(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
第18話
その時、空は偉大な海賊王の最期を嘆くような曇天から雨が激しくなり始めていた。
ちょうど1年前、富、名声、力、この世の全てを手に入れた男、海賊王ゴール・D・ロジャー。彼の死に際に放った一言は人々を海へ駆り立てた。
「おれの財宝か?欲しけりゃくれてやるぜ......探してみろ。この世の全てをそこに置いてきた」
大観衆の真ん前、処刑台の上で不敵に笑いながらロジャーは世界政府と海軍の思惑を嘲笑うかのような遺言を遺して処刑された。誰もがひとつなぎの大秘宝の存在を確信して大歓声に包まれてロジャーに見向きもしなくなる。
だが、私はかつてのように海賊王の首が落ちる瞬間まで見ていた。この時、最期までロジャーを見ていた者達だけが、海賊王が首が落ちるその瞬間まで豪快に笑っていたのを見ていた。そしてまだ海賊ではなかった者達は、みな一様に脳を焼かれた。そして、脳を焼かれた者達はいずれも海賊王を目指して海に出た。
ロックスの思想に深く傾倒していた当時の私には理解し難い時代の到来でもあったが、二回目となるとその気持ちも理解できる気がする。
しかし、私達ロックス時代の人間にとっては、その言葉よりもその死に方そのものが困ったことに強烈に惹かれる最期だったのは事実だ。それはあまりにも魅惑的な誘惑だった。理想的な終わりについて強く意識せざるを得ない強烈な出来事だったのは間違いない。それは呪いのように頭に深く刻まれてしまい、もしかしたら今もなお私を蝕んでいるのかもしれない。
そんな人間達も含めて、人々がロマンを追い求め、偉大なる航路を目指し夢を追い続ける大海賊時代の始まりである。
かつてと寸分狂いなくロジャーは偉大な伝説の海賊王としての最期を終えた。
海賊王の最期をダイヤルに記憶し、ルージュに手渡した。奇跡を期待したが、残念ながら2年後、ルージュはエースの出産と引き換えに命を落とした。
護衛のガープ中将に私が愛人を抱えているとドフィに疑われていると笑い話でもしなければならないほど重苦しい航海だっだのはたしかだ。
そして、無事ガープ中将とエースを送り届けたあと、私の船は深層海流に乗り地底に沈んでいった。いつもなら操縦はスペーシア中尉達に任せて交代しながら休憩にはいるのだが、今回は緊急事態が発生したため、仕方なく船員全員を集めて、私は彼らの前に立っていた。私の前にはミンク族部隊の長にまで昇格したパンサとシデがいる。
「うちは託児所じゃないんだが、どういうつもりだい2人共」
「いいじゃないですか、せんちょー!ミンク族部隊長の僕たちが見習いやってたの8歳からですよー?」
「そうですよー!それにこの子達は結構強いですよ!なんたってイヌアラシ様達のお墨付きでーす!」
「それはさぞかし期待の新人君達だ。それこそ次の戦争に備えてモコモ公国で鍛えるべきじゃないのかい?カイドウとの決着、またつかなかったんだろう白ひげは?」
困ったことに実に久しぶりの密航者が現れたのだ。これからベガパンクに血統因子をもらいに行く大事な航海で引き返せないタイミングになってから、シデとパンサが連れてきたのはどう見ても子供のミンク族達だ。
表向きには明かしていないが、私の船の動力源やダイヤル砲の関係でミンク族の就職は月獅子を完全に制御できるようにならないと私の船には乗せないことになっている。それを知っているだろうにどういうつもりだろうか、ウミット海運に就職するだけなら見習いという形で社長に雇用人事を任せているのだが、このパターンは話が通ってないと見た。
「ところで君達、名前は?」
「おれの名前はペドロだ、そしてこいつがゼポ。ホーミング、頼む!おれ達を船に乗せてくれ!ロジャーが言ってたんだ、人には必ず出番があるんだと。今がその時だと思う!」
「たのむよ、ホーミング!今からオハラにいくんだろ?乗せてってくれよ、なんでもするからあ!」
「バスターコールされた後だ、さすがに何も残ってないと思うんだが」
