(未完)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
すでに女の足元には黒腕のゼファーを慕ってこの船に乗り込んだはずの海兵達が転がっている。
「ふふふ、あなたが噂のアイン中将?」
海軍遊撃隊の上空から飛来したハーピーのような女が音もなく甲板にたつ。
「だとしたらどうするの?」
「海軍本部から何も通知されていないの?ドレスローザはドフラミンゴファミリーのナワバリよ。不可侵のはずでしょう。うちのファミリーがみんな悪魔の実の能力者だからって狙わないで。七武海なのに」
「七武海でも海賊は海賊よ」
アインは双剣の構えをとり、女に切り掛かった。横一線、その次に放たれた剣捌きだったが女は意図も容易く交わしていき、その剣先に止まってみせた。刃先がふるえる。しなる。折れはしないが動けない。弾こうと振り払うと女は跳躍して後ろに降り立つ音がした。
「そんな迷いばかりの剣先が私に届くと思うの?だとしたら、相当舐められたものね」
ふふふ、と笑う女の声がする。
「舐めているのはどっちよ!」
アインは振り返ってすかさず女に触れた。
アインは超人系悪魔の実、モドモドの実の能力者であり、手から放つモドモドのエネルギーに触れた物品や生物を12年若返らせることができる。また触るともう12年分戻る。 なお若返った自我の記憶はそのままである。
若返らせる対象に制限は無く、人間に使うと当然ながら12歳若返る。 戦闘においてもそれだけでもかなり厄介だが、その上さらに12歳未満に使用するとなんと存在を抹消する。
強いて弱点を挙げるなら、モドモドのエネルギーは射程が非常に短いために能力の発動には対象に触れられるほどにまで接近せねばならず、同格以上の相手にはその時点で警戒されて決めにくくなりがち。
また、能力の行使の際には手にエネルギーの光が灯るため、絡繰りを見抜かれると対策されやすい。このため、その効果の強力さもあって能力を積極的に行使することは本人も避けており、要所でのみ奇襲的・切り札的に行使することで大々的な効果の露見を防いでいた。
だから、接近戦をしてくる女の隙を見て攻撃したはずなのだ。
「......どうして、姿が変わらないの」
「そう、残念だわ。黒腕のゼファーの教え子なら能力にたよりすぎは注意って言葉、聞いたことないの?」
「前に言われたわ。ゼファー先生の全盛期を取り戻したらどうかって提案したら怒られた」
「ふふふ、あたり前じゃないの。能力者が切り札程度の練度で満足していたら、その先はないのよ。過剰な覇気で能力を無効化出来るのは、この海の常識。干渉系の能力であれば無効化出来るということ。まして、黒腕のゼファーならあなたの能力なんて一瞬で解除できるわ。なにがいいたいかわかる?そんなことも知らないあなたは絶対に私には勝てないってこと。撤収しなさい。さもないとこの船、沈めるわよ」
「ドフラミンゴファミリーのモネだな」
「ゼファー先生!?」
「海軍に復帰したのね、黒腕のゼファー。海軍の正義に疑問を感じて現役を引退したと聞いていたのだけれど、誤報かしら」
「そうだな、貴様ら海賊に心配されるほど落ちぶれてはいない。アインから離れろ、少しでも動いたらただじゃおかない」
「それは残念だわ。市民の安全を守りたいなら、ドレスローザを守ってもらおうと思っていたのに」
「おれの正義はお前達と肩を並べてなし得るものではない。断る。そもそも何故海賊に己の命を預けるような国に力をかさねばならない?貴様ら海賊と運命を共にするのがお似合いだ」
「ひどいこというのね。何もできないまま、このままカイドウ達に支配されて、戦場で惨たらしく死んだらいいと思っているの?それは差別だわ」
モネと呼ばれた女は、不愉快だとでもいいたげにつぶやいた。
「どうして好きで生まれたわけでもない国のせいで酷い目にあわないといけないのかしら。そうやってどれだけの助けを求める手を払いのけてきたの?どうしてあの時助けてくれなかったの?だから海軍って嫌いなのよ」
モネがゼファーを睨みつけた。
「お前の八つ当たりなんぞ知るか。おれはドフラミンゴのいうあの男のことで話があるというから出向いたんだ。さっさと通せ」
「そうね、アイン中将だけならお帰り願ったけれど、あなたがいるなら問題ないわ。ようこそ、愛と情熱の国ドレスローザへ」
モネは飛び立つ。
「案内するんじゃないのか」
「ごめんなさい、どうやら今日の予定にないはずの船があるわ。沈めるのが私の役目だから先に進んでちょうだい」
去って行ったモネを見送り、ゼファーはようやく目を覚まし始めた若き海兵たちにこれが新世界の海賊の標準だと訓戒を述べる。
ゼファーはアイン達2名を除いて率いていた軍艦を全滅させた男について、闇のシンジゲートに君臨する男から面白いことがわかったからこいと言われているのだ。
もちろん最初は断った。
そしたら今度はどこから入手したのか、機密情報の資料を送りつけてきた。MADSを買収した世界政府がその遺産であるクローン技術と改造人間、血統因子という神の領域に踏み込んだ研究を軍事力として利用しようと考えているという報告書をゼファーはどうしても無視できなかったのだ。
仇討ちの対象であるあの男が白ひげの失敗作である可能性がある。しかもそれをもみ消すために七武海に入れるかもしれない。完成品はいずれ世界政府の軍事力として投入される。世界政府は資金面と喫緊の軍事力不足を解消するために導入するとしたら、子供の姿で。
海軍はその子供の兵器を指揮下に置くことになっている。海軍の正義をまだ信じているゼファーにとってどうしても無視することが出来なかったのだ。事情を知らないままドレスローザに連れてきてしまったアイン達は不安そうな顔をしている。ゼファーはそのまま進み、港に着いたら船に降りるのは自分だけでいいと告げる。
モネひとりにあしらわれてしまったアイン達は引き止める根拠さえ失ってしまい、しぶしぶ待機を命じられることになる。
「巷で噂のスペード海賊団じゃない。ドレスローザに何のようかしら」
「ドフラミンゴに話があるんだ、会わせてくれないか」
「あなたが噂のエースね。悪いけれど、ドフラミンゴ様にご用があるのなら、明日以降にしてくれる?今日は一日予定が入っていて忙しいの」
周りにあった海賊船は全て一隻残らず雪の重みに沈み、沈没していった。あるいは全てが雪に変わり、自重で大破していった。愛と情熱の国に入るまでに見聞色で判定され、相応しくないと判断された全てが無慈悲に海の藻屑と化している。
ただの海賊船なら先に進めないが、スペード海賊団の船は、炎を動力とする世にも珍しいシステムを搭載した船だ。おかげで船内は暖かい。仲間が外に出たがらないため、1人顔を出したエースにモネはそういった。
あまりに寒い海域に息が白くなる中、なぜか顔パスで通してもらえたスペード海賊団である。
仲間たちの中で勘違いが加速しているのをひしひしと感じながら、エースはドフラミンゴにどう話を切り出そうかと必死に考えていた。