(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第37話

ホーディ・ジョーンズは魚人街での幼少期に、アーロンを始めとする人間を嫌悪する大人達の影響を受け、直接的に人間に危害を受けたわけではないにもかかわらず人間へ極端な敵愾心を抱いた男だった。

 

かつてフィッシャー・タイガーが聖地マリージョアを襲撃し魚人を含む奴隷を解放した武勇伝を聞きタイヨウの海賊団を尊敬していた。

 

人間の海賊を相手に暴れ回っていたアーロンを尊敬し、アーロンの右腕になるべく、彼は実戦での技術を身につけるためネプチューン軍に入隊し、魚人空手・魚人柔術といった戦闘技術を学んだ。

 

しかし、その前にアーロン一味がタイヨウ海賊団を去ってしまった。それが凶行の直接の引き金だった。

 

金で買収した人間にオトヒメ王妃が長年かけて集めた地上移住の署名箱を燃やさせ、その混乱の隙を突いて銃撃。そして雇った人間を殺害して暗殺事件の犯人に仕立て上げ人間との融和を掲げていたオトヒメの夢を打ち砕こうと計画していた。

 

ホーディはイールが驚愕するほど魚人族の中でも常軌を逸した、非情で凶暴なる気質の持ち主だった。アーロンを始めとする反人間派の魚人達の影響で、彼らと同じように極度の人間嫌いかつ魚人こそが至高の種族と信じる種族至上主義者。まさに魚人族の恨みと怒りだけを食って育ったような男だった。

 

過激な排他主義者で、人間はもちろん、人間と友好を結ぼうとする同族も躊躇なく皆殺しという考えを持つ。 そのため、人間に少しでも友好的に接した魚人や人魚を問答無用で「闇夜の裁き」として襲撃していたため、すぐに調べはついた。

 

ホーディ達自身は人間から迫害を受けたわけではないことがイールには衝撃だった。

 

人間を忌み嫌う魚人達の「洗脳」ともいえる教育で一方的に激しい憎悪を抱くに至り、世界中の人間を海底に引きずり下ろして奴隷とし、地上を支配しようと目論むようになった。

 

オトヒメが命懸けで訴えている「子供たちに伝えてはいけないこと」を受け取ってしまった存在であり、想像の中にしかない人間の虚像を相手に経験の伴わない憎しみを膨らませてきた。

 

そんなホーディが今の今までなぜ見つからなかったのか。それはたまたま雇った(とホーディは思い込んでいる)人間がCP0だったからだ。それがE・Sの強奪を優先させることに繋がり、運輸王が掌握している世界中の航路を全力で調査して見つかるまで計画が露呈しない最大の理由だった。

 

今、イールはウミット海運が包囲した民間の船にいる。ホーディ以外の一味はすでに処刑され、ホーミングが五老星に謁見してCP0を全員と面通しさせるために呼びださせてほしいと連絡をいれようとしていた。ホーディだけ瀕死で生け取りにされているところだった。

 

「フッフッフッフッフ、今おれはアンタも人間なんだなと心底安心してるぜ、ホーミング」

 

「どういう意味だい、ドフラミンゴ。私は生まれたときから人間だよ」

 

「まあ、聞け。久しぶりに面白いもん見せてもらったぜ。珍しいこともあるもんだ。初めてじゃないか、ご自慢の見聞色が外れたのは。なあ、ホーミング」

 

「なんだと?」

 

突如浮上してきたヌマンシア・フラミンゴ号。民間の船に偽装されていた政府の船に乗り込んできたドフィが笑いながらホーミングに声をかける。

 

「変な問い合わせだと思ってきてみればこれだ。

アンタの読みはハズレだ。七武海ゲッコウ・モリアの部下アブサロムは無能力者だぞ、ホーミング」

 

ドフィの言葉にホーミングは唖然としていた。

 

「───────この船にいるわけか、スケスケの実の能力者が」

 

ホーミングは珍しく狼狽していた。

 

「警備に不備はない。私の覇気に耐えられるくらい鍛えられている兵士達に落ち度はない。リュウグウ王国側に落ち度はない。つまり、私の想定以上に世界政府が本気ということか、ドフラミンゴ」

 

「その通り。だがアンタがこれから何かする必要はねえ。おもしれぇモン見せてもらったからな、その礼だ」

 

次の瞬間、足場が糸になり、全員が海に放り出された。政府の船が糸屑になり海に放り出されてしまい、雲に糸をひっかけて悠々とそれを見下ろすドフラミンゴ以外の全員が海面に落下する。ホーミングが発砲するのと突如姿を現した白い仮面の男の手足が的確に撃ち抜かれ、血の雨が降ったのはほぼ同時だった。

 

ドフラミンゴがはるか上空からアリを潰す程度の気軽さでそれ以外の政府要人全員をサイコロにしていく。イールはホーミングを受け止め、そのまま船に向かっていく。

 

「すまない、イール。私としたことがすっかり頭に血がのぼっていたようだ。お前にとても酷いことをいったね」

 

イールは無言で首を振った。

 

「ネプチューン国王陛下に謝罪をしなければ。許してもらえるといいんだが」

 

 

 

 

 

 

数日後、リュウグウ王国にE・Sを持って謝罪に現れたホーミングは、五老星にもらった今度新しく就任予定のCP0とCP9全員のリストを片手に今回の事件の首謀者の組織の概要を説明しながら、事の顛末をネプチューン国王に報告した。

 

更新されるたびにもらえるリストにどこまで信用があるかはわからないが参考にはなる。万が一不備があればまた新しいリストをもってくると話した。

 

ネプチューン国王は寛大にもその謝罪を受け入れた。ウミット海運は今後とも末永く大小関わらずリュウグウ王国と付き合いを続けると密約内容が更新された。

 

「ところで、珍しいですね、オトヒメ様。今日は署名活動にいかないのですか?」

 

「ホーミングさん、やっぱりドンキホーテ一族には話のわかる方が多いのね」

 

「といいますと?」

 

ホーミング達がE・Sを奪還しに奔走している最中、ドンキホーテ・ミョスガルド聖がかつて所有していた魚人や人魚の奴隷を取り戻そうと魚人島に押しかけたらしい。

 

しかし、航海の途中で船が難破してしまい、魚人島に辿り着いた時には船も自身もボロボロで、部下も壊滅状態だった。

 

当時は他の大多数の天竜人同様自分達が至高の集団であると教育されていたことにより、壊滅状態に陥った部下達を根性なしどもめと罵倒するなど、天竜人のイメージに違わない大変傲慢でワガママな性格だった。

 

そんな弱りきったところを積年の恨みがある魚人達に抹殺されそうになり、常軌を逸した環境故にと事態を飲み込めず戸惑いを見せていたところを、人間との友好を臨むオトヒメ王妃により助けられ難を逃れた。

 

助けられた後も、傲慢な態度は終始崩さなかったが、最終的にはオトヒメに説得され【魚人族と人間との交友の為 提出された署名の意見に 私も賛同する】という一筆を書き、人間と魚人族との友好関係構築を一歩前進させることとなったという。

 

「ご親戚なの?」

 

「親戚ですね。従兄弟だったか、また従兄弟だったか......随分前のことなので忘れてしまいましたが。そうですか、ミョスガルド聖が......」

 

ニコニコ笑いながらホーミングは、ネプチューン国王にオトヒメ様への警備強化を提案した。

 

なお、次の世界会議でも残念ながら反対派多数で否決された。オトヒメの挑戦は今もなお続いている。


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