(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第3話

非加盟国といっても国全体が貧困に苦しむ国はあまりない。どの国も大なり小なり貧困の格差からくる不理解からくる断絶というものがあり、この国も例外ではなかった。

 

富裕層が住む治安が良い安全な地区と、低所得者層の貧困の人々が住む治安の悪い危ない地区に分かれていて、私達が住む家はもちろん前者だ。

 

治安が特に悪いのは低所得者層が多く集まるエリアがある事が第一で、禁止薬物の栽培が行われて販売もされている。ギャング団同士の喧嘩や誘拐などの犯罪も多くあり、日常的にこのような犯罪が行われる。

 

この国では不法越境労働者を狙っている武装者が多くいて貧民が不審者が侵入してこないようにと電気柵を設置しているのが特徴だった。

 

武器を絶えず調達し続けるにはまずその武装者の元締めである犯罪組織を襲撃する必要がある。真っ先に放った覇気により気絶した人間は放置し、耐えたり、覇気を感知できそうな頭取だけは確実に屠っていく。デンデン虫だけ殺し、武器だけ拝借する。

 

使えそうな資料や武器を粗方かき集めて一息ついていたころ、こちらにまっすぐ走り寄る姿があった。

 

「父上、父上、やっと見つけたえ!!なんで置いていくんだえ、危うく殺されるところだったえ!!」

 

「思ったより早かったね、ドフィ。もう少しかかるかと思っていたよ」

 

「酷いえ!父上の背中を見て学べと言いながら、家に放置とかなに考えてるんだえ!危うく、焼き殺されるところだったえ!」

 

どうやら私達が元天竜人と世界経済新聞で知った近くの街の人々が早速襲撃に来たようだ。ドフィは拷問にかけようとする人間達から逃れるために籠城し、窓から銃で応戦していたという。だが怒り狂った人々により、田畑はもちろん敷地全体に油をばら撒かれ、自宅は火を放たれたという。なんとか必死で逃げてきたようでドフィはボロボロではあるが私に怒るくらいにはまだ気力があるようだ。

 

「初めから用心するのといきなり襲撃されるのでは怖さが違うだろう、ドフィ?あの程度逃げきれないならばこの世界は生きてはいけないよ」

 

「だからって置いていくのは酷いえ!」

 

「気絶するドフィが悪いよ」

 

「無茶いうなえ!!」

 

ぎゃいぎゃい叫ぶだけの元気があるなら問題ないだろう。私はドフィをつれて犯罪組織の元締めの敷地内に引き返した。弾丸を補充してドフィに渡してやる。いきなり銃を出した私にたまらずドフィは身構える。安全装置をつけたまま渡してやるとホッとしたように受け取った。

 

「今日はここを根城にしようじゃないか、ドフィ。統領は始末しておいたから、気絶してるやつらを始末していこうか。1人でも生き残っていたら安心して寝られないからね」

 

「父上がやったのかえ?」

 

「気絶しなくなるくらい強く、さらに慣れれば、ドフィにもできるようになるさ。私よりもずっと上手くなれるよ」

 

「そうかえ」

 

「そうだとも」

 

軽口を叩きながら私達はドアをひとつひとつあけて、構成員達を射殺していった。最後の方になるとドフィも慣れたもので私が改めてヘッドショットする必要がなくなっていった。

 

「近くの奴らにバレたらどうするんだえ?」

 

「大丈夫さ」

 

統領の無駄に豪華絢爛な自室を陣取りながら、私達は一夜明かすことにした。

 

不安がるドフィに教えてやるのだ。

 

富裕層の人間は低所得者層の人間に興味を示さないため、いつもより銃声や爆発、阿鼻叫喚が酷いところでいつもの抗争だと気にも留めない。用心棒にあたる人間に注意喚起さえすれば多少の用心はするだろうが国外逃亡しなければならないほどの脅威だとは認識しない。搾取し慣れている国民性が近づかなければ無事、死にかけても殺されない。利がないからだ。

 

残念ながら私は人を殺したいから殺してまわっているのでその理論は通じない。生存バイアスは意味をなさない。足枷となる。

 

「なにかあれば起こそう。ここまでこれたんだ、もう置いてはいかないよ」

 

「ほんとかえ?」

 

