(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
やけにドフラミンゴに親しげな海兵だった。自己紹介する瞬間にドフラミンゴが無言で蹴り飛ばすくらいの距離感のようだ。ロシナンテ中佐の経歴やドフラミンゴの関係は、全てドフラミンゴ本人がしぶしぶ教えてくれた。隙あらばロシナンテ中佐が話そうとするから、それくらいなら自分からという気分にさせるらしい。
ロシナンテ中佐は闇の5大帝王ウミット海運社長の用心棒兼右腕である人堕ちホーミングの実の息子。天竜人から人間になるのと引き換えに世界政府に非加盟国に降ろされる見せしめにあったホーミング。
かつての繋がりを使って海軍の英雄ガープ中将に妻子を預けたあと、自分は迫害の報復に非加盟国を滅ぼして、ウミット海運に入った。
ドフラミンゴはそのウミット海運に拾われ、独立するまで世話になった。つまり古巣がマフィア。なるほど、だから最短で全世界を牛耳る巨大シンジゲートを作ることができたわけか。
正直、出てくる名前や事件がビッグネームすぎて理解するのに1時間ほどかかった。
一見すると複雑怪奇な話だが、ドフラミンゴの話に特に矛盾はないように思う。時々ロシナンテ中佐が口を挟むのをドフラミンゴが執拗に邪魔しているあたり、ドフラミンゴは尊敬するホーミングについていかずガープ中将の後を追うように海軍に入ったのがよほど気に食わないようだ。
ロシナンテ中佐は会ってからずっと色々とドフラミンゴと話したそうな顔をしているが、当の本人は全く気にかける様子はなく今すぐ帰れという態度を崩していない。誰もきにとめていない。いつもこうなのだろうか。ドフラミンゴが散々唸ってため息をついた。
ガープ中将が来ないならおれを降ろすわけにはいかないと、ガープ中将がくるまで港に停泊してくれることになった。話が違うとドフラミンゴはずっと怒っている。ロシナンテ中佐は、いちいち律儀になんでそんなに信用されないんだと逆ギレしている。
「無理もないんねー」
トレーボルがぼそっとつぶやいた。こうなる気はしてたと誰もが呆れるやら、笑うやら、反応はさまざまだ。
「ロシナンテ中佐はロー預けるには不安すぎるんねー。ドフィは昔から自分を慕う奴が手の届く範囲で死ぬのがこの世で1番嫌いんねー」
「なんだそれ、初耳だぞ」
「七武海が身内に甘いって弱点でしかないから仕方ないんねー。でも独立のきっかけが可愛がってくれた見張りが敵に殺されたからってんだから、もうドフィはそういう奴んやねー。出会った頃からずっとそうやんねー」
「なんで今更話すんだよ」
「ここまでバレたら一緒やんねー、だから話した。どうせ数日でお別れやんねー、一緒いっしょ」
ドフィと呼んでいる最高幹部の連中が共通して情報共有できているのは、独立する経緯でドフラミンゴファミリーを立ち上げることになったからか。後から入ったやつらすら大体の事情は察していたようで、なにも知らないのはおれだけという有様だった。
ファミリーに入れた覚えはないって散々言われた言葉の意味がまるで変わってくるじゃないか。おれは無性に泣きたくなった。
「フッフッフ、今何つった、ロシナンテ中佐?オペオペの実だと?この北の海の田舎でか?偉大なる航路ではなく?」
「待ってくれ、今のナシッ!口が滑った!!聞かなかったことにしてくれ、国家機密なんだよッ!!世界政府が取引にかかわってるトップシークレットなんだッ!!」
「情報源としちゃあ、これ以上ないくらい優秀なんだがなァ、今までその分被ってきた不利益、今日でいったん帳消しにしてやる。今回ばかりはテメーの度を超えたドジっ子に感謝だな、ロシナンテ中佐。おい、誰かおれの部屋から悪魔の実辞典持ってこい。そんでこいつを今すぐ縛って持ってる情報全部吐かせろ、なにしたっていい。どうせガープ中将の修行で無駄に丈夫だからな」
ロシナンテ中佐の悲鳴が聞こえてきたが、引きずられてどこかに行ってしまった。しばらくして、ドフラミンゴ達だけ帰ってきた。
「おい、本気かドフィ。ウミット海運が関わってるだろ、それ。そりゃあ、おれ達はローが助かるなら大歓迎だけどよ、お前はいいのか、それ?」
ディアマンテが聞いてくる。その言葉の意味を理解したおれを含めた全員がドフラミンゴを見る。
ついさっき今も深いつながりがある、育ての親ともいうべき人堕ちホーミングがかかわっているであろう取引を破綻させると宣言したも同然だった。
「今しかねえだろ、ディアマンテ。マリージョア襲撃事件が起こってんだ、あの男は絶対にでてこない」
「断言できるのか?」
「できる。まさかとは思うが、ディアマンテ。3年あの男の下で働いてきたおれが、信じられないっていうのか?」
「いや......それはない。ないけど」
「優先順位を考えたら明らかだ。それに悪魔の実の能力者の血さえ渡せばあの男はなにも言わないはずだ」
「ホーミングは言わないだろうけど、取引に来る部下はどうなんだよ」
「話はおれがつけてやる。お前らはオペオペの実を50億なんて端金で売ろうとしてる奴らを襲撃しろ。そしてすぐローに食わせろ。いいな。絶対にルーベック島には近づくな」
ドフラミンゴの指示に誰も異論を挟まない。たまらずおれは叫んだ。
「なんで誰も連れてかないんだ、ドフラミンゴ!アンタひとりで行って大丈夫なのか!?」
おれの顔を見るなり、ドフラミンゴは鼻で笑う。
「悪魔の実も食ってねえ、覇気もろくに使えねえ、剣術も体術も平均以下のてめーがおれの心配するな、ロー」
「うるさい、この船の医者はおれだ!わざと遠ざけるような真似しやがって!ふざけてんのはどっちだ!」
「おい、こいつに余計なこと吹き込みやがったのはどこのどいつだ」
ドフラミンゴが不機嫌そうにあたりを見渡す。トレーボル達は素知らぬ顔をしている。
「トレーボル、あとでこい」
なにもいってないのにもうバレたトレーボルは笑っていた。
結局、ドフラミンゴをひとりルーベック島に残して、おれ達は襲撃に備えて港をでた。病の深刻さからおれは船にずっと残って見張りをする羽目になった。当事者なのにおれの周りが目まぐるしく動いているのに、おれだけが取り残されたみたいに静かだった。
ドフラミンゴの部屋の医学書と悪魔の実辞典をひたすら読みふけるしかできない。こういう時に限っていつも時間はすぎるのが遅い。