(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
シデのせいでスワロー島の想定外の滞在が続いている。滞在時期が長引くと、からくり島を消し飛ばしたウラヌスや火炙りの記憶を思い出し、また睡眠不足に陥りつつある。七武海になりようやく眠れるようになった途端にこれだ。
トラウマってやつは実に厄介だ。
全治数カ月が一か月になるだけ充分人外だと、優秀な自称ファミリーの医者は驚いている。なんのことはない。ファミリーにすら明かせない天竜人のポテンシャルがそれだけあるってだけだろう。 というか、まだファミリーに入れるといってないんだが、忘れてんのかもしかして?
その数週間後、パンサのいうとおり、父上から手紙を直接届けられた。おれは念のため、ドフラミンゴファミリーもウミット海運の誰も入れないように手配し、医務室になにか違和感がないか、念入りに見聞色で見てから封を切った。
フィッシャー・タイガーにマリージョア襲撃に使うはずだった資料を渡して、計画を一旦白紙にしたとあった。イール達の信頼を優先したんだろう。それなのに、それだけの恩を受けておきながら、フィッシャー・タイガーが賞金首になったからって、ついていくってどういう神経してんだ、あいつ。心底理解できない。
この大海賊時代にタイヨウ海賊団という名をかかげる意味をフィッシャー・タイガーはマリージョアで知ったはずだ。それを何も知らない魚人達と立ち上げて不殺の海賊団を結成するそうだ。こんなイかれた話があるか?イールも誰にも真意を知らせないままついていくってどういうつもりなんだ?信頼してくれる父上から逃げたくなっただけじゃないのか、あの男。
そして、父上はマリージョア襲撃に乗じて、計画どおりパンゲア城の内部になんらかの手段で潜入に成功したとあった。
そこで父上はこの世界の神を見たらしい。
世界の中心である聖マリージョアには、パンゲア城があり、玉座が存在している。玉座とは言うものの、この玉座に座ることが許された王は存在しておらず、「この玉座に誰も座らない」ことで世界の平和と平等を示す為の『象徴』となっている。 ゆえに虚の玉座と呼ばれている。
この理念を体現する為に、天竜人の最高位で世界最高の権力者である五老星も複数人で構成されている。 それが表向きの説明だが、実は虚の玉座に座ることができる王が密かに存在していることになる。
そいつは、800年前に世界政府を創設した20人の王たちの誓い「虚の玉座」に座る権限を持っている。それは表向きには存在しないとされている世界にたった一人の王としかいいようがない。虚の玉座に座る者がいればそれは「世界の王」だ。
天竜人の最高位にして、世界政府の最高権力者である五老星。そんな世界最高権力者たる男達さえもはるか上座から見下ろす謎の存在。
ガープ中将達は経験則から五老星より上の存在がいることは知っていたようだが、想像以上にやばいやつがあの城にはいるわけだ。
そして、父上はパンゲア城の地下にある国宝も確認できたという。巨大冷凍室に安置された謎の巨大な麦わら帽子。それが古代兵器ウラヌスとなんらかの関係があるに違いないと結んである。
「ん?もう一枚あんのか?珍しいな、父上」
いつもなら必ず一枚で完結させるはずなのに、初めてもう一枚手紙が入っていた。前の手紙ではローのことを書いたからそのことだろうかと読み進めていったおれは、全身の血の気がひいていくのがわかった。
軽率だった。こんなことなら、もっと早く父上に相談すればよかったんだ。
そんなつもりじゃなかったと父上が目の前にいたらいいたい。今すぐにいいたい。おれ達はローをそんなつもりでオペオペの実の能力者にしたかったわけじゃなかった。いや、わざわざそんな言い訳じみた弁解しなくてもいいか。これからどうすればいいか書いてあるんだから、しっかりしろと言いたいんだろう。
おれはその日、ローを呼び出した。
「ロー、話がある。そこ座れ」
「なんだよ、改まって」
「お前のファミリー入りの話だが、もし入るってんならコラソンの地位をあたえることも考えてる」
「ほんとか!?コラソンってずっと空いてる幹部の肩書きじゃないか!」
「話は最後まで聞け。おれはファミリー入りをいつもこの問いにどう答えるかで決めることにしてる」
「問い?」
「そうだ。そんないくつもじゃねえ、一個だけだ。ローも知ってるように、この世界は過酷だ。なんでもいい、なにか核になるものがなければ待ち受けるのは死だけだ。ロー、お前はこの世界でなにがしたいんだ?なにがお前の核になる?」
「それは......」
「世界をぶっ壊したいわけじゃねぇのはわかってるからな、口にすんなよ。言った瞬間においてくからな。再三言ってるがそれを叶えるだけの衝動的なもんを、おれは今までお前から一度も感じたことがねえんだよ」
「…............あ、アンタらと一緒にいたいのは......ダメなの、か?」
「フッフッフ、嬉しいもんだな、実際に言葉にされると。だがそんなもん、最近つるんでる連中と旗揚げすりゃいいだけの話だろう。却下だ却下」
「おれは......」
「おう」
「アンタみたいな海賊になりたい」
「そうか、がんばれ」
「あ、アンタを超える海賊になりたい」
