(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第40話

火拳のエースといえば世界最弱の平和な東の海出身のスペード海賊団の船長だ。

 

ガープ中将がフーシャ村に迎えにいく前に海賊になるために旅に出たとひどく怒っていたから、その時点ではなく東の海のどこかの島でメラメラの実を口にしたと思われる。

 

なぜそう断言できるか。それはウミット海運がいくら海運王の会社と呼ばれていても商業的な意味での頂点にいるわけではないからだ。西の海がウミット海運とは違うマフィアに掌握されているように、東の海は海軍の英雄ガープ中将の出身の海でもあり、世界政府の影響力がかなり働いている。それでも、表と裏を使い分けて持ちつ持たれつ、見て見ぬ振りの関係でやっている。だからメラメラの実みたいな強力な能力を生む悪魔の実を本気で隠されてはわからないのだ。

 

スペード海賊団は炎を動力とする船「ストライカー」にのり、風任せの帆船よりはるかに機動力に優れた航海ができることで知られている。

 

偉大なる航路に突入し、有名どころの海兵と交戦をしながらも新星の海賊として注目を集めることになる。

 

シャボンディ諸島に到達すると、世界政府から王下七武海への勧誘を受けるも、さらなる海賊の高みを目指すエースは勧誘を却下。立ち塞がった海軍中将を戦いの中で習得した武装色の覇気を纏った攻撃で撃破し、後半の海新世界へ向けて船を進めている。

 

世界政府からみて国を襲ったり、謀略を巡らせたりする海賊ではないため危険度が低く、5億5千万ベリーというかなり低い賞金首ながら、快進撃を続けている期待新鋭の海賊だ。

 

「そんな海賊団の船長が私を名指しで何のようだ?スペード海賊団は危険度が低い海賊団だと認識していたんだがね」

 

「約束を果たしてもらいに来た。アンタの船に格安で乗せてくれ。行きたいところがあるんだ」

 

「自慢の船員と船をおいてか?」

 

「問題ねえ。ウミット海運の支社においてくれるだろ?ドフラミンゴみたいに。おれの船に親子の時間を邪魔するような奴は誰もいないさ」

 

誤解を招くような発言を平然としながら笑うエースに、私は苦笑いして船に乗せてやることにした。スペード海賊団の誰もが船長をよろしくとばかりに反応しているからさもありなんだ。

 

ルージュの件は当時の船員達以外には誰にも話していないため、ドフラミンゴの誤解から広がったこの海のどこかにいる異母弟の噂を特に訂正しないまま18年が経過しているのだ。

 

そんな下地があるウミット海運の支社のど真ん中でそんな発言を繰り返せばどうなるか。私に即座に連絡が行き、事情を知っているくせに無駄にニヤニヤしながら気を利かせた社長が私の仕事を全てとりあげてしまうに決まっていた。

 

私はエースを船に乗せてやる。もちろん行き先は南の海にあるバテリラ。かつてルージュが潜伏していた場所であり、親族が今でも隠れ住みながら墓を守っている場所だ。ささやかな花束を備えたエースが立ち上がった。

 

「ありがとう、ホーミングさん。アンタのおかげでやっと墓参りができた」

 

「もっとはやくに来ると思っていたよ。海を出たのは1年も前だろう。ガープ中将が言っていたが」

 

「ここに来る前にどうしても海賊団をたちあげたかったんだ。18年もおれのために汚名を被りながらも黙っていてくれたアンタに、おれの自慢の仲間と船を見せたかった」

 

「私はガープ中将へ恩義を返しただけだ、そんなこと気にしなくてもいい」

 

「そんなわけにはいかないだろ!?アンタ、妻子持ちで事情が事情だけど、奥さんのこと愛してるからモルガンズに匿ってもらったんだろ!?それなのにおれのせいで愛人囲って子供までつくる男なんて不名誉すぎる噂流されてるじゃないか!」

 

「18年も経つと公然の秘密になってしまっているのは事実だな」

 

「ほら、やっぱり......!!」

 

「ルージュさんとお前のことを明かすのは、命懸けでお前を産んだルージュさんの覚悟を無下にすることになる。ドフィは七武海だしロシーは海兵、妻はモルガンズにいる。お前の出自がバレる可能性が否定できない以上、明かすのは無理だとわかっていた。気にしなくていい」

 

「いや気にするって!!」

 

エースは必死で叫んでいた。ロジャーと違って礼儀正しい青年だ。

 

「おれ、ずっとポートガス・D・エースって名乗ってるんだぞ!?なんでドンキホーテのまま手配書が更新されないんだよ!」

 

「ゴールド・ロジャーの時もそうだったが、たまに間違えるんだ。世界政府は」

 

「余計ダメじゃねーか!天竜人の血を引くドンキホーテ・エースって思われてるじゃねーか、ホーミングさん!!おれには一滴も入ってねーよ、アンタの血!!」

 

「そうだな、訂正したいならドフィにあって直談判してくれ。気を遣っているんだろう、色々手を回しているようだからな。私がいくら説明しても聞く耳を持ってくれなくてな、今となっては流されてしまうんだ」

 

「どんな説明したらそうなるんだよ!父親としての威厳まで地に落ちてるじゃないか!あーもーほんとにすいませんでした」

 

「いやいや」

 

「くそ、こんなことなら七武海の話、聞くだけ聞いてドフラミンゴに会う約束取り付ければよかった。こんなに広まってたとは......」

 

「ウミット海運は顔が広いからね。それに18年はあまりにも長い」

 

「縁もゆかりもない人に察したって顔されるおれの身にもなってくれよ。だいたいなんでホーミングさんの息子なんて噂がおれとイコールになるんだ?顔立ちも髪の色も出身地も違うのに」

 

「おそらくロシーをガープ中将に託した前歴があるからだね。二度あることは三度あるというやつだ。お前で二度目と思われてるんだろう。でも所詮は噂だ、気にしなくていい。お前は嫌だろうがロジャーをしる誰もがお前をみたら、私よりロジャーを思い出すからな」

 

「それはそれで嬉しくねえ......むしろ嫌だ......」

 

エースは頭をかかえている。

 

「新世界に行くとロジャーを覚えている大海賊ばかりになる。訂正も格段に楽になるだろう、頑張れ」

 

「もう時効だろ?ホーミングさんからも訂正してくれよ」

 

「それはダメだ」

 

「なんで」

 

「悪いが私はガープ中将との約束とルージュさんからのお願いを優先させてもらう。私が身を置く世界は、信用が一番ものを言う世界なんだ。破る者に待ち受けるのは死しかない。だからこそガープ中将は私を関わらせる気になったんだろうからな。悪く思わないでくれ」

 

私の顔を見て無駄だとわかったのか、エースは深いため息をついた。

 

「めんどくせえ......」


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