(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

30 / 136
第30話

この3週間の間に、おれはスワロー島で友達ができた。いじめから助けたシロクマのベポ。兄と再会して憧れが止められなくなったのか、航海術を学びたいと駄々をこねてまだこの島にいる。最初はいじめっ子だったが、実は洪水で孤児となり親戚の奴隷扱いから逃げてきたペンギンとシャチという人間の子供達。そして、彼らをまとめて預かることになった20年前の海賊退治の英雄なのに、島の外れにすんでるじいさんのヴォルフ。

 

ドフラミンゴはあと1週間で迎えがくるから、昨日の話の結論を出しとけとおれに宿題を出し、あいかわらずウミット海運医務室にこもっている。

 

帰ってきて医務室に顔を出すと、平和そのものなスワロー島とはここだけいつも空気が違った。

 

「世界政府の野郎、こっちに手が出せなくなったからってしょうもねぇ嫌がらせしてきやがって」

 

世界政府の紋章が刻まれた封筒を無造作に毛布に投げ出し、ドフラミンゴは心底不愉快だとでもいいたげにぼやいた。

 

「おれは海賊だ、加盟国じゃねェんだぞ」

 

「どうしたんだ?」

 

「どうしたもこうしたもあるか。今年も上納金跳ね上げやがった。ほかの奴らは据え置きのくせに。そこら辺の加盟国なら10は非加盟国に転落してるぞ。魚人と人魚の供給止めてんのがそんなに気にくわねぇのか?捕まえられる人攫い屋でも雇いやがれ。しかしどうするか......さすがに毎年更新されるとキツイもんがあるが......。おい、ロー地図よこせ」

 

おれは地図を投げてやった。昨日から急に扱いが雑になったのは取り繕う必要がなくなったのか、もともと身内にはこういう男なのかはさすがにわからない。

 

付箋とメモと新聞の切り抜きで倍以上に膨れ上がっている地図を広げ、今度は民俗学関係の本をかたっぱしからドフラミンゴの部屋から持ってくるよういわれる。文句をいいたいが知らない専門用語をぶつぶついいながら、ざかざか何か書いてはバツを書いて唸っているのをみると耳には入らないだろうとわかる。

 

ドフラミンゴファミリーはドフラミンゴがいなくても仕事が回るようになっているが、深層海流が使える船はひとつしかない。だから長期滞在が必要とわかってから、スワロー島にドフラミンゴファミリーの船はもうない。どこにいても数時間で迎えにこれるんだから、心配するよりは闇のシンジゲートが闇のブローカー王が不在でも回せることを示さなくてはならないらしい。

 

おれが持ってきた本をものすごい速度でめくりながら、次から次と右から左に積まれていく。手に取ろうとして空振りしたドフラミンゴから無言で睨まれたおれは、あわててまた本を取りに向かった。

 

「ドレスローザか......」

 

ようやく探し当てた新しい儲け話の要になる種族を見つけたドフラミンゴは、さっきの地図帳をひろげる。

 

地図上のドレスローザは縮尺から察するに一度に島の横全体を見渡すことができない程に広いらしい。ドフラミンゴ曰く、平野になっていれば80km以上上から見下ろせば、大概の地上を見渡すことができるため、ドレスローザもいかに大きな島であることが分かるという。

 

冒険記や観光本をおれも読んだが、愛と情熱と妖精の国と呼ばれ、訪れた者は『花の香り』『料理の香り』『島の女性の踊り』に心を奪われるという。「妖精がいる」という伝説が出回るなど、色々とファンシーな国のようだ。国は本島と小島で構成されており、グリーンビットは周辺海域に生息する凶暴な魚のせいで船で近づくことができないらしい。

 

「新世界にあるくせに、なんでこんな頭ハッピーセットな国なんだ?平和ボケすぎて頭がイカれそうな国だ。こんなことでもなきゃ行きたくねえ」

 

そう吐き捨てたドフラミンゴをみるに、ほかの非加盟国みたいに拠点にするだけの国にするつもりだろうか。

 

ドフラミンゴはこの国をどう闇のシンジゲートに組み込むか考えている。ドフラミンゴがひとつの国に留まれない致命的な弱点が露呈しないためにも、ドレスローザ側にドフラミンゴファミリーがいなくても仕事が回るようにしなければならないと考えているようだ。

