(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第20話

ベガパンク博士が花を手向に行きたいほど思うほど、オハラのクローバー博士と交流があるとは知らなかった。天才科学者と考古学の世界的権威だからシンパシーを感じるものがあったのだろうか。

 

クローバー博士といえは3ヶ月前西の海にある考古学の聖地オハラで学者達と共に、法律で固く禁じられているポーネグリフの研究を極秘裏に行っていた。世界政府の情報操作により古代兵器を復活させて世界を滅ぼそうとする悪の集団というレッテルを貼られているはずだ。

 

そして生き残りが悪魔の子ニコ・ロビン。オハラの唯一の生き残りでポーネグリフを解読し、空白の100年に近づける危険性を考慮され、8歳にして7900万ベリーの懸賞金が懸けられた。

 

軍艦6隻を沈めて、第一級危険因子と定められたのが表向きの理由だが、この段階でハナハナの実の能力者として覚醒しているわけがないから世界政府お得意の捏造報道なのだろう。

 

「あの子も可哀想になあ、海賊王になるにはポーネグリフの解読が必須なんじゃろ?今や読めるのはロビンかワノ国の一部しかおらん。写本を四皇から奪うより、子供攫った方がはやいもんのう」

 

「世界政府が許さないでしょうね」

 

「隠れ蓑にした組織を狙われて尾ひれがついて回ると。お前さん、ロビン見かけたら保護してやったらどうじゃ?」

 

「運良く見つけられたらそうしたいんですけどね、なかなか。しかし、クローバー博士とそんなに親しかったんですね、天才同士なにか感じるものがあったとか?」

 

「あー、別にそんな大層な理由じゃないわい。クローバー博士は若い頃はかなりやんちゃだったんじゃよ」

 

「え、そうなんですか?」

 

ベガパンク博士曰く、若いころは空白の100年に執着した冒険家としてクローバー博士は世界的に有名だったようだ。文献を求めて世界中を探検し、海軍に逮捕・投獄されること10回以上。

 

やがて世界一有名な考古学者になり、彼に感銘を受けた学者が集まったのが考古学の聖地の始まりだったとのこと。ベガパンク博士はクローバー博士が世界中を飛び回り、歴史の資料を集めている時に仲良くなったらしい。

 

「やんちゃの域を軽く超えてませんか?むしろ今までよく警告だけで済ませましたね、世界政府」

 

「ロックスじゃあるまいし、一般人相手なら世界政府はいきなりバスターコールはせんよ。ツキミ博士のときも同じじゃった。ただ、学者というのは、科学者と同じで興味があることを禁じられるとますます調べたくなるサガなんじゃ」

 

「なるほど、そういうものですか。しかし、不自然なほど軽い罪ですね」

 

「そりゃそうじゃろ。空白の100年に対する厳罰をすれば、それが真実であり政府の弱みである証拠も同然じゃ。単なる冒険家がインペルダウン行きはおかしすぎるじゃろ」

 

「たしかにポーネグリフを探してたミンク族の賞金首がうちにいますが大体相場ですね」

 

「普通ミンク族は1000万ベリーもつかんから、よく考えたらおかしいんじゃがな」

 

「たしかに。普通なら高くて500ベリーくらいですね」

 

「ミンク族は知られておらんからな、見かけたら所属する海賊が近くにいるという意味での賞金しかかからん。注意喚起のな」

 

私の横でペドロ達が下手したら賞金首だったのだろうかと思いを馳せている。

 

「待ってください、ベガパンク博士」

 

私は思わず止めた。島の中央の湖に投げ入れられた膨大な数の本の山をどこかに運び出そうとする巨人族達が見聞色で見えたのだ。

 

おそらくあれはオハラの本だ。バスターコールを前に燃えないことに全てを賭けて、自分の命を犠牲にしてまで本を最期まで投げ入れたに違いない。

 

生き残りがいないか上陸した海兵達は、下手に触れたら自分達が消されると考えて見て見ぬ振りをしたのだろう。考古学者達の執念をみた気がした。

 

「なんじゃと?巨人族の連中が?せっかくオハラが遺した本の価値がわかるのか?それともたまたま見つけたから?後者じゃったら最悪じゃ!」

 

「あの格好や意匠はエルバフの巨人族ですね。海兵ではなさそうだ、盗賊かな?」

 

「なんでグランドライン新世界の巨人族がわざわざ西の海に来るんじゃ。巨兵海賊団じゃあるまいし。あれはたしか100年前に解散したんじゃなかったのかの?」

 

「私に聞かれても理由なんてしりませんよ。もしかしたら若い巨人族なのかもしれないな」

 

