(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第23話

ずっと息を殺していないとダメだとあれだけ切羽詰まっていたのに、なぜか気絶していたようだった。痛みを覚えてあたりを見渡すと咄嗟に隠れていたはずの樽がない。代わりに何故か無数の糸があたりに散乱していて、その真ん中におれはいた。覗き込んでくる複数の顔、かお、かお。いやでもどういう状況なのか思い知らされる。

 

起きようとすると銃口を向けた男が立っていた。

 

「不運な奴だな、気絶してりゃあ一発でいけたろうに。悪いがこの船はただのガキが乗っていい船じゃないんだよ。乗る船を間違えたな密航者」

 

深層海流とか天上金とか周りの男達が聞いたことがない単語を交えながら話しているから異世界に来たみたいな気分になる。なんとなく雰囲気で目の前のサングラスの男が船長で、周りの男達、少し離れたところにいる子供がみんな船員なんだろうと理解した。

 

密航者に気づかないまま出航した不始末をどうするのか話し合っているようだ。

 

「おれをアンタらのファミリーに入れてくれ!」

 

ようやく目を覚ましたおれは慌てて叫んだ。なんのために死体の山に紛れて国を越え、ドフラミンゴファミリーがいるアジトを突き止めたと思っているのだ。

 

おれがこのファミリーを選んだのは北で1番有名な海賊だからだ。有名ってことは沢山人を殺してるってことだろう。

 

そしたら、なんかの用事でアジトから出航して長旅とか聞こえてきたから、あわてて乗り込んだのだ。ここで射殺されたら全ての苦労が水の泡だ。

 

「この船がなんの船なのか知った上でいってんのか?」

 

「3年以内に沢山殺して、全部ぶっ壊したいんだ。それがアンタらにはできるだろ!ドフラミンゴファミリーなら!」

 

「フッフッフ、虚勢を張るのはお前の自由だがどこの誰だテメェは」

 

どうやら話だけでも聞いてくれるようで、男は銃を向けたままだが教えてくれた。

 

「おれはローだ。フレバンスから来た」

 

「3年以内ってのはなにが根拠だ?まともに診断してくれる医者がいたんなら、なんで逃げてきた?」

 

「死んだ親が医者だった。医療データを見ればわかる。3年2ヶ月後におれは死ぬ」

 

「医者ねえ」

 

そう宣言したおれに、目の前の男は鼻で笑った。そして、大量の紙をおれの頭の上にぶちまけた。真っ白になる視界からあわてて這い出すと影が落ちた。男がのぞきこんできた。

 

「フッフッフ、なら3年もかける必要はねェ。今ここでおれ達を皆殺しにしてみろ。そしたらお前の希望は叶うわけだからなァ」

 

意味がわからなかった。どさ、とフレバンスと書かれた本が投げつけられる。ぱらぱらとページがめくれ、かつての繁栄していたフレバンスの街の写真があった。

 

フレバンスは北の海にかつて存在していた王国だ。地層から採取される「珀鉛」という鉛の影響で国全体が童話の雪国のように一面白一色なため「白い町」とも呼ばれ、かつては人々の憧れの町であった。

 

珀鉛を一大産業としていたが、珀鉛に含まれる毒は過度に掘り起こすことで人体に悪影響を及ぼす。

 

王族と世界政府は産業が始まる100年以上も前に国の地質調査でその事実を知りながらも珀鉛が生み出す巨万の富に目が眩み事実を隠蔽していた。

 

やがて国民が遺伝による子世代の毒蓄積により一斉に珀鉛病を発症すると王族は政府の手引きで早々に脱出し、珀鉛病を伝染病と思い込んだ周辺諸国は他国へ通じる通路を八方から封鎖し隔離処置を取り、他国への亡命や治療を希望する者たちも迫害され射殺された。

 

そして世界政府もこういった事態の解決に一切走らなかった。

 

生き残った国民たちは珀鉛でできた武器を使い抵抗を試みて全面戦争が勃発。これに対する反撃という口実を得た周辺諸国から一斉攻撃を受け、周囲から火を放たれて滅亡した。

 

おれは家族、友人、恩師の全てを殺されながらも、死体の山に紛れて隣国に脱出し、珀鉛病に蝕まれながらもドンキホーテファミリーの船に乗り込んだのだ。

 

