(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第43話

「......きたか、黒ひげ」

 

ドラム王国の滅亡を報じる世界経済新聞の記事を見ながら、私は息を吐いた。

 

突然現れた海賊に王族が真っ先に海賊になる形で逃げ出し、残された国民が略奪の限りを尽くされる形での滅亡とある。

 

これから偉大なる航路に大きな影響を及ぼし続けることになるまだ無名のたった5人の海賊達。その船長にして「ヤミヤミの実」を食べた「闇人間」で、闇の引力を駆使してあらゆる悪魔の実の能力者の力を封じることができる男。

 

マリンフォード頂上戦争で古巣の船長白ひげを強襲しそのまま殺害、「グラグラの実」の能力も奪い、世界で唯一の2つの悪魔の実の能力者となる男。

 

瞬く間に勢力を拡大。 白ひげの残党の弔い合戦である落とし前戦争も圧倒的な力量差で勝利し、旧白ひげ海賊団を壊滅させる。かつての白ひげのナワバリを次々に略奪するなどその力を世界に知らしめ、四皇の一人と呼ばれるようになる男。

 

そして、かつての私を殺した男がようやく表舞台に出てきた。待ちわびた瞬間でもあった。私はさっそくデンデン虫の受話器をとる。今や海運王にのし上がった男が出た。

 

「どうしたのか?決まってるじゃないか。金獅子と同じく儲け話の邪魔になりそうな奴が見つかったんだ。全力で探してくれ。え、賞金額?0ベリーだがそんなこと関係ないだろう。将来性がいけない」

 

この新聞は記念として持っておこう。鍵付きの引き出しにしまった私は、ドフィからの手紙を読むためハサミを探した。

 

「よかった、順調なようだな。これなら間に合う」

 

ドフラミンゴファミリーが医療部門に進出したと聞いて、ウミット海運もスポンサーの名乗りをあげたとき、相変わらず儲け話の嗅覚が鋭いとドフィの手紙にあったことを思い出す。

 

先代国王が急死し、若くして王の座についたワポル国王が、王家がかかえる医者以外を全て追放すると狂気じみた宣言したとき、真っ先に動いたからそう見えるのだろうか。世界最先端の医療技術をもつ医者や看護師を自ら手放してくれるなら、これほど効率的な人材確保もないだろうと思うのだが。

 

追放された彼らを輸送するついでに提案して、私の儲け話に乗ってくれた彼らは今頃ドレスローザで日夜シーザー・クラウンが発明しつづける毒を用いた兵器に対応した薬や医薬品を作っている。親族や友人、コネを通じて別の国にいった者達との繋がりも継続中だ。

 

私としてはシーザー・クラウンがパンクハザードで事故を起こして逮捕脱獄ののち、カイドウの庇護下に入るのが目に見えていたから動いたにすぎない。

 

さっきの新聞にパンクハザードの爆発に関する記事があったことを思い出す。ドラム王国滅亡と同じくらいの時期だったのか。知らなかった。おかげでスムーズにいきそうだ。ドフィは何十回目になるかわからないこの偶然を私の見聞色だといっているが、お世辞程度に受け止めておこう。外れただけであれだけ上機嫌になるなら安いものだ。

 

E・S強奪未遂事件で私は情報収集の大切さを改めて学んだのだ。実際に見て聞いて話さなければ得られない情報が絶対にある。あの日から私は現場にいって、現地の人間と話す機会を増やした。ドフィとの手紙のやり取りも増やした。

 

ベガパンクが映像デンデン虫とかいう最新作を作ったというから、世界政府に掛け合い利権ごと買い取った。ドレスローザにこれほど必要なものはない。とくにホビホビの実の副作用で死刑囚をオモチャにする関係で、誰が何の罪でどんなおもちゃになったか記録しておけるのはたすかるのだ。見直すだけでドレスローザの誰もが情報共有ができる。シュガーは能力を使う場所に制約がかかってしまうが、万が一気絶して死刑囚が復活したとき真っ先に命を狙われるのは見た目年齢が8歳のまま固定の彼女だからしかたない。

