(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

31 / 136
第31話

ドフラミンゴから出された宿題の最終日は、忘れもしない満月の夜だった。ベポがいきなり暴れ出し、駆けつけたウミット海運の連中が手慣れた様子で頭から布を被せてくれたおかげで助かったことがあった。

 

これは明らかに黒ヒョウが教えてくれた悪魔の実辞典にあったゾオン系悪魔の実の記述とは矛盾する。ようやくそれに気づいたおれは、ウミット海運の一室に忍び込んでいた。かつてドフラミンゴの部屋として我が物顔で占拠されていた全てが碇マークの荷物の山に変わっていた。

 

バレないようにカーテンを全開にして、月明かりを頼りに必死で本を探していた。

 

「700万......いや、800万だったか......」

 

「え?」

 

不意に部屋全体が明るくなった。カンテラを持ったドフラミンゴだった。いつの間にと固まっているおれを気にする様子もなく、荷物のひとつを開いた。

 

「アンタ、なんで......」

 

「やっと来たか、おせえぞ。おれの人を見る目は間違ってたのかと失望しながら、やっと荷造り終えたのにがさがさしやがって。あとで片付けとけ。人の言うこと鵜呑みにしないで裏取るのは基本だろうが」

 

「いてっ」

 

そして、一冊の本を出してそのまま叩かれた。

 

「ウミット海運のお得意様な関係で人間屋に供給されないもんだから、相場がここ10年で跳ね上がってんだ」

 

「黒ヒョウがゾオン系悪魔の実って嘘ついてた理由がそれか?」

 

「だからおせえ、やっと気づいたのか。自分のクルーに入れたい奴のこと、医者じゃなくても船長なら知ってて当たり前だぞ。判断ミスは壊滅への一歩だ、よく覚えとけ」

 

「......おう」

 

「詳しく知りたきゃそこの3段目の右から4番目と10番目の本を見てこい。あとはキャプテン・ジョンの航海日誌の写本の265ページ目。特別にタダで見せてやる。もうすぐ無くなる知識の宝庫だ。絶対に奪われない財産でもある。今のうちに頭に叩きこんどけよ。今までいたあらゆる環境が最高峰かつ最先端だった幸運を噛み締めるんだな」

 

懐かしい夢を見た。空をいくツバメのさえずりで目を覚ました。

 

おれはアイマスクがわりに見ていた新聞を手にする。そこには三面記事があった。

 

 

 

 

七武海 天夜叉ドフラミンゴ、奴隷の英雄フィッシャー・タイガーに敬意を表して犯人を恩赦すると発表。被害者に対し今回の事件は管理行き届きに不備があるとして謝罪。補償をすると宣言。

 

先日、ドンキホーテ海賊団が主催したオークションの目玉商品がゴルゴルの実であると耳にした為に、それに目を付けて犯罪者達を唆し、巧妙な策で人を動かして会場に火を放つことで、何百人もの死者を出しながらもその混乱に紛れてゴルゴルの実を手にしたが、ドンキホーテ海賊団により捕縛された男ギルド・テゾーロ。

 

彼は幼い頃から歌うことが好きで、煌びやかなショーに憧れていたが、自身の家が貧しかった為に友達からは相手にされず仲間外れにされていた。ギャンブルに金をつぎ込んでいた父親が手術代を払えば治った病気で亡くなってしまい、父親の死を機に家庭環境が崩壊したことや楽しげな歌を嫌う荒んだ母親からの罵声に激怒したことで遂に家出をし、12歳の若さにして裏社会の世界に入り込んだ。

 

その後も盗んだ金で不良とつるみ、ギャンブル・酒・ケンカに明け暮れる荒んだ毎日を送る。16歳の時に裏カジノで大敗し、仲間にもあっさりと見捨てられる。その後、危うく人買いに連れて行かれそうになるも辛くも逃げ切り、人間屋まで行き着くとそこでステラという少女と運命的な出会いを果たす。

 

悪評を知りながらも自身の歌を褒めてくれた彼女に人生で1度きりの恋をし、「ステラを自由にしたい」と願ったことからステラを買い取るための彼女の嫌いな悪事で金を稼ぐことはせずに、昼夜を問わずに真っ当な方法で働き続ける。毎日寝ず食わずで働き続け、仕事の合間を見てステラの元へ足を運び、「将来は大きなステージで歌う」という夢を語っていた。

 

その3年後あと少しでステラを買い取れる金額までに稼げていたところで、町に現れた天竜人によってステラは買い取られてしまう。

 

怒りから天竜人に歯向かい抵抗したが、それが原因で彼女共々奴隷として聖地マリージョアに連行され、背中に奴隷の烙印を刻まれながら自由の無い地獄の生活を強制された上で「許可なく笑ってはいけない」と命令される。

 

その2年後にステラが死んだ事を知り、「金さえあれば彼女を救えた」という怒りと後悔の念から金に対する執着心を更に抱くようになる。

 

15年前に起きたフィッシャー・タイガーによる奴隷解放事件でマリージョアから命からがら逃げ出し、身を隠してゴミを漁りながら一線を越えた犯罪に手を染めるようになり、それと同時に金持ちや貴族に対する憎しみを抱くようにもなる。

 

そして、復讐する力を手に入れるために犯行に及んだ模様。

 

記事はまだまだ続いているが、ドフラミンゴの庇護から旅立つということはこれが当然の扱いとなるのだ。忘れないように記事を取っておかなくてはならない。なにせこの新聞の裏面にはこう書かれているのだ。

 

 

 

北の海で蔓延る人攫い屋や海賊を襲撃する海賊が現れた。彼らは拠点を頻繁に変え、海軍がなかなか居場所を特定できず、精鋭揃いのため捕まえられないでいた。そこに正義の鉄槌を下す者達が現れた。ハートの海賊団を名乗る者達だ。圧倒的な強さで壊滅に追い込み、奴隷達は全員無事に解放され、海軍に保護されつつ家族のところに送り届けられた。ハートの海賊団船長は「単なる気まぐれだ」とだけ残し、潜水艦に乗って去っていった。世界経済新聞にはでかでかとふたつの海賊団が戦っている写真が映っていた。

 

毛皮の帽子を被り、刺青を入れた青年が、鬼のような形相で切り掛かる様子や海賊団のメンバーと思われる者達も映っている。不敵に笑う青年の手配書も掲載されていた。

 

この記事の並びは明らかに恣意的なものを感じる。気のせいでは絶対にない。

 

海賊の道を選び、冒険に明け暮れた。地理的にも時間的にも過去のことを振り返っている余裕はもうない。おれはこれからも海賊団の船長として、仲間達を引き連れて、先陣を切って戦いへと身を投じなけるばならない。

 

おれは指示を待つ自慢の仲間たちを見まわしてうなずくのだ。

 

「おい、お前ら。わかってると思うが、今この瞬間からおれ達は北の海の闇を敵に回した。それはおれ達がウミット海運やドフラミンゴファミリーの庇護から旅立つことを意味する。それはつまり、今から最速で偉大なる航路にいかねえと、シマを荒らされたウミット海運とドンキホーテファミリーが血の掟に従い、おれ達を抹殺しに動き出すも同然だ。それだけのことを、おれ達はしたんだ。なぜか?これを宣言するためにだ。───────覚悟はいいな?帆を上げろ!航路を確認しろ!ハートの海賊団出航だ!!」


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。