(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第24話

ドフィ改めドフラミンゴが指摘していたとおり、実際フレバンスが信仰していたのは太陽神で有翼の女神だ。フレバンスでは有翼の女神の銅像が国のあちこちに飾られていた。シスターのもつ聖書に書かれてる女神が太陽神で、女神の後ろに太陽らしきものが描かれていた。撃ち殺されたシスターが太陽十字のロザリオを放り投げ、神はいないのだと絶望の最中に死んでいったことを示すように指をきつく地面に食い込ませていたからよく覚えている。

 

ドフラミンゴに指摘されてから思い返してみれば、たしかに隣の国の教会はどこも普通の十字架だった気がする。フレバンスから出たことがないから気づきもしなかった。

 

隣に触れていた国がどれも宗教的に違うものを信仰していて、フレバンスが孤立する状況になるのに豊かだった。その豊かさは時限爆弾だった。隣の国々はどう思うのか。人間は残酷になろうと思えばどこまでも残酷になることができるらしい。

 

「おれのよく知る男は、政府側の人間でありながら同じ聖書をよく持ち歩いてるぜ」

 

「フレバンスみたいに滅ぼされたのか?」

 

「さあな、今のお前みたいなメンタルしてんじゃねえか、ロー。それか、いっそのこと太陽十字を信仰してんのが奴隷の末裔なら面白えことになるな」

 

さすがにおれはカチンときて言い返した。

 

「おれが奴隷の末裔だっていいたいのか」

 

「誰もお前がとは言ってねえだろ、フッフッフ。この世界は翼を持つ月の民が神とあがめられてた時代があったんだ、その頃奴隷達に太陽神信仰があったのは紛れもない事実だから無関係じゃねえだろうがな。ドクロの代わりに太陽を掲げてみろ、オハラみてえに地図の上から消されるぞ」

 

「太陽十字は海賊旗みたいなのに」

 

「なんだって?」

 

「海に出ればどいつもこいつも掲げてるのに、もちろんアンタもだ。なんでフレバンスだけダメなんだ。ドクロを描く時、似たようなマークになる癖に」

 

一瞬だけ、ドフラミンゴが虚をつかれたような顔をしたが、何故かはわからない。不思議に思って見ていると。

 

「おもしれぇ発想するじゃねえか、ロー」

 

いつものようにドフラミンゴは笑っていた。おれは面白くなかった。あの本のせいで笑えない妄想が頭を離れなくなったからだ。

 

おれの家は誰にも言えないDの名とワーテルの忌み名を持っている。忌み名と隠さなければいけない名前、ワーテルの名前を隠さないと世界政府に消されてしまうこと。世界政府が太陽信仰があるフレバンスとその国民を消したかったこと。

 

わざと珀鉛産業を起こさせてその有害性を知っていて、珀鉛病から珀鉛を除去する方法があることも、感染病でないことも世界政府は知ってて黙っていたとしたら。恐ろしい感染病ということにした方が、国民を一人も国外に逃さず皆殺しにできるのではないだろうか。

 

フレバンスが滅びたのは太陽十字信仰とおれの家のせいじゃないだろうか。そんなことを考えてしまい、恐ろしくなる。

 

「ほんとに太陽十字信仰の国は全部滅ぼされてるのか?」

 

「全部かは知らねえが、王下七武海のモリアが拠点にしてるスリラーバークは太陽十字信仰の国の成れの果てらしいな。墓に太陽十字が沢山あるらしい。もとは西の海から来た幽霊島だ、何年前に滅んだ国かは知らねえがな。ちなみに偉大なる航路にある巨人の国エルバフは太陽信仰を隠しもしねえ非加盟国だが、あんだけ強けりゃ平気なんだろう」

 

「......聖書持ち歩いてるっていう、そいつの出身は?」

 

「ソルベ王国は南の海らしいな」

 

「北西南.....東の海だけないのか」

 

「東の海は最も平和な海、つまり最も世界政府の支配が及んでる海だ。太陽信仰をする暇がないんだろうよ。それか真っ先に滅ぼされたか」

 

