ訪ねてきたのはならにかあるんだろうか、儲け話でもきたか?北のシンジゲートしかまだ確立してないはずだが。

 

「久しぶりだな、ホーミング」

 

傍には部下と思われる男がいる。なるほど便宜を図ってほしくて挨拶に来たか。

 

「いい儲け話を持ってくるまで帰らないんじゃなかったのか、ドフラミンゴ」

 

「うるせえ、恩恵はすでに受けてんだろうが」

 

「笑わせるな、新世界まで掌握してからいいなさい。それはそうと何しにきた?」

 

「アンタんとこの息子が今年海兵になるんだってな。東と北じゃ昇進速度がちがうだろうが、こいつも同期になるんだ。ガープ中将とコネあるアンタに挨拶をと思ってな」

 

「はじめましてホーミング。ドフラミンゴファミリーのヴェルゴだ」

 

「なるほど、そういうことか。よろしく」

 

私はヴェルゴと名乗ったスパイ候補と握手を交わした。

 

「そういやロシナンテは知ってるのか」

 

「なにをだい?」

 

「フッフッフ、涼しい顔してお盛んなこった。アンタほどの男が囲う女だ、よっぽどいい女なんだろうが......随分年の離れた妹だか弟だかができる身にもなってやれよ」

 

思わず私は笑ってしまったのだった。


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