「でもあの有名なベガパンクと行くんだろう!?ベガパンクなら未来の大発明で燃やした本を戻すことだってできるかもしれないじゃないか!」
「シデ、どこまで話したんだい?」
「え、ぜんぶだよ?」
「よし、明日から反省するまでニンジン抜きだ」
「ええええっ!?」
「ひどいよ、せんちょー!おーぼーだー!!」
「どうしてパンサは関係ないと思うんだい?骨付き肉抜きに決まってるだろう。ミンク族部隊も関わっているだろうから連帯責任だ、そのつもりでいなさい」
大ブーイングが起こるがなぜかイール達まで連帯責任だからと慰め始めた。これが意味することを悟った私は顔が引き攣るのがわかった。私以外の船員は全員密航者に気付いていたらしい。
「お前もか、イール?副船長ともあろうお前がまさかの首謀者かい?心底失望したよ。ベガパンクとの取引を聞かれた時点でうちの船に乗せるしかないじゃないか」
「そう言ってくれると思ったよ、船長。アンタは身内に入ればどこまでも優しい男だからな!」
歓声が上がる。
魚人族といい、ミンク族といい、私の最終計画に向けた金儲けのやり方をずっと見ているくせに、なぜそういう判断になるんだこいつらは。私は頭が痛くなってきた。頭がいかれそうだ。
ロックスの時に学んだことを活かすためにハチノスの元締めをしながら仲間との結束を重視した。それでもダメだったから私は黒ひげ達らに負けた。だから今の方針に変えたのにこれではなにも変わらないじゃないか。
なぜか脳裏にル・フェルド社長の的外れなアドバイスを思い出してしまい、舌打ちしたくなる。まあいい、今の私はワプワプの力がないから肉盾が必要なのは事実だ。
勘違いしてくれるなら自分から肉盾になってくれるだろうから、そのままにしておくか。どのみちモコモ公国と魚人島との繋がりは今更白紙に戻せないところまできてしまった。ガープ中将との繋がりを維持したり、ウェザリアとの関係を維持するためには、想定以上の性善説じみた行動が強いられている。ずっと続くならそれを前提に計画を修正すればいいだけだ。
最終的な計画に彼らが必要なのは事実なのだから。
話を聞いてみたところ少年時代に最後のロード歴史の本文を探しにゾウに来訪したロジャーと対面しており、自分も連れて行って欲しいと懇願したが断られたようだ。ロジャーは最後の航海を終えて解散を宣言したあとルージュのところに行っていた。そして自首、処刑ときたらその出番とやらが来なかったらしい。
カイドウとロジャーの戦争に参戦し、ロジャーが死んでからは白ひげが定期的に襲撃にくるためカイドウの支配は一時的に弱まっているという。直接支配にシフトしつつあるそうだが、まだワノ国のレジスタンス達は奮闘しているようだ。
戦争に参加できるくらいなら強いのは強いのか。さすがに月獅子になると暴走状態になるからできないとなると見習いにしかできないだろうが。
ネコマムシ達の役に立つ為ポーネグリフを探す探検家のつもりで航海することを夢見ていたようだ。
「またポーネグリフか......どこかで聞いた話だね、シデ」
黒ウサギのミンク族が全く悪びれない様子でニコニコと笑っている。
「僕達みたいにー、優秀なミンク族がー、奴隷になったら困るのはせんちょーですよねー!奴隷買い受けるのだってタダじゃないんだしー」
「未来有望な船員がー、賞金首になったらー、面倒なんですよね船長ー!奴隷相場が跳ね上がって社長が怒ってましたもんね、せーんちょー!」
「狙ってたな、2人共」
「あたりまえじゃないですかー、何のための密航ですかー」
「ミンク族は密航しないといけない決まりでもあるのかい、全く......」
私はため息をつくしかないのだ。
ル・フェルド社長がMADSを世界政府に破格の値段で売り飛ばすまで一年を切っている。ベガパンクから血統因子の研究データを買う約束を取り付けたはいいのだが、なぜかバスターコールでふっとばされたはずのオハラに連れて行け。連れて行かないと渡さないと取引直前にわがままを言い出したのだ。
だからこれからベガパンクを迎えにMADSに向かうのだ。これ以上なにもなければいいのだが。