(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第2話

「私の名はドンキホーテ・ホーミング。元天竜人。理由は、それでいいかな?」

 

初めから殺す気だったからろくに名前を覚える気もなかった近所に住んでいるであろう男達は運が悪かったとしかいいようがなかった。たまたま狩猟のために工作員の処刑場に足を踏み入れてしまったと思われる近隣の住人の目が一瞬で絶望に変わるのを見ていた。真横にいた隣人がヘッドショットされて吹っ飛ばされたからだろうか。

 

それとも妻を焼き殺された過去を持ちながら不倶戴天の敵と今日まで仲良くしてしまった絶望感からだろうか。ドフィ達には非加盟国のことを先に教えたからか、不用意に元天竜人だと言わないようにする知能はあったから助かった。ドンキホーテと名乗らないだけでここまで気づかないとは、顔と名前が一致しない弊害もここまでくると恐ろしいものがある。

 

男は何か言おうとしたがなにかいうまえに殺されてしまった。まだ引き金を引いてない私は少し驚いたが横を見たらさっきまでまだ生暖かい動かない的当てをしていたドフィの銃口から硝煙があがっていた。私は念の為もう一度2人の頭を撃ち抜いておいた。

 

最後の1人は一目散に逃げていった。

 

「殺さなくていいのかえ?」

 

無邪気に聞いてくるドフィには人の良心というものが微塵もない。いや家族にはあるがそれ以外にはない。いっそのこと清々しいものがある。ロックスにいたらいいところまで行けたろうにもったいない。もしかしたら、ドフィが人間落ちするのは運命だったのかとさえ思える。

 

下々民を蔑む思想がこびりついた天竜人の子供の限界なのか、それとも教育でまだなんとかなるのか、ドフィに悪の素質があるのか。まだわからないがロシーを連れて歩くよりは楽だ。撃ち殺さなくていいのは助かる。非加盟国の武器屋を襲撃するまで弾丸には限りがある。

 

「助けを呼びに行ったんだろう、あるいは武器を集めにいったのかな?どちらでもいいよ。そちらの方がこちらも楽だからね」

 

ドフィは疑問符を浮かべていた。

 

「さあ、そろそろ準備をしようか、ドフィ。昨日言ったようにこれから地獄も生ぬるい世界が私達を待っているだろう。躊躇した瞬間に私達はあらゆる責苦を受けるだろう。覚悟は......言わなくてもいいね」

 

何を今更とばかりにうなずいたドフィをつれて、いったん私達は家に戻った。

 

郵便ポストにカモメが止まっている。さすがはモルガンズが発行している世界一の新聞社だ。こんな非加盟国の田舎ですら世界中にいるジャーナリスト、情報屋から得た情報をまとめ、ニュース・クーがちゃんと指定した時間に記事を配達する。

 

「新聞がどうしたんだえ、父上」

 

私はこの新聞社が今朝ロシーと妻を匿ってくれたんだと教えてやった。

 

「へえ」

 

ドフィは興味が湧いたのか新聞に目をやる。

 

「ロシーは海兵の方が向いているし、妻は読み書き計算ができるし感性がまともだ。新聞社に就職するには申し分ないだろう。私の凶行で心労で早死しなければの話だがね」

 

私についてくる決断をしたとはいえ、妻の安否を気遣いもしない私の非道さにドフィは眉を寄せた。このあたりはまだまだ子供だ。

 

「......父上は母上のこと、嫌いなのかえ?」

 

さすがに大好きな母上を侮辱されたと思ったようだ。私は首を振る。

 

「好きだよ、世界で1番。愛しているとも、今もなお。あの人魚姫の素晴らしい演説に感銘を受け、奴隷の解放と地位向上を願う純粋さは惚れ惚れする。天竜人を辞めて人間になりたいと私に懇願しなければ、私は馬鹿げた妄想を実行に移すことなく一生を終えることができただろう。だがそうはならなかった。だからここで終わりなんだ、ドフィ」

 

「..................」

 

「私が憎いならいつでも受けてたとう、ドフィ。責任を持って私はお前の頭を撃ち抜いてあげよう。どうする?」

 

ドフィは首を振る。

 

