(未完)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
4年ぶりにイールがウミット海運のホーミングの船の副船長に復帰するとあって、船内は和やかな歓迎ムードが漂っていた。リハビリを兼ねてしばらくは医療班同伴のもと、裏方の仕事から始める予定だ。それにあたり義手が必要という話になった。
真っ先にその話題に飛びついたのは、おそらく義手をつくることになるロボット2名である。きらきらした顔でイールのところに走ってくる。懐かしい光景だなあとイールは笑った。
「ビームは?漢の浪漫ビームはご希望でありマスカ、副船長ッ!?」
「副船長はデンキウナギの魚人でアリマス、スペーシア中尉ッ!電磁砲かもしれないでアリマスッ!!」
「ハッ、武装色を使うなら波動砲もありでアリマスネ、ドルネシア中尉ッ!!」
「ハイ、スペーシア中尉ッ!ダイヤル砲も種類が多彩なので小型化に目処が立ち次第、検討すべきかと思いマスッ!!」
「いっそのこと付け替え式にして全部やって欲しいでアリマス、副船長ッ!!失敗した悪魔の実を液状化して敵体内に注入、海に落として感電溺死コンボも捨てがたいでアリマスッ!!」
「はは、夢は止められないようだね、イール。せっかく義手を作ってもらうんだ。ついでにスペーシア中尉達の行き詰まりを見せてる研究の息抜きに付き合ってやってくれるかい?」
「いや、船長。おれは普通の義手でいいんだが......」
すっかり忘れていたがロボット2名はロマンが大好きだった。しかも船員初の義手だからかなりワクワクが止まらない様子である。
本人の希望ガン無視で進んでいくイールの義手の話に、たまらず本人はたじたじながらも否定した。その途端に周りが恐ろしいほどに静まり返る。
あれ、とイールは辺りを見渡した。ホーミングは相変わらずにこにこしているが、スペーシア中尉達がガン萎えした顔をしている。扉に目をやれば楽しそうな話に盗み聞きしていたミンク族部隊が露骨な失望した顔をしている。ブーイングをいいたそうな魚人部隊が無言でイールを見ている。イールよりみんな興味津々だった。
集中する視線にいやいやいやとイールは首を振った。
「この腕はおれの罪の証なんだ、なくてもいいぐらいなんだが......」
「どうでもいいでアリマス、そんなコト」
「えっ」
「エーッ?!でアリマスッ!」
「エエエ───────ッ!?でありマスッ!!」
「副船長には心底がっくりさせられるでアリマスッ!」
「過大評価しすぎたでアリマスッ!所詮は船長の期待に逃げ出した敗北者でありマスッ!」
「残念でありマスッ!見損なったでアリマスッ!」
「さすがは逃げたくせに、謝りもしないで、船長見るなりタイガー助けてっていうだけはアリマスッ!!」
「もうやめてあげなさい、2人とも。イールがないちゃうだろう」
「いや......別に泣いてないが......ちょっと傷ついただけだが.....。正直見習いのシデ達がモデルだから、子供のミンク族に言われてる気がして余計に精神にキツイだけだが」
もうボロくそである。誰だスペーシア中尉とドルネシア中尉に罵詈雑言を教え込んだのは、とイールは周りを見渡す。2体はロボットだ。人工知能だから学習させてる奴がいないとこうはならない。しーんと静まり返る。露骨に目を逸らすミンク族部隊長達にイールは無言で制裁した。
「全部搭載するなら、かなり丈夫につくらないといけないね」
「うそだろ、船長ッ!?信じてたのに!」
「うん?海戦に耐えられるような頑丈さや海中で重石にならない軽さがいるんだろう?なら色々試作しなくてはならないじゃないか」
「それは一理あるが......」
「武器の分野はカイドウが先をいくからね、なにかしら付随するものがないと意表をつけないだろう?義手もただではないからね」
「..................ジンベエ助けてくれ、タイヨウ海賊団に帰りたい」
「イールが魚人じゃなければ悪魔の実を考えたんだが、ダイヤル砲と海戦の要だ。カナヅチは困る。それに半端な練度ではシャンクス並みの覇気使い相手だと解除されかねないからね」
「......リュウグウ王国に帰っていいか、船長?」
「私は構わないがいいのかい?合わせる顔がないんだろう?」
「......うう」
「鉱物は何にするであリマスカ?」
「酒鉄鉱ならドフィ仲介でカイドウにもらうか。いや海軍が新しい防護壁作るのに裏取引があったな」
「海軍なのにカイドウんとこから買っちゃうんだ」
「まあ素材に罪はないし、産出地域をカイドウが独占してるから仕方ないんだが。そこから持ってこれないかドフィに聞いてみようか」