「ああ、本当さ」

 

「信じられないえ」

 

ジト目のドフィがソファに座ったまま睨んでくる。

 

「父上はさっきから何をしてるんだえ?寝ないのかえ?」

 

「ここと長らく勢力争いの抗争を続けている敵対組織の情報を整理しているのさ。取引先の闇業者の連絡先や案件の重要書類を持ち出さなくてはならない。これはなによりの財産だよ、ここから逃げるためには特に」

 

「そういうもんかえ?」

 

「そうだね。ドフィ、今の私たちは致死性の高いウイルスのようなものだ。病原菌というものは不思議なもので、感染者が即死するとその狭い範囲での死者は跳ね上がるが広がらないのさ。それとよく似ている」

 

「今日の父上のいうことは時々意味がわからないことがあるえ」

 

「それは困ったね。今日の父上がこれからの私になるんだから、わかってもらわないとドフィはきっと死ぬだろう」

 

「それはいやだえ」

 

「なら必死になることだ、ドフィ。納得しなくてもいい、理解するんだ。この理不尽で歪な世界を。有象無象と違って天竜人として生まれついたこの才覚はそれを自覚して必死になるほど花開く。その代わり安定を選べばすぐに腐り落ちる」

 

「つまり?」

 

「つまり、頑張って勉強しましょうってことだね」

 

「最悪だえ」

 

こうして次から次と元締めのグループを壊滅していった数週間後。

 

あまりにも静かなエリアが広がり始めると鉄線の向こう側で警備をしている自衛団が不安がり始める。

 

世界経済新聞は毎日のように頭取の襲撃を取り上げ、犯人を適当にでっちあげたりして煽り立てる。日を過ぎるにつれて首謀者たりえる人間が根こそぎ死に絶えると、次第に疑心暗鬼になっていく。

 

荒唐無稽な元天竜人による迫害に対する報復としかいいようがない虐殺事件が世界経済新聞の飛ばし記事ではなく真実なのではないかと富裕層の人間達が不安がりはじめ、鉄線付近の警備がより厳重になり始める。

 

腕に覚えがある人間ばかりが鉄線の近くに集結しはじめる。それでも頻繁な海賊の襲撃や人攫いに慣れきっている人々はたった1人の襲撃者など数の暴力でどうとでもなると信じている。

 

鉄線の一角が不自然な形で撤去されはじめると、いよいよ国中の不安が高まる。互いに疑心暗鬼になり、小さな小競り合いはやがて敵愾心を煽り立て、小さな争いは次第に大きくなっていく。

 

ぴりぴりとした空気の中、私達は一ヶ月ぶりに帰宅した。

 

あたりは酷い有様だった。汚物やゴミが投げつけられ、罵詈雑言が書き殴られたペンキが散乱し、敷地内には腐敗した動物が投げ入れられていた。

 

「よく覚えておくといい、ドフィ。天竜人というのは下々民からはこう見えているんだよ」

 

「......」

 

ドフィはなにも言わなかった。

 

そして、場所を移動して鉄柵のエリア。

 

放たれた広範囲の覇気により気絶していく自警団。その一人一人を射殺していく私の姿をようやく確認できた時には、普通なら富裕層の人間達は大パニックとなるのだ。

 

ただ、元天竜人という本来なら刃向かうことすら許されない殿上人の肩書きが低所得者層の残党と搾取する側なはずの富裕層を団結させる。中には私達家族と仲良くしていた事実により殺意を増す人間もで始める。銃すら持ったことがない子供すら武器を手に、私にあらゆる罵詈雑言を吐きながら呪詛を込めて私を殺そうとしてくる。

 

だが現実は非情なのだ。自分の命を他人に預けて富ばかり集めていた連中ほど武器の扱い方を知らない。自分が人を殺す事実から目を逸らして私を殺す大義名分を得ても暴発する。フレンドリーファイアを起こす。

 

私の起こす騒ぎに乗じて海賊か犯罪組織か、はたまた人攫いか、蓄えていたはずの農薬や劇薬を流した井戸や油をばら撒いて火を放った田畑の被害に打ちのめされていく。全てが私のせいになっていった。

 

そして一年後には非加盟国と呼ばれていたこの国には人1人いなくなってしまうことになる。


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