(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
「クハハハハ、最悪の戦争仕掛け人が隠居したのをいいことに王直と組んでいい空気吸ってんじゃネェか、ホーミング」
「おはようございます、サー・クロコダイル。デンデン虫ごしではありますが、この度はアラバスタの拠点完成おめでとうございます」
「ハ、ありがとよ。言葉だけは受け取っといてやるぜ」
「ありがとうございます。ところでこんな朝早くからどうかされましたか?いい儲け話でも?」
「あったとしてもテメェにだけは回さねえ。しらばっくれんじゃねェよ、人堕ちが。おれは苦情がいいてェんだよ」
「苦情?なんのです?アナタ、うちのサービスいっこも使ってないじゃないですか。間接的な案件ならお客様サービスダイヤルがあるんでそちらに回しましょうか?24時間対応してるので」
「違うに決まってんだろうが、馬鹿野郎ッ!パーティに呼ばなかった程度で随分とヒデェことするじゃねぇか、エエ?なんで楽園のアラバスタに新世界レベルの海賊がきやがるんだ、テメェは!調べはついてんだぞ、どうやってハチノスの奴らを焚きつけやがった!」
「嫌ですね、八つ当たりしないでくださいよ。新進気鋭のアナタがそんなところにいるから狙われているだけでは?」
「王直の野郎と全く同じこといいやがって。おれが一番嫌いなタイプだ、テメェはよ」
「それは残念ですね、私はアナタのことはそれなりに評価してるつもりなんですが。海賊の決闘は常に生き残りを掛けた戦いであり、卑怯なんて言葉は存在しないって言ったのは他ならぬアナタでしょうに。あの言葉聞いてから私アナタのファンなんですよ」
「......いつの話をしてやがる」
「白ひげに負けた程度で大人しくなるアナタじゃないでしょう、サー・クロコダイル」
「............二度とその言葉を口にするな、今度口にしたら八つ裂きにしてやる」
「失礼ですね。大体どうして私にかけてくるんですか?文句は王直かうちの社長にいってくださいよ、サー・クロコダイル。ジェルマまで噛んでる儲け話に何故かうちだけハブられたんだ。唯一できる英雄になるお手伝いがこれなだけですけど」
「テメェらの力なんざいらねえよ、誰が頼んだ。もう一度いうが白ひげと深い繋がりのあるテメェとだけはどんなに小さな取引でも死んでもしねえし、受ける気はネェ。覚えとけ」
「はあ?なんでそうなるんです?何勘違いしてるのか知りませんがね、私が信じているのは金儲けとウチの社員だけなんですよ。ひどいのはどっちですか、冤罪ですよ冤罪。誤解もいいと.....って、もしもし?もしもし」
スンとなってしまったデンデン虫にため息をついた私は受話器を置いた。
「言いたいことだけ言って切りやがったあの野郎。今回はもう少し仲良くやれると思ったんだがダメだな、どうにもあの男とは相性が悪い」
真横で私とクロコダイルの会話を盗み聞きしながら、必死で笑いを堪えていたイールがとうとう我慢をできなくなったのか、大笑いし始める。警備している部下達もイールにつられて笑い始め、私は肩をすくめるしかない。
どういう訳か前も似たような経緯で一方的に敵視され、最後まで相手にすらしてもらえなかった覚えがある。今回はバロックワークスの最終目標が古代兵器プルトンだと知っているからこそ、うまいこと交渉に行きたかったのだが、ごらんの通りの有様だ。とりつく島もなかった。
話さえ聞いてくれれば、絶対に交渉のテーブルにつかせる自信があったのだが。
「あはははははッ、相変わらずだな、船長。儲け話に勘づくのは誰よりも早かったのに。アンタでもうまくいかない交渉相手がいるんだな」
「残念ながらそのようだ。さすがの私も初めから全力で拒否されたらどうにもならないということだね。独自ルートでポーネグリフを読みたいなら、頑張ってロビンを探し出してもらうしかないな」
