(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第39話

式典そのものは厳かに、かつ華やかに行われた。世界政府、海軍、闇の五大帝王は表向きの社長として。ほか、各業界の有名人がたくさん招待され、イールも新聞で一度は見たことがある顔ばかりみることができた。

 

ウミット社長の護衛としてホーミングと招待されたイールはなかなか落ち着かず、ついつい手持ち無沙汰になって水ばかり飲んでしまう。

 

ガレーラカンパニーとは、偉大なる航路楽園側の島ウォーターセブンに本拠地を置く造船会社で、元々島内にあった7つの造船会社が統合されて誕生したばかりの超巨大造船企業である。通称ガレーラと呼ばれ、商談さえ成立すれば世界政府の船から海賊船まで何でも作る。

 

最高責任者は同社の創設者である社長で、次期市長選挙出馬が噂され、ほぼ市長への道が決まっているといわれるほど慕われているアイスバーグという男だ。

 

イールは名前だけなら知っていた。魚人島に住む実弟のデンが聞いたことがあったからだ。アイスバーグの師匠がかつてウォーターセブンに存在した少数精鋭の造船会社「トムズワーカーズ」の社長トムであることは。

 

トムは「伝説の船大工」と呼ばれたコンゴウフグの魚人で、フランキーとアイスバーグの師匠で、海列車「パッフィング・トム」の生みの親でもある。

 

ウォーターセブンは船大工の腕が全ての価値観の根底にあるため、魚人差別が比較的少ない場所として知られている。海賊王ゴールド・ロジャーのオーロジャクソン号を作るという大犯罪を犯して死刑判決を受けるほどの騒ぎにならなければ、差別は表立っては表面化しない風土だと聞いたことがある。

 

豪快かつ懐が深い人物で、船大工が造った船については一切否定はしないが、「作った船に男はドンと胸を張れ」という信条から、決して生みの親がその船の存在を否定してはならないという考えを持っていたという。

 

「久しぶりだな、アイスバーグ!ガレーラの内部を見学させてもらったが、実に素晴らしい!うちの新社屋にも真似させて欲しいものがいくつもあった。今度詳細を教えてくれ。ウォーターセブンの市長就任パーティはいつだ?決まったら教えてくれ、昔のよしみで格安で世界中の何でも運んでやろう。そうそう今回の手土産は北の海でしか手に入らない木材だ。必要なだけ注文しろ、特別価格で搬入してやる」

 

偉大なる航路に来る時は田舎丸出しの北の方言を排除した話し方にするくせがついているウミット社長がぶんぶんアイスバーグ社長の腕を振り回している。

 

「ンマー、気持ちはありがたい。ありがとう。だが、まだ市長選すらやってないんだが、ウミット社長。昔のよしみって私はウミット社長の弟子ではないだろう」

 

「そう水臭いこというな、アイスバーグ!お前の師匠の師匠は私のよきライバルだった!つまりあいつの弟子の弟子は私の弟子みたいなもんだ!」

 

「......なんて無茶苦茶な」

 

さすがにアイスバーグは困っている。ホーミングが見かねて間に入って世間話を始めた。

 

ウミット社長が感激するほどガレーラは、島内に複数の広大なドックを持っており、船の製造はそこで行われる。そのドックの中でも1番ドックと呼ばれるドックの職人達は、社内トップクラスの造船技術を持っており、更には料金の踏み倒しや略奪を狙う海賊を撃退出来るだけの強力な戦闘能力も持っている。

 

特に職長と呼ばれる現場の責任者達の実力は群を抜いている。

 

起業式典のため代表社員達も揃って出席している。どこかで見たようなメガネをしたカリファという女秘書の紹介で1人ずつ一礼していく。

 

まずはアイスバーグ社長。

 

パウリー、1番ドック艤装・マスト職職長。額にゴーグルを着け、式典のため葉巻が吸えなくてイライラしている男。

 

ピープリー、1番ドックピッチ・鍛冶・滑車職職長。眼鏡と口ひげ、胸と二の腕のタトゥーがイカすナイスガイだが、必ずどこかから髪が角のように飛び出ており、直したとたんに別の箇所から飛び出すのが特徴。

 

そのため寝癖が完璧に直ればひげが片方だけやたら長く伸び、ひげが整っていると今度は頭に、時に腕など寝癖が発生するほど毛の密度がない部位からすら飛び出す。

 

それだけならまだしも、挙げ句その寝癖は今まさに戦っている相手の鼻の穴から飛び出して集中力を奪うという悪魔の実の能力としか思えない挙動を起こすことすらあるようで、もはや寝癖とか髪の毛とかそういうレベルを超越したミラクルなパーツと化している。

 

タイルストン、1番ドックさしもの・コーカー・縫帆職職長。大柄でガタイの良い髭もじゃの巨漢で、誰も聞いていないのに始めた自己紹介によると戦艦用の大砲を片手で扱うほどの力自慢らしい。また、声もかなりでかい。 左胸に「船」という文字のタトゥーを入れているのが特徴。

 

ロブ・ルッチ、1番ドック木びき・木釘職職長。ウェーブのかかった黒長髪に鋭い目つき、厚い唇が特徴の長身の男。 眉毛と顎髭が音記号のような曲線を描いており、なぜか白い鳩をつれている。腹話術で話す。

 

カク、1番ドック大工職職長。長い真四角の鼻とパッチリした目、いつもかぶっているキャップ、一人称が「わし」の老人っぽい口調が特徴的な青年。

 

ざっと大工職職長を眺めみて、イールは思うのだ。なんでこいつらリストと同じ名前で潜入してるんだと。そして思い直す。良く考えたらCP9なのだ、本名なわけがない。コードネームのようなものなのかもしれない。

 

プルトンの設計図の継承条件を考えればアイスバーグが一番可能性が高いのは間違いないだろう。潜入理由をなんとなく察したイールは、隣で拍手しているホーミングが今考えていることがわかる。式典終了後にウミット海運のお得意様のありとあらゆる繋がりに、ありとあらゆる手段でもってこの式典で知り得た情報を拡散するだろうなと考えた。それなりの報酬が見込めそうな案件だ。ウミット社長の満足いくまで随行は長引きそうだが、退屈はしなさそうである。

 

「こちら、私の護衛のイール。デンキウナギの魚人なんだ、よろしく」

 

「はじめまして、ウミット海運のイールです」

 

「魚人か......」

 

どこか懐かしそうにアイスバーグはつぶやいたのだった。


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