(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第25話

 

ドフラミンゴは掴みどころがない男だが、今回は特に意味がわからなかった。

 

天竜人の貢ぎ金天上金の輸送船をいくつも襲うのに、オハラのようにバスターコールされない。おつるという大将の船に執拗に追い回されこそしているが、とうとう世界政府の発行する賞金額の更新がある日を境に止まったのだ。

 

世界の闇市場を円滑に進める闇のシンジゲートを確立しているのは周知の事実でも、表の顔として会社があり裏があるならともかくドフラミンゴはどうあがいても海賊だ。賞金額が世界政府から見た危険度ならば、それを加味して然るべきなのに上がらない。

 

天竜人の天上金に手をつけていながら、王下七武海に加盟できたときにはさすがに耳を疑った。

 

王下七武海といえばおれだって知っている。世界政府によって公認された7人の海賊たち。収穫の何割かを政府に納めることが義務づけられる代わりに、海賊および未開の地に対する海賊行為が特別に許されている。海軍本部、四皇と並び称される偉大なる航路、三大勢力の一角だ。

 

メンバーの選定に際しては、他の海賊への抑止力となりうる「強さ」と「知名度」が重要視される。その顔ぶれには世界レベルの大海賊が名を連ね、一般の海賊からは恐れられている。七武海に加盟した海賊は、政府からの指名手配を取り下げられ、配下の海賊にも恩赦が与えられ、七武海を脱退すると再度懸賞金が懸けられる。

 

これを聞いたとき、王下七武海加盟が公表される前から、手配書という形で動きがあったのは不気味だった。

 

海賊でありながら政府に与する立場であるため、政府の狗と揶揄されることもある。ドフラミンゴはそういうものが嫌いな男だと思っていたが、パーティをするくらいにはファミリーにとって喜ばしいことらしい。王下七武海にならなくても闇のシンジゲートを確立できる実力があるのなら、わざわざ公的な安定性をとる必要ないのに。

 

パーティが終わったあと、ドフラミンゴの部屋を開けたら鍵がかかってない。開けると本をサングラスがわりにして寝ていた。あの本だ、おれにだけ呪いのような恐怖を連想させてばかりの、フレバンスの本。おれが開けたせいで部屋に月明かりが差し込み、まだまだ盛り上がっているパーティの声が入るのに起きる気配がない。おそるおそる近づいてみる。人が部屋にいるのに起きない。起きる気配すらない。これは完全に寝ているようだ。おれは扉を後にした。おそらく、ドフラミンゴが王下七武海の肩書きを欲しがったのは、このためだ。

 

次の日、寝てるときに入って本を読んでも追い出されないのに、今度は起きてる時にたまに1時間くらい入れてくれない日ができた。ドフラミンゴファミリーはたくさんの新聞社と契約してるけど、たまに決まったデザインの封筒が入っているときがあって、それがあると追い出されることがわかった。次の日、大抵ぱんぱんに膨れた封筒を渡していた。郵便サービスではなさそうだが、ニュースクーは平気な顔をして運んでいく。そして、またあのデザインの封筒が届くと、ドフラミンゴファミリーは大きな仕事を始めるのだ。

 

「あれ、なんの手紙なんだ?」

 

「仕事関係のやりとりだ、うちは使いに船員出す余裕がねえからな」

 

終わった案件はサインを入れてナイフに突き刺しているのは知っている。あのデザインの封筒の中身はドフラミンゴを怒らせたり喜ばせたりしているが、鍵付きの引き出しに全ていれられてるのは知っている。

 

ドフラミンゴは七武海になっても自分だけの領地を絶対につくらない。大きな仕事をする時に拠点は東西南北と楽園と新世界と仕事の内容に応じて停泊する港はある。そこはドフラミンゴファミリーの支配下にいることで加護をえている非加盟国ばかりだ。人やモノや情報がバカスカ流れてその間だけ、国全体が潤っている。そこから世界政府に支払う金を賄っているようだ。

 