 

「......しかたねえ、ホーミングの名を借りるか。こんなに平和ボケした国なら、おれの七武海の地位と評判、ホーミングの儲け話があればいけるだろ。不思議な因果があるみたいだからな」

 

800年前までドフラミンゴの先祖であるドンキホーテ一族が統治している国だった記述を見ながらドフラミンゴはいう。同一族が世界政府創設に伴い政府の本拠地聖地マリージョアへ移住するため、リク王一族に王権を譲渡し国を去った過去があるらしい。

 

「こんだけ探してもろくに記述が見当たらねーんだ。どんな植物でも育てることができるのはどうやらトンタッタ族だけなのは間違いない。どうせ、カイドウの野郎も遅かれ早かれ気づくはずだ、この国の価値に。人工悪魔の実の市場を独占させてたまるか。対能力者の兵器になるような資源をワノ国にばら撒くような能無しに取られる前に、なんとしても押さえてやる」

 

ドフラミンゴとカイドウの代理戦争の舞台に選ばれてしまったドレスローザは間違いなく荒れるだろう。フレバンスみたいに近隣諸国がバランスを失って国家間の戦争が絶えなくなり、戦争被害を受け、闇の帝王達の稼ぎ場になる未来が見える。

ドフラミンゴの支配下になれば、一般人は気づかなければ平和そのものが約束されるだろう。表に見える範囲の平和と裏に根付く闇のシンジゲートが深く根づいて身動きが取れなくなる代わりに、ドフラミンゴファミリーとウミット海運の絶対的な庇護と富を約束される。

 

もちろんドフラミンゴファミリーが七武海から陥落すれば待っているのは破滅だが、白ひげにしろ、ビッグマムにしろ、大海賊の庇護を選んだ国の運命は皆同じだ。

 

ドフラミンゴは手紙を書いている。リク王がどう判断するのか気になった。

 

「闘技場、オークション、あとは......。上納金稼ぎに使えそうな施設投資の話も通さなきゃいけねえな。そうだ、国盗りするわけじゃねェが、ワニ野郎のご機嫌取りの仕方は参考になるな。一回いくか、アラバスタ」

 

「アンタ、クロコダイルと仲悪くなかったか」

 

「それなりに金落とせば無碍にはしねえだろうよ、ワニ野郎はクソ真面目だからな。フッフッフ」

 

ドフラミンゴは早速書き上げた手紙を封筒にいれ、ドフラミンゴファミリーの取引の証である特注の封をする。

 

「この手紙を無視すりゃ、一度も戦争したことがねえ平和の象徴たるこの国に、なんの準備もないままいずれカイドウの配下がきまくることになるんだ。これは忠告であり最後の希望だと理解できるくらい、リク王家がまともであることを信じるか。ダメなら上を挿げ替えるだけだ」

 

「アンタ、ドレスローザを守るつもりなのか?ひとつの国に長居できないだろ。大丈夫なのか」

 

「だからお話をしませんかって手紙を書いたんじゃねェか。800年も平和な国でいられたんなら、それなりのポテンシャルはあるはずだ。現地民を傘下にできるくらいの勢力に育てりゃいい」

 

「気の長い話だな」

 

「略奪だけしてりゃいいのは海賊の特権だが、おれは七武海だからな。フッフッフ。ワニ野郎と違って達成可能な目標だから問題ねえ。非加盟国をどう拠点として懐柔してきたか、お前はよく知ってるはずだぜ、ロー」

 

「たしかにアンタのいうとおり、そういう意味では、おれはドフラミンゴファミリーには向いてないかもしれないな」

 

「フッフッフ、違いねえ」

 

笑いながらドフラミンゴが世界政府の紋章がかかれた封筒を拾い上げる。見てろと言われて、真横に太陽十字を描き始めたドフラミンゴを見ていると。円が塗りつぶされて、上下左右に丸を書いて塗りつぶしはじめた。あっという間に世界政府の紋章ができあがる。

 

「これがこの世界の縮図だ、わかりやすいだろう?」

 

鳥肌がたった。

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。