(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第36話

イールがウミット海運に復帰してから数年がたった。この間にも魚人島の情勢は目まぐるしく変化している。

 

タイヨウ海賊団2代目船長となったジンベエは、魚人族が世界政府に近付く為に政府からの誘いを受け、魚人族初の王下七武海となった。恩赦により釈放されたアーロンからは人間の狗になるなら、大アニキは死んだと反旗を翻され対立。

 

種族主義者のアーロンはジンベエに手を出さない一方でジンベエはタイガーの遺志を守ろうとしないアーロンを叩き伏せるも、同胞であり弟分のアーロンを殺すことは当然できず、アーロンと袂を分つことになってしまった。

 

これにより、アーロンとその傘下であったクロオビ、チュウ、ハチ達はジンベエの下を離れ「アーロン一味」として独立すると宣言。

 

仲裁に呼ばれていたホーミングは「アーロン一味」に戻るんなら、今までみたいに魚人島を攻めてくる海賊を捕縛してリュウグウ王国に引き渡してはどうかと声をかけた。

 

しかし、アーロンの長い長い沈黙ののち吐き出された返事は、残念ながら否だった。いくら恩義があるホーミングの言葉でもアーロンには届かなかった。

 

「なんでアンタは魚人じゃねェんだ、ホーミングさん」

 

絶対に口に出してはならないはずの言葉だった。絶対零度に凍りついたその場所を一瞥もせずアーロンは去っていき、「アーロン一味」も後に続いた。

 

その場を去っていった「アーロン一味」に続いて「マクロ一味」も離脱し、人魚を含めたあらゆる人種を狙った人攫い稼業を再開してしまう。

 

のちにウミット海運の仕事の支障をきたし、ドフィの事業を邪魔するようになった「マクロ一味」だが、血の掟に従い処刑しようと派遣するも派遣した社員は皆返り討ちにあってしまう。幹部クラスでなければ処刑はできないと判明したところで、ドフィから人間屋で対処するから放置しろと手紙が来たそうでウミット海運は手を引いた。

 

ドフィ曰く、確実に人魚を捕獲できる「マクロ一味」が希少な存在なのは世界政府も同じらしく、人間屋で取引を止めた方が効率的にウミット海運に奴隷を売り飛ばせるから楽だそうだ。

 

唯一残されたジンベエ達タイヨウ海賊団は、七武海になった以上、魚人島を縄張りにはするが常駐できないことは誰の目にもわかっていた。

 

「ジンベエ、イール、君達もアーロンと同じなのか?」

 

イールは頭が真っ白になっていたため、なにもいうことができなかった。ホーミングの視線に気づいていたが、目を逸らすことしかできなかった。ため息が怖かった。だから、ホーミングがどんな顔をしていたのか分からなかったし、知りたくないでいる。

 

「すまない、船長」

 

それだけしかいえなかった。

 

「実にくだらない。心底ガッカリさせられたよ。そのくせ、結局、誰も残らないのか魚人島には?人間を憎みながら人間に守らせるつもりか?私は聖人じゃないんだが?」

 

数日後行われたネプチューン国王とホーミングの秘密会談により、なにかしらの密約が結ばれたのか、ウミット海運はリュウグウ王国の医療分野と軍事分野の支援を表明。この日からリュウグウ王国の動きは明らかに変わった。白ひげとウミット海運の庇護下にありながら、自らの軍事力を強化しながら医療体制を確立し、なにかの目標に向かうように淡々と動くようになった。

 

 

 

 

 

 

そして、あの時と同じような絶対零度の殺意を隠しもしないでホーミングはリュウグウ王国のネプチューン国王に謁見していた。

 

「鍛えてはいるようですね。聞いた限り警備体制に不備はなさそうで安心しました。なら落ち度はなんだと思います?」

 

覇気になんとか耐えているリュウグウ王国の軍人達を見渡してホーミングはいう。

 

「まさかとは思いますが......。ウミット海運が何故ここまでリュウグウ王国に投資をし、あらゆる事業を斡旋し、優遇措置を講じてきたか。お忘れですか、ネプチューン国王。あの日、貴方がおっしゃられた言葉を私は一日たりとも忘れた覚えはないのですが。貴方は忘れたのですか」

 

「すまんじゃもん、ホーミング」

 

「今ここで貴方の謝罪など1ベリーの価値もないからやめてください。私に連絡が来てからこの地を踏むまで約3時間、何故まだ犯人が見つからないのですか?」

 

ホーミングは魚人島の王宮である竜宮城内に存在する玉手箱の中身が何者かに持ち去られたことをいっているのだ。

 

略称は「E・S」。イールも噂程度しか知らない。一説によると怪力を得られる薬、また一説によると年を取る薬と言われている。

 

密約から明らかに警備体制が強化されていたはずなのに、E・Sは盗み出されてしまった。盗み出された玉手箱には強力な爆薬が仕込まれており、その日の担当兵が確認して負傷し、即座にホーミングに連絡がいってイール達は今ここにいる。

 

「あの日、オトヒメ様の手紙を読んだときに感銘を受けたこと、昨日のことのように思い出すことができます。だからこそオペオペの実の量産に成功した暁には貴方に最初に取引するつもりでした。それは何故か。E・Sが盗まれたら全てが破綻するんですよ、ネプチューン国王陛下」

 

ざわつく玉座にネプチューン国王は重い口を開いた。

 

E・Sの効果はなんとアラバスタに伝わる豪水とよく似ているという。飲むと一時的に超人的な力を得るが命が削られるという諸刃の剣である豪水と違い、E・Sは老化がすすむ程度で済むという。ホーミング曰く豪水の改良版らしい。その噂は様々なところに広がっており、四皇や裏社会の帝王、世界政府までもが狙っている。

 

単体なら老化の末に生き地獄のまま囚人となるE・Sが何故そこまで狙われるのか。ホーミングがオペオペの実の量産という言葉でイールはそれを理解するのだ。

 

E・Sはオペオペの実の不老不死の手術を受けた者が使うとそのデメリットを完全に踏み倒し、ただの強化剤と化すのだ。

 

「オトヒメ様が800年前に夢破れたこの国の理想を叶えるために本気で活動しているからこそ、それを支える切り札として提供することを私は決めたのです。このままでは世界会議に出ても反対派多数で否決されるだろうと話したら、その教訓を生かして次回からは必ず出席すると約束してくださいましたよね。だから私は貴方達の力になりたいと今まで一心で支援してきたというのに」

 

ため息をついたホーミングはいうのだ。

 

「犯人はウミット海運のシマを荒らしましたから、通告どおり我が社の血の掟に従い、いかなる人物がかかわっていようと関係者を皆殺しにします。いいですね、リュウグウ国王。それにもかかわらずE・Sが見つからなかった場合は、ウミット海運はこの国にかかわらる全ての事象から永遠に手を引きます。どこまで私を落胆させれば気が済むんだこの国は。そんなんだから800年もこんな海の底にいるんだろう?なあイール」

 

イールはまた何もいえないまま、ネプチューン国王に一礼して、ホーミングを追いかけた。一応名目上、イールはホーミングの護衛なのだ。


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