不意にドフラミンゴがおれが読んでた本を取り上げた。

 

「そろそろ寝たいんだ、出てけ」

 

返事をする間もなく追い出されてしまう。乱暴に扉がしめられ、おれが無断で入った分だけの鍵がかけられていく。

 

ドフラミンゴの部屋には勉強のために集められたおれの知らない本が沢山詰め込まれている。こういうとき以外は追い出されないから気に入っていた。ドフラミンゴは寝る時誰かいると落ち着かないらしく誰も近づかない暗黙の了解がある。どんなに静かにしてても無言で追い出されてしまうので、実は寝てないんじゃないかとおれは疑っている。

 

おれがこの船に密航してからはや1週間が経過した。結論からいうとおれはドフラミンゴファミリーは北の海の海賊だと思い込んでいたけど間違いだった。この海賊はすでに東西南北、偉大なる航路の楽園、新世界に至るまで裏で牛耳る巨大すぎるシンジゲートをすでに構築している。

 

おれが密航したあの日がフレバンスの仕事で北の海に来ていた最終日で、長期にわたる航海はこれから大仕事をするために一度も普通の港に停泊しないという意味だった。もちろん船のメンテナンスでよるときはあるが、黒スーツの男が闊歩する港でカタギがいない島しかいかない。

 

ドフラミンゴがあの日おれに運がいいといったのはそういう意味だ。おれのためだけに一般の港に寄港する優しさはないが、殺してやるほど切羽詰まってもいない。大仕事に忙殺されておれを殺すためだけに時間を取るのも惜しい。奇跡的な積み上げの結果、そういう隙間にたまたまおれはおさまることができたようだ。

 

数時間後、ドフラミンゴが出てきた。

 

「入ってろ、出てくるなよ。邪魔だからな」

 

「わかってる」

 

ドフラミンゴファミリーは、深層海流を使って地理的要因を完全無視して航海することができる。これが偉大な航路にいく海賊のレベルなのかもしれない。その強みを存分にいかし、世界政府の船を襲い、天上金を強奪していた。

 

おれは知らなかったけど、世界政府加盟国は天竜人へ貢き金を納めなくてはならないらしい。奪ってきた戦利品をみせてもらったが、あそこまで倫理に外れた金額なら、貧しさゆえに支払えなくなり、非加盟国に転落するのはわかる気がする。財政が悪化し飢餓で滅ぶのと、非加盟国になって無法地帯と化すのはどちらが幸せなのかわからない。

 

船員全員が悪魔の実の能力者というとんでもない集団であるドフラミンゴファミリーにとって無能力者のおれは邪魔でしかない。いつもどこかの部屋に入って出てくるなと言われるうちに、おれはドフラミンゴの部屋を見つけたわけだ。

 

深層海流に入るとき、海底に沈む関係であたりは一瞬で真っ暗になる。おかげでカンテラを持ち歩く癖がついたおれは、外が暗くなるタイミングでその日のノルマが完了したのだと知ることになった。

 

「そこにフレバンスを封鎖しねえと天上金跳ね上げるって圧力かけたらどうなると思う?1人でも病人逃したら倍にするとかな」

 

たまに本に夢中で気づかないと、そうやって後ろから声をかけてくることもよくある。フレバンスを滅ぼすためだけに世界政府が立てた計画やドフラミンゴファミリーが加担した悪事の数々を誰も隠しはしない。

 

あの日、ドフラミンゴはこの船を皆殺しにすれば復讐だけはできるといった。毎日繰り広げられている人外じみた戦いを見るたびに思う。なにが3年もいらないだ、おれくらいの2人だって完全に悪魔の実を使いこなしてるじゃないか。初めから誰も殺せないことがわかっていて、無茶苦茶なこといってからかわれていたんだろうことだけはわかった。

 

それは気に食わないので、戦い方をみて、まだ真似できそうな技術をもつ奴らに頼み込んで稽古をつけてもらうことにした。日を過ぎていくにつれて、うすうす気づいたことがある。こいつら、意外と身内に甘いのか?

 


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