 

天竜人もベガパンクの研究を通じて奴隷を素体に改造人間をつくるなんて、趣味に金をつぎこむことを覚えたやつはいつでもろくなことをしない。ドフィがモネと人質だったシュガーを保護しなければ人間屋の価値が暴落するところだった。人魚や魚人、ミンク族の奴隷の供給を止めたことでこんなところにまで影響がでるとは思わなかった。

 

話を戻そう。

 

そもそもパンクハザードは軍の研究施設がある島だ。当初、この島は美しい緑豊かな島だったが、世界政府が研究所を置くとそこの動植物を使って実験が繰り返されるようになり、ついにはよそから囚人を連れて来て人体実験なども始めだした。

 

そんなある日、元MADSにして万年2位の科学者シーザー・クラウンが、自らが開発した毒ガス兵器を島内で発動してしまい研究所が爆発。 毒ガスが立ちこめたことで生物が住めない荒野と化してしまい、立ち入り禁止区域となった。

 

さすがにベガパンクは度重なる使い込みと今回の事故で庇いきれなくなり、シーザーはこの責任を問われ失職し、投獄される事になったとある。

 

だがシーザーは途中で脱獄し、以後3億ベリーの賞金首となりながらも、自らが壊滅させたパンクハザードで密かに兵器の研究活動を続けるはずだ。海軍がいかに多くの海賊共を殺せるか。そういう兵器を求められている場所だといいながら。

 

前の世界でシーザーが世界政府から追放されてドフィの仲介でビッグマムやカイドウと繋がってから、世界中の戦場で化学兵器の投入が激増したのだ。

 

かつてハチノスの元締めとして海賊の派遣業もやっていた私にとって、傘下の海賊達のために医療体制をいかに維持するかは死活問題だった。

初期の対応に必要な抗生剤や人工呼吸器の類いはいくらあっても足りなかった。能力者の力でないため、覇気では毒は防げなかった。初めから儲かるとわかっている分野をすでにドフィが手をつけているのなら、参入しない理由がないだろう。

 

タチが悪いことにシーザー・クラウンは猛毒を用いた大量殺戮兵器をつくることは大好きだが、それをばら撒いたあとにどうするのか全く興味を示さない男だ。戦場に毒ガスがばら撒かれたとき、なにが必要でなにをしなければならなくて、汚染された土地建物をどうすればいいか。なにひとつ興味がない。誰も参入しない。儲からないからだ。

 

猛毒に汚染された場所で戦っている海賊に誰も興味を示さなかったせいで、かつての私の配下達がどれだけ死んだと思っているのだ。放置したら抗生剤などの生産や供給が追いつくのは十何年後になると思ってる。

 

かつて私が一番欲しかったものを欲しかったタイミングで提案するだけで儲け話ができるなら、こんなに効率的なことはないだろう。おかげで上手くいけば負けもしないが勝ちもしない戦争をさらに増やすことができるのだ。

 

それにウミット海運とドフラミンゴファミリーが化学兵器に対する研究で先をいくことができれば、それを新たな交渉材料に新たな儲け話もできるはずだ。かつての私に高値で売りつけてもいいだろう、医療機器はいくらでも欲しかったのだ、今回も欲しいはずである。

 

世界は明らかに紛争や戦争が増えている。平和になった国もあれば、悲惨になった国もある。革命軍が穏当な方法で革命を起こそうと遠回りする間に、お膳立てをすませていけば自動的に誰もがいつのまにかある武器をとる。大義名分と神輿の違いに気づかない一部が暴走し、無血革命になるはずだったのに内乱になった国がいくつあるだろうか。いつのまにか地図から国が消えても誰も気にしない。もはや日常になっているからだ。

 

革命軍に急進派が生まれるのが早くなるだけだ、そこになんの違いもない。ただ早まっているだけ。オトヒメ様いわく、前の世界会議だと世界最悪の犯罪者ドラゴンに対する糾弾はかなり凄まじいものがあったようだ。

 

私の計画は着実に近づいていると実感する。まだまだ前途は多難だが。


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