「そうだな」
「また社長に怒られるな......」
「クロコダイルはいつものことだろ、ダメでもともとじゃないか」
「まあ、そうだな。落ち込んでいても仕方ない、切り替えていこう」
まあ本命はアラバスタ襲撃をするハチノス所属の海賊達の中から良さそうな能力者達を探し出して、血統因子を集めたいだけだからいいのだが。あわよくばスナスナの実のデータも欲しかったんだが仕方ない。世界政府がやることとほぼ同じなんだから、もともと律儀に合意なんか得る必要はない。
「それで何の話だったかな、イール。邪魔が入ったせいですっかり話が飛んでしまったんだが」
「タイガーがリュウグウ王国に久しぶりに帰ってきてるって話だ、船長」
「ああ、そうだった、そうだった。イール達憧れの魚人冒険家フィッシャー・タイガーだったな。会わせてくれるんだって?大丈夫なのか?私は人間だが」
「人間になったアンタだからこそさ。アンタのこと、ウミット海運のこと、是非ともタイガーに紹介してやりたいんだ。今の魚人島のこと何も知らないはずだからな、タイガーは。きっと驚くと思うし、喜んでくれるはずだ」
「そんなにいうなら会ってみたいな、予定を調整するから部隊長を全員呼んでくれるか。ルージュの時みたいに仕事を振り分けたいんだが」
「わかった、待っててくれ。すぐみんなを連れてくるから」
扉を閉めもしないで走っていったイールを見届けて、私は予定帳を開いた。緊急性の高そうな依頼はオペオペの実の受け取りくらいだ。
「......オペオペの実か」
この言葉を見るたびに苦い思い出が蘇ってくる。あの男が台頭してくるのはまだまだ先のはずだが、決して気持ちのいい言葉ではない。
しかもこれまた結構胡散臭い依頼なのだ。いつもの信頼度の高いギバーソンからの依頼ではなく、手配書しかみたことがない男からの依頼だ。ギバーソンからは本物かどうか鑑定してやるからとりあえず持ってこいと言ってはもらえている。ただ、あのオペオペの実をたった50億で売りたがる奴がこの世にほんとにいるのだろうか正気を疑う話ではある。
オペオペの実は人系悪魔の実の1つ。ハートの形をしており、オレンジくらいの大きさ。 食べると「改造自在人間」となり、放出するドーム状のエリア内で移動、切断、接合、電撃など一般的に外科手術で必要なあらゆる行為を自在にできるようになる。
この能力による移動や切断や接合は通常の外科手術とは異なり、瞬間的に入れ替えたり、違う生物同士で身体をくっつけたり、逆にバラバラにした状態でも生かしたりも出来る超常的な改造能力である。 これにより人間の人格を入れ替えることすら可能。
また、医学的知識と技術が伴えば、後述する不老手術さえも施す事もできるという今までの悪魔の実の中でも際立って高性能な実となっているため、究極の悪魔の実と呼ぶ者も少なくない。このような医療に特化した実であるため、かつてこの実を口にした者の中には世界的な名医になった者もいたという。なお不老手術をしたオペオペの実の能力者は死ぬ。
医療知識がある人物でないと能力を万全に発揮することはできず、能力を使用する度に体力を著しく奪われるというデメリットも一応存在する。だが上記の様な能力の強力さから、悪魔の実の一般的な相場1億ベリーの50倍である50億ベリーでも安すぎるシロモノなのだ。
受け取り場所に指定されているのが北の海なのがまた不吉な因縁を感じてしまう。
予定調整の最中、私が手帳を睨んでいることに気づいたパンサが覗きこんできた。
「そんなに心配なら、僕達がいってこようか?せんちょー」
「......あまりにも胡散臭いからな、嫌な予感がしたらすぐに撤収しなさい。死んだら元も子もないからね」
「はーい!」