領地に引っ込んだら仕事ができないから、自分だけの領地をつくる暇がないんだろう。大地を踏むより、深層海流にいる時間の方が絶対に長い。

 

「今なんて?」

 

「だから、お前は次の島で降りろ、密航者。お前をファミリーに迎えた覚えはない」

 

「なんでだよ、おれ今は戦いに参加してるだろ!?ふざけるな!」

 

「3年以内に全部ぶっ壊すのがお前の野望なんだろう?なんでか今んところ、おれ達皆殺しにする気配がねえからな。3年もあれば、フレバンス滅ぼしたうちの3つは地図の上から消せるはずだ」

 

「どんな計算だよ、1年で1国って無茶苦茶いうな」

 

「おれはできたぞ、お前んときくらいには。1人じゃ無理なら誰か連れてけ。適当な港で降ろしてやる」

 

それができるのはドフィだけだから、無茶振りはやめてやれと最高幹部達全員から止められている。誰もドフラミンゴの冗談だと笑わない。本気で止めに入ってくれている。フレバンスを滅ぼした国がどうやれば息の根が止まるのか、この男は息をするように考えることができるのかもしれない。

 

この日から思い出したように、ドフラミンゴからは降りろと言われるが、おれはいろんな理由をこねくり回して拒否し続けた。

 

 

ハァハァと呼吸をする自分の声がやけに響く。カチカチと歯の音が響くのは寒さのせいではない。発熱した体は燃えるように熱いのに、背筋が凍るような震えが全身に広がっていく。

 

日を重ねるにつれて、おれの病は進行していった。考えてるより進行速度がはやい。なんでだよ、どうしてだよ。なんでこんなときに。気分が最底辺を這いつくばっていて、それがなおのこと進行を早めているんだろうことは明らかだった。

 

ベッドから起き上がれない日も増えてきていた。

 

「ロー、降りろ。船には重病人ずっと乗せる設備はねえ。好きな場所におろしてやるから、そこで余命を過ごすんだな」

 

「いやだ。知ってるんだからな、ツテ使いまくってまだ医者探してくれてること。まだ生きれること信じてくれるやつがいるのに、降りたくない」

 

「屁理屈こねやがって」

 

「絶対にいやだ、この船医者がいないじゃないか!3年も乗ってるのに、なんで乗せない!」

 

「船にはいねえが、港にはいたろ。必要ねえからだ」

 

「こないだみたいに、なんかあったらどうすんだ!こないだみたいに、海楼石の弾丸打ち込まれたら、あたりどころによっては死ぬんだぞ!」

 

「そんなこと、海を出た人間の宿命だろうよ。今から死にゆくお前には関係ねえだろう」

 

「ある!関係ある!おれは医者だ!あんときの怪我、おれが初期の手当しなかったらどんだけやばかったか!命拾いしたってあの医者に言われたの忘れたのか!どんな航路でも、この船がどんだけ早くても、アンタらの港は数時間は最低かかるんだぞ!?」

 

「医者の不養生どころじゃねえな、死にかけのくせに」

 

「だから!死にたくなくなったんだよ、どうしてくれんだ!死ぬのが怖い!死ぬのはいやだ!やっとここまで強くなったのに、おれは一回もアンタの役に立ててない。恩を返してない!返させろよ」

 

「そもそもお前は見習い以下の居候だろ。恩売った覚えはねえから返さなくていい」

 

「いやだ!」

 

最後までベッドに齧り付いていたが、ファミリー全員に無理やり船の甲板に引き摺り出されてしまった。島が見えた。

 

「安心しろ、あの男なら世界政府に殺される運命のお前をどっかに匿ってくれるだろうよ」

 

全然嬉しくないことをいうドフラミンゴを睨んでいたら、港にいる人物を目にするやいなや、ドフラミンゴの顔が固まるのが見えた。

 

「..................なんでお前がいやがる、ロシナンテ中佐。ガープ中将はどうした」

 

「ガープ中将は聖地マリージョアの襲撃事件にいっててこれないよ、だからおれがきた」

 

「試合に勝って勝負に負けたか」

 

「言い方ァッ!!」


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