「まだいいえ。殺されるくらいなら、殺せるくらいまで強くなるえ。つまり、父上は家族より野望をとったのかえ?」

 

「それ以前の問題だよ、ドフィ。遅かれ早かれ、いつかは世界政府の工作員が私達が元天竜人だと吹聴し、私達に憎悪が向く。対抗策がなければ暴力に晒されるだけだ」

「そこまでわかってたなら、なんで今まで黙ってたんだえ?全部教えてくれたなら、きっと母上も踏み止まってくれたえ」

 

「ドフィは賢い子だね。その賢さは武器だ」

 

「父上、答えになってないえ」

 

眼光が鋭くなる。私は懐かしさすら覚えた。天竜人だからこんなに小さいのに覇気に目覚めかけているのか、それといきなり平和な世界から私が地獄に堕ちようと誘ったせいか。ドフィには王の素質がある。環境が悪に傾かせるか、善に傾かせるかというところだろうか。可哀想な子だ、手を離せばよかったものを。手を離さない限り待つのは悪の道しかないというのに。

 

「答えは簡単だ。ロシーに私を殺しにくる立派な海兵になってもらうためだよ。母上が死ねばその殺意は復讐心となり、かならず私に向くだろう」

 

「......父上、ほんとに母上のこと愛してるんだえ?」

 

「愛情は無限ではない、有限だ。いつかはなくなる。臨界点に達すると憎悪に変わるんだよ、ドフィ。本当ならドフィもモルガンズの船に乗るはずだったんだが予想外だった。賢いお前なら迷うことなく海兵になる道を選ぶと思ったんだが」

 

私の言葉にいよいよドフィは黙り込んでしまった。私は世界経済新聞をおもむろに広げた。

 

この世界経済新聞は世界中のほとんどの地域に配られており、世界政府による検閲・情報操作こそあるが、手紙を確実に届けることさえ難しいこの世界において数少ない安定した情報源である。 この世界のメディアとしては最大手だ。

 

時には政府にさえ逆らうので、自社の言うことだけを聞くニュース・クーも多数抱えているからこそ、私はこの新聞社に賭けたのだ。あの男はビッグニュースのためならどんな飛ばし記事だって書くだろう。

 

たとえば、元天竜人が一夜にして非加盟国の迫害に耐えかねて国を滅ぼした、みたいな荒唐無稽な話でも。世界政府が隠匿するような事件でもこの新聞社だけは面白ければ載せるとロックス時代に学んだ。

 

朝、ポストからこの新聞をもってきて読んだこの国は大混乱になるだろう。

 

「さあ、よく読んでおきなさい、ドフィ。情報というものはこう使うのだ」

 

世界経済新聞を差し出しながら、私は笑いかけた。これは飛ばし記事ではない。これから現実になる予言となるのだ。

 

今この瞬間からこの国は絶え間なく激しい戦闘状態におかれ、いつ落命してもおかしくない激戦地と化す。駆廻った祖(おや)の血潮はドフィの血肉となるだろうことを期待している。

 

「ドフィは素質があるよ。もしかしたら、私よりもはるかにね。だから経験を積みなさい。私はひとつの場所に止まる気はない。ただひたすら放浪して回るつもりだ。いつかその手を離したくなるときまで、この理不尽に歪んだ世界を生き抜く術を私から学ぶんだ。弱者は死に方すら選べないからね」

 

覇気というものを教える前に身をもって体験させるために私はドフィに家に入るようつげる。覇気を放つ。この体でどれだけ練り上げられるかわかったものではないが一般人しかいないこの国で耐えられる者などいないはずだ。いたらいたらで殺し甲斐がある。ロックスの船を降りてから朽ちていく一方だった体を全盛期のまま保つにはやはり安定は最大の敵だと私は身をもって知っているのだ。

 

やはりドフィは気絶してしまったが死にはしないはずだ。私はありったけの武器を持ち街に出た。気絶している住人たちをひとりひとり念入りに殺していく。おそらくドフィはしばらくしたら目を覚ます。覇気に耐えて私に襲撃をしかける上で家を標的にする者がいたらどうするか見せてもらおう。撃ち殺されていたらそこまでだ。


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