「なら四皇か海賊王か?大きくでやがったな」
「ち、ちがっ......ほんとは......おれは、アンタの右腕になりたいっておもって......」
「却下だ、右腕は何本もいらねェ」
「なんでだよ、コラソンが空いてるだろ!?」
「空いてるからって自動的に座れるほど、コラソンの名は安くねえんだよ」
「永久欠番的なやつなのか?でも考えてるって......」
「だから、問いに答えろ。それによっては、だ」
「そんな話をするんなら、まずはアンタの夢はなんだよ。おれはそれを聞いてから答えたい」
おれは鼻で笑った。
「なにを勘違いしてるかしらねぇが、おれの本懐は海賊王じゃねェ」
「えっ」
「予想通りの反応ありがとうよ、ロー。そういう反応をする奴らは、大抵おれが海賊王になりたいと思ってると勝手に思い込みやがる。そして理想と現実の区別がつかなくなって、違うと気づくと攻撃的になる。そういうやつをごまんと見てきた。そういう奴らに、どういってるのか教えてやる。気に入らねェ奴は船を降りろ、例外はない。残念だったな、ロー。この話はナシだ。ここで降りろ、ほかあたれ」
「ドフラミンゴ、待ってくれ。さっきのはそういう意味じゃ......!!」
「テメェのいう夢をおれは生まれてこの方抱いたことがないんでな」
「え」
「なんでだって顔してるな。特別に理由を教えてやるよ。おれの名前はドンキホーテ・ドフラミンゴ。人堕ちホーミングの実の息子だからだ。ロシナンテ中佐はおれの弟だ」
「!!」
「非加盟国で父上と地獄に落ちると決めたその日から、おれは夢を諦めた。おれの本懐は地図から消えなかったことを喜び、寝てる間に死なないよう怯えながら送る日々から、1日も早く解放されることだ」
「ドフラミンゴ......」
「だからこそわかることもある。お前の医者としての才能は正直惜しいが、残念ながら、お前はドフラミンゴファミリーには致命的なまでに向いてない。それだけだ。悪く思うなよ」
「ドフラミンゴ、なんでそんなこと」
「誰かに託す夢があるんなら、それを自分の核にしやがれ。楽しようとすんじゃねぇよ。四皇だか海賊王だかになりたいんだろう?前から思ってたが、お前実は指示待ち人間なとこあるだろう。よくないぞ、そういうとこ」
「うるせえな、人が気にしてることをズバズバと!それはそうかもしれないッ!でも、今すぐ降りろってなんだよ!独立するまでいちゃいけないのか!?いきなりすぎるだろッ!」
「昨日まではそれも悪くねぇと思ってたんだがな」
「じゃあなんで!」
「詳細は伏せるが......。おれが考えていた以上に、フレバンスで太陽十字を信仰してたお前が、オペオペの実を食うのはこの世界にとってやべえとわかった」
「───────ッ!?」
「この島を地図から消されたくなけりゃ、降りろ」
「そんなにやばいのか?バスターコールされるくらい?」
「バスターコールはルーベック島みたいになるだけだ。文字通り、島ごと無くなりたくなければ、だ」
「......ドフラミンゴ」
「お前に夢がないんならよかった。お前に才能がないんならよかった。でもどっちもあるんじゃダメだ、世界政府にとって最高で最悪のパターンだ。なら、自分でなんとかしなきゃならねえことになる。お前が強くなるまで守ってたら、ほかの奴らまで死んじまう。悪いが、おれは他のファミリーを強くするのに今も必死なんでな。今のお前は力不足すぎる。せめて四皇くらいまで強くなってくれ。その先で、夢が叶わねーとわかったら、また考えてやるよ。それまで世界政府の目につかねえようにしてやる。だから、降りろ」
「......ドフラミンゴ、1つ訂正しやがれ。それは降りろじゃなくて、匿ってやるの間違いだろ......」
「フッフッフ、そうともいうかもな」
「アンタのそういうとこ、ほんと嫌いだ。勝手に決めるなよ。アンタの本懐が何かなんか知るか。おれはアンタがいて、ファミリーがいて、ドフラミンゴファミリーだからいたいんだ。おれが足手まといだっていうなら、今は一緒じゃなくたっていい。いつか一緒にまた航海ができるんならそれでもいい。そのあとでどうするかくらい、決めさせてくれよ。入る前から拒否するのは反則だろ」
しばし沈黙がおりる。白状しよう。ローの返事はおれの想定外だった。
しばらくして。
初代コラソンは海軍にいる。ローがその言葉を理解するのに少々時間がかかったのか、随分間抜けな顔をしていた。
「死んだんじゃなかったのか?」
「そういうことになってんだよ、ドフラミンゴファミリーん中ではな。知ってるのは最高幹部だけだ」
「おれに教えてくれたのは」
「お前にはいくつか道はある。まだ道を決めなくていい。ひとつは、無かったことにして、ドフラミンゴファミリーから独立して自分の海賊を立ち上げること。ふたつは、海賊を立ち上げながら、水面下で傘下になること。あとは、世界政府のふさわしい支部に入ること。海軍の中にあると噂のスパイ的な部署に潜入する方法もある。判断はお前に任せる。そこまでいうならやってみろ。その時までは、なにがなんでも匿ってやる」
「なら、おれは......」
「まだ出航まで時間があるんだ、そう焦るな。ゆっくり考えろ、時間だけはまだあるだろうからな」
おれは今だに包帯が取れない腕を軽く上げて、ローをとめた。