(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第22話

私がイールと共に魚人島に到着したとき、すでにリュウグウ王国全体がフィッシャー・タイガーの久しぶりの帰還に沸いていた。王国の部隊、海賊、一般市民でごったがえしており、みんなタイガーに会いたくてたまらないのか探しているようだった。

 

「みんな考えることは同じか。このままだといつ会えるかわからない。ちょっと見てみようか。どんな姿か教えてくれるか、イール」

 

「そうだな、みんな浮かれてるみたいだ。ありがとう船長。タイガーはタイの魚人らしく赤みがかった肌が特徴で、大きな男だ」

 

「どうやら竜宮城にいるようだね。謁見しているようだ」

 

「そうか、なら移動しよう。アンタなら顔パスでいけるだろう」

 

「親しき仲にも礼儀ありだ、イール。ちゃんと手続きしてから入ろう」

 

イールのいうとおり、荒くれ者が集う魚人街の出身だが非常に度量が広いらしい。見聞色だけを頼りにするわけにはいかないので、タイガーが魚人街に入るまで街のリーダー格だったのちの王下七武海ジンベエを始め、アーロンやマクロと軽く会話をした。みんな竜宮城にいったと教えてくれた。それだけで誰からも尊敬を向けられるカリスマ性がうかがえる。

 

「お待たせ、イール。いこうか」

 

「忘れ物なんて珍しいな、船長。今日は遊びに来たんだからカバンなんか......。いやまて、待ってくれ、まってくれ!なんでそのカバンわざわざ外までもってきてんだ、アンタ!」

 

「必要になるかもしれないからね、念のため持ってきたんだ」

 

「なんか見えたのか?」

 

「現実にならなければいいんだけどね」

 

私の気休めな言葉は、幾度となくその精度に助けられてきたイールを完全に無言にさせてしまった。

 

「船長、おれは本当にただタイガーに会って欲しかっただけなんだ。それだけなんだ。そこに別の意味でなんか微塵も無かった。信じてくれ」

 

タイガーがネプチューン王とオトヒメにマリージョアにいる天竜人の奴隷たちを解放することを宣言した。まさに決定的瞬間に遭遇してしまったことを悟ったとき、イールは今にも死にそうな顔をしていた。

 

竜宮城をあとにして、人目を避けるように私達は歩いた。

 

「未来が見えるというのなら、これからおれが何をしようってのもわかるんだろう。止めに来たのか」

 

「話を聞きに来たんです」

 

「なんだと?」

 

「私はたしかに未来は見えますが、オトヒメ様と違って、あなたの声が聞こえてくるわけではないんです。だから知りたくて来たんだ。話を聞いておかないと、あなたの行動を正しく理解できませんから。フィッシャー・タイガー。あなたは復讐をしたいのか、 解放したいのか、どちらですか。それともどちらもですか」

 

「言ってる意味がわからないんだが」

 

「ああそうか、なるほど。あなたはイールと違ってまだ殺しをしたことがないんですね。なら聞き方が悪かった。一度でも殺してしまうと、簡単に選択肢に入っていけません。もっと具体的にいいますね。あなたは天竜人を殺したいのか、奴隷を解放したいのか、殺しながら解放したいのか。どれですか?」

 

長い沈黙が降りた。

 

「答えたらなにかかわるのか?」

 

「だいぶ変わりますね。主に私のこれからの行動が」

 

「何で聞くんだ」

 

「今がその時かどうか見定めたいんですよ」

 

「その時?」

 

「イールはあなたを心の底から尊敬していますから、あなたのやりたいことを台無しにしたくないんです。選択を誤りたくない。うちの社員達と今の関係が崩れかねないんでね」

 

「おれは......おれは、天竜人に囚われたままの奴隷を一刻も早く救ってやりたい。1人残らず解放してやりたいんだ。そいつが誰かは関係ない、すべてをだ。どうやってるのかはわからないが、天竜人がきてるオークションですら、アンタのおかげでイール達を最後に魚人と人魚の奴隷は天竜人のところに渡っていないようだ。なら、今いるやつらを解放してやれば、少なくても数日はマリージョアから奴隷が消える日ができる。殺しはしたくない。それは人げ......あいつらと同じだ」

 