私達が困惑しているのは、巨人族が人間と正式に交流を図るようになったのは今から80年ほど前の話だが、それまで巨人族の存在を知る人間にとっての巨人族は脅威そのものでしかなかったからだ。

 

その当時、巨人族で構成された海賊団「巨兵海賊団」が世界中で暴れ回っていて、その圧倒的なパワーに海軍も碌に手を出せず、半ば野放しの状態だった。なぜか巨兵海賊団は二人の船長が海賊団を離れざるを得なくなり、油断した残党が海軍に逮捕されて処刑されることとなった。

 

しかし、その処刑場に現れたシスター・カルメル、ビッグマムの恩人により彼らの処刑は免除され、海軍にも巨人族が入隊、やがて巨人部隊が設立されるまでに至ったのは知られた話だからだ。何百回も聞かされたからよく覚えている。

 

たしかに今では海兵として海の平和のために戦う者、海賊として各地を荒らしまわる者、あるいは人間社会で人間と共に普通の生活を送っている者なども存在し、偉大なる航路では比較的その存在を認知されてはいるが、外海ではまだそこまで認知されていないはずだ。

 

こんなところまで活動範囲としている巨人の海賊団なんて聞いたことがなかった。モルガンズがほっておくわけがない。

 

「その心配には及ばないぞ」

 

いきなり声を掛けられて、私はとっさに銃口を抜いた。巨人族が気づかないよう見聞色はセーブしていたのだが気づかれていたようだ。しかも私が全く気づけなかった。ただものじゃない、誰だといいかけた私に黒いローブを着た男がいた。

 

「そんなに覇気込めないでくれ、ホーミング。私はまだ何も成し得ていないからな」

 

「あなたはたしか自勇軍の......」

 

「久しぶりだな、ベガパンク。あいかわらず目立つ頭だ、一目でわかる」

 

「お前はドラゴン!なぜここに!?」

 

「そりゃこっちの台詞だ、ベガパンク。また一段と頭が肥大化したな。おれはクローバーのおっさんと面識があってね」

 

「なんとお前もか」

 

「ホーミングは護衛か?」

 

「まあ、そんなところですね」

 

「なるほどな。あの巨人族達が気になるか?盗賊じゃない、さっき調べはつけておいた。エルバフからやってきたようだが彼らはあの文献の価値を知っている。船長は全身に包帯を巻いた奇妙な男だったが。オハラが命懸けで遺した財産はこのまま歴史に消えさせやしないといっていた」

 

「エルバフに運ぶつもりなんですかね、全部?」

 

「そうだろうな」

 

「すごいですね、さすがにうちでもあの量を運ぶのは何日かかるかわかったものじゃない」

 

感心しているとドラゴンはMADSが世界政府に買い取られ、ベガパンクとシーザーがそのまま所属するのを世界政府の犬になったと怒り始めた。それをベガパンクは貧乏軍隊になにがわかると一刀両断する。

 

実際ルフェルド財団がMADSを世界政府に売り飛ばすのは支援してくれと求められる金が倍々になり破産しかける寸前だったからという世知辛い裏事情があるのだ。ぶっちゃけ話に拍子抜けしたのか怒りをおさめたドラゴンだった。呆れ顔でもある。

 

「うーむ、エルバフかあ......読みたいなー、でも私は世界政府所属になるから研究室におくわけにもいかんしなー、でも読みたいなー」

 

「ちらちら見なくても彼らに交渉してもらえるならお送りしますよ、うちに興味ある子達が沢山いるんでね」

 

「よっしゃ、追加の経費も同じように世界政府に請求してくれ。適当にでっちあげてな」

 

「わかりました」

 

「堂々としてるが世界政府に請求するのか、ホーミング」

 

「ボランティアで渡航許してたらうちが倒産しますからね」

 

「どこも世知辛いもんだな」

 

「ほんとですよ、全く」

 

「交渉するなら、おれも同行しよう。知らない奴だけでするよりは、スムーズにいくはずだ」

 

「わかりました、ドラゴンさんの分まで請求書に入れときます」

 

「よろしくな、ホーミングのおっさん」

 

「誰がおっさんですか。初対面の癖に失礼ですね貧乏軍隊の分際で」

 

「気に入ったのか、そのフレーズ?というか、17と15の子供がいるなら、33のおれより確実に年上だろう。なんで怒ってるんだ?」

 

「変なとこだけ似てますね、あなた達」

 

ドラゴンは軽く笑った。

 

「よし、行くぞドラゴン!私の頭脳をもってすれば水没した書物であろうがポーネグリフだろうが読み解いてやるわい!」

 

「もうすぐ世界政府所属になるのに正気か、ベガパンク」

 

「なにをいっとる!目の前に誰も知らないことがあれば知りたくなるのは学者のサガじゃ!」


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