何の罪もない国民が病に苦しみ、周辺国の軍勢に一方的に虐殺されていく光景は今なおおれを苦しめている。なにもできないまま死んでたまるかと悔しさを噛み締めるおれを男が笑っている。

 

「冥土の土産に教えてやろうか。たしかにテメェの国フレバンスを滅ぼしたのは世界政府を通じて真っ先に逃げ出した王族どもと世界政府。情報操作を間に受けて迫害した挙句に燃やし尽くした周りの加盟国だ。だが、それをお膳立てしてやったのはおれ達だ」

 

ドフィと周りに呼ばれている男は、おれにぶちまけた資料はフレバンスの仕事の成果だといってきた。包囲する加盟国に世界政府がどうやって金や武器をばら撒いたか。フレバンスにどうやって腐るほどの武器をばら撒いたか。闇の世界の組織がどうやって入り込んで、どさくさに紛れて好き勝手して金を稼いだか。

 

処刑された遺体が持ち去られて実験に使われた挙句に冒涜の限りを尽くされた現実を見せつけてきた。

 

ドフラミンゴファミリーが悪のシンジゲートだとは知ってたつもりだったけど、おれは仇の船に乗ってしまったらしい。

 

「これが北の闇だと海軍はおれ達を好き勝手いいやがるが、マッチポンプってのはこのことだ。運がなかったな。生まれた場所が悪すぎたんだよ、自分の不運を恨みな」

 

フレバンスの本を拾いあげ、遺体を晒している写真のページをおれに見せつけてきた。

 

「フレバンス全土の死体はこうしてまとめて雑に土葬されるわけだ。そんでこれが何百年もたってできた地層の成分だ。医者っていうんなら、このデータがなにを意味すんのかわかるよなあ?ちなみにこの写真は今のフレバンスじゃねえ、前の虐殺んときの記録だ」

 

「......前の虐殺ってなんだよ。それじゃあまるで......」

 

おれはおぞましい事実に気づいてしまった。前の虐殺という写真の横に記載された数百年の文字。同じ場所で撮影された珀鉛が発見された写真。おれ達が今まで珀鉛と呼んできた鉱物の主成分はまさか。

 

「こうやって何百年も放置して、いい感じになってきたら掘り返すんだ。歴史は繰り返すっていうが、そりゃあ何が何でも感染した国民を執拗に虐殺するよなァ。次の機会が永遠に来なくなっちまうんだから」

 

「その本はなんなんだよ、なんでそんなもん持ってんだアンタッ!!」

 

「大人になっても勉強はしなきゃなんねーんだよ。まあ、今回のフレバンスはあれがなくてもどのみち滅んでたと思うぜ。よりによって太陽十字を信仰してやがったんだからな」

 

円の中に十字を描いた宗教における太陽のシンボル。太陽神の乗る戦車の車輪から派生したものとされると書いてあるページを男は見せてきた。シスターが持ってた十字架だ。

 

「どうせてめえも教徒なんだろ?」

 

「おれは別になにも信仰してない」

 

「嘘つけ、興味ねえやつが涙ぐむかよ。どうせ近くの教会のシスターでも思い出したんだろ?いいか?意識しないほど生活に馴染んでるってのは、立派な信仰だ。この世界では十字太陽信仰は最大の禁忌だ。普通の十字架には円はないんだよ。世界政府が研究を禁止してる歴史に関係あるからな。つまり、信仰してるだけで罪なわけだ。太陽十字を信仰している国はかならず世界政府から消されるんだよ」

 

おれは愕然としてなにもいえなかった。男が次々とぶん投げてくる情報量の多さを受け止めることができない。このままどうあがいてもフレバンスは滅びる運命だと言い捨てられて撃ち殺される現実が横たわっていた。

 

引き金に指がかけられる。おれは男を睨みつけていることしか出来なかった。すると何もない空を不意に男が見上げた。

 

「運がいいやつだな」

 

そして銃をしまった。

 

「もうすぐおつるの船が来やがる、深層海流に潜るぞ。天上金乗せた船はあと2時間後にくるから一度撤収だ」

 

 


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