「はいはーい、せんちょー!海軍科学本部から海楼石製の義手作ってるって聞いたことあるよー!ドフィ経由で調べてもらったらー?」
「科学本部がわざわざ?義手にしては随分と手間がかかっているね、初耳だ」
「こないだの配達の時に噂で聞いたんですけどー。ほら、ウィーブルの海軍船強奪事件で、新人海兵達虐殺されたじゃないですかー。あれでゼファー先生イールみたいになったんだってー」
「黒腕のゼファーが?」
「誰だ、船長?」
「通称黒腕のゼファー。あるいは、全ての海兵を育てた男。元海軍本部大将だよ。ガープ中将やおつる、センゴク元帥の同期でね」
やけに懐かしそうに語るホーミングに、イール達は、ガープ中将と付き合いが長いため知り合いになったのだろうと勝手に脳内補完していた。ホーミングはほんとうに顔が広いのだ。下手をすれば本人が知り得ない人間はいないんじゃないかとまで錯覚しそうになる。
ホーミング曰く。
海軍にいた頃は立派な海兵で、その姿は同期のガープ中将に「誰よりも海軍の正義を信じた男」と評される程であった。海賊を決して殺すことなく投獄するような、正しい海軍を体現する人物だった。
なにせ、14歳で海軍学校に入り、同期が化け物海兵ぞろいだった中、自身も凄まじいスピードで成長。 下士官の時点で六式を修得、34歳で覇気を習得して、弱冠38歳で最高戦力である海軍本部大将にまで上り詰めたというのだ。
しかしゼファーを恨んだ海賊によって妻子を殺されてしまったショックから自分の信じてきた正義に悩み、大将を辞任。 その後は上官の説得で教官として後輩の指導に力を入れ、三大将などの現在の海軍を支える多くの屈強な海兵たちを世に送り出した。
教官としては厳しかったが、これは彼の誰にも死んでほしくないという思いからくるものであり、「全ての海兵を育てた男」 と言われる名教官だった。
その最中に起きたのが、さっき話題に上がっていたウィーブルの襲撃事件だ。ゼファーが指揮する演習艦が襲われ、たった2名の演習兵を除く全員が殺害され、自身も右腕を切断されるという悲劇に見舞われる。
今は教官も辞めてしまい、消息が知れないそうだ。科学班が義手の制作を進めているのは、ゼファーに元気になって欲しいのかも知れない。
「そんな人破るなんて、ウィーブル強いんだー」
「さっすがー。強さだけなら白ひげ並みっていわれるだけはあるね」
「白ひげの隠し子ってほんとかな?」
「え、全然似てなくない?」
「白ひげって部下を息子って呼んでるし、いっぱいいるんだし、実の息子だってわかってたら一緒に海賊やるって普通」
「だよねー。なんかイメージとちがーう」
「さっきから何笑ってるんだ、船長?」
「いやなんでもないんだ、こっちの話だよイール。大したことじゃないんだ」
なぜか思い出し笑いをしているホーミングに、イールは疑問符を浮かべていた。
しばらくして。
イールが船長室を訪ねたとき、ホーミングは沢山の資料を綺麗に並べて封筒にいれているところだった。
「今、大丈夫か船長。忙しいなら出直すんだが」
「ああ、いいよ。なんだい?挨拶はすませただろう」
「いや、ちがうんだ。スペーシア中尉達のいうように自分の立場をわきまえていなかった、ほんとうにすまない。副船長と言われて気が緩んでしまった」
「はは、なんだそのことか。彼らはロボットだからね、人間関係の微細も変化もなかなか学ぶのが難しいんだろう。だがイールにはそれがかえってよかったようだね」
「ああ、4年前と同じ感覚で接してしまった。おれの勝手で4年もウミット海運のことも、副船長としての仕事のことも、放棄しておきながら......。本当に申し訳なかった。受け入れてもらえたのもおれが裏方としてやり直すからだってのを忘れてしまっていた」
「タイヨウの海賊団だと魚人街の人間関係がそのまま反映されていたようだからそのせいだろうね。気づいてくれたようでよかったよ。だからこそ居心地がよかったんだろうが、うちはウミット海運だ、海賊じゃない。お前がいない間に入った社員や見習いもいるからね。次回から気をつけてくれ」
「わかった、気をつける。本当にすまなかった。船長の期待に耐えきれなくなって逃げ出したおれを、また受け入れてくれてありがとう」
「次がないように気をつけてくれ、イール。私から言えるのはそれだけだ」
「わかった。本当にありがとう、船長。仕事中に邪魔をしてすまなかった。遅いかもしれないがイデ隊長達と話をしてくる」
「そうだね、それが一番いいだろう。行動しなければ、何事も始まらないからね。行っておいで。ああ、そうそう。スペーシア中尉達には、うちは深層海流をつかうし、あちこち航海する。だからギミックより安全性重視でお願いしておいたから心配しないでくれ」
「ありがとう、船長」