「無理して言い直さなくてもいいですよ。私は初めから人を殺せる人間ですから」

 

「あんたはよくてもおれが嫌なんだ」

 

「そうですか」

 

私は初めから用意していた2つのうち1つの封筒を手渡す。

 

内容は以下の通りだ。

 

惑星を一周する赤い土の大陸に存在する、天竜人や五老星の住まう聖地。 それがタイガーの目的地である。いわば世界政府における首都に等しい地点であり、4年に1度世界政府加盟国の集う世界会議場もここで開催される。

 

その天然の要塞と呼べる地の利もあり、立ち入れるのは世界政府関係者のみ。王下七武海ならびにある人物は例外的に立ち入りが可能で、海軍本部との軍議や五老星との会談に向かっている。

 

天竜人は元々、800年前に世界政府を作った20人の王の子孫である。うちアラバスタ王国のネフェルタリ家を除く19の王家はマリージョアに移り住み、そこが聖地となった。

 

なお、真下には魚人島が存在し、陽樹イブが光を海底1万mまで届けている。

 

マリージョアの両端には赤い港<レッドポート>と呼ばれる港があり、ボンドラを利用してエレベーター式に昇降し、出入りする。港からはトラベレーターと呼ばれる巨大な動く歩道があり、地下にいる無数の奴隷により人力で動かされている。

 

トレベレーターを抜けた先にはパンゲア城と呼ばれる巨大な城がある。城には上記の世界会議の会場や、出席者が集う「社交の広間」、五老星の執務室「権力の間」などがあるが、会議に出席する各国の王はある部屋に通され、誓いを立てる必要がある。

 

その部屋には20本の武器が刺さり、虚の玉座が構えられている。世界政府を作った20人の王が「権力を独占しない」という誓いを立てるために作ったものであり、そこに「誰も座らない」ことで平和の証としている。

 

パンゲア城の先には天竜門が聳え立ち、その先には天竜人が住まう「神の地」が存在する。この先には海軍ですら立ち入ることはできない。

 

神の地内部の地図と建物の見取り図。警備体制の詳細など覚えていることを全て書き出したものを渡した。ざっと目を通したタイガーは私をみた。

 

「もう18年前も前の情報になりますから、どれだけ正確なのかはわかりません。でも事前情報無しで闇雲に暴れ回るよりはよっぽど効率的に立ち回れるはずですよ」

 

「この×印はなんだ?」

 

「そこは私が行きたい場所への入り口なので、絶対に行かないで欲しいんです。オハラのようになりたくなければ見て見ぬ振りをしてください」

 

「オハラ?」

 

「後で調べればわかりますけど。わかりやすく言うなら、世界政府に魚人島を地図から消されたくなければ、見なかったことにしてください」

 

「ホーミング、そんなことしてあんたは大丈夫なのか?いや、違うか。天竜人が人間になりたいってだけで、そこまでしなくちゃならないのか?」

 

「残念ながら、今の世界はそうみたいですね」

 

「そうか......なんて世界だ」

 

タイガーが資料を掴む手が白み、紙に皺が寄った。

 

「なあ、よければそちらの封筒ももらえないか」

 

「なぜです?」

 

「おれの決意は間違ってなかったんだと納得したいんだ」

 

「そうですか、わかりました。ただし見るだけですよ。見たらこの場で燃やしますから」

 

私はライターを準備し始める。

 

「タバコの匂いがしないのに、やけに手際がいいな」

 

「タバコ以外にも使い道は結構ありますよ、ライター」

 

ざっと目を通したタイガーは深い深いため息をついた。

 

「オトヒメがあんたの心の声は聞こえたことがないと嘆いていたよ」

 

「おや、そうなんですか」

 

「心の声が聞こえないほどに静かだと。真っ暗だと。太陽の光が届かない海の底みたいだと。だが......これを見る限り、聞こえなくて正解だな。気を遣ってくれてるんだろう?ありがとう」

 

「リュウグウ王国にはいつもお世話になっていますからね」

 

そして後日。フィッシャー・タイガーは世界政府の本拠地・聖地マリージョアを襲撃し奴隷解放を行い、世界政府に指名手配され、奴隷達の救世主として崇められることになる。

 

そして同日、私はこの世界の神の存在を確信することになる。

 


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