(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

44 / 136
第44話

偉大なる航路1万メートル上空にあるバロンターミナル。かつて廃墟だった空島はウミット海運の旗が掲げてあるとおり、私の儲け話の拠点のひとつだ。

 

天然ダイアルを養殖するための拠点として始まったここは、偉大なる航路の春島や東西南北の海で青海の養殖にふさわしい場所を探すために次の段階に進んだため、一旦役目を終えた。

 

今はなき空島ビルカから移住した人々の新しい働き口として選んだのは、島の真下にある無数の風船の除去。それに伴う気球船の関連施設の増築や航海士、運転士の育成にかかる教育機関の設置だ。

 

風船は単純ながら用途がたくさんある。ドレスローザでばら撒いてもいいし、ウミット海運の利用者に配ってもいいし、ウェザリアと取引があるウミット海運にとっては気流を読んで爆弾を投下する兵器にもなる。

 

ビルカの人々はゴムという物質を知らないようで、興味津々で風船狩りを楽しんでくれる。バロンターミナルが月の民に作られて以来ずっと放置されてきた風船は膨大な数に及び、何百年経ってもこの仕事は終わらないだろう。

 

気球船に乗って風船狩りを楽しむビルカの人々は、翼がついているのに誰も羽ばたいて飛ぼうとしない。なぜかというと自前のものではないからだそうだ。文化的に大切な装備だからつけているだけで脱着可能なのは驚いた。やはり翼が生えた種族は、カイドウの部下しかいないのだろうか。

 

「あったあった、やっとみつけたー!せんちょー、見つけたよ!5時の方角に800メートル。目標の碇マークの封筒もついてるし、たぶんあれ」

 

パンサのいう場所めがけて気球船は進んで行き、無数の風船の中から私はお目当ての風船をようやく探し当てることができた。これだけで数日かかるが、偉大なる航路でドラム王国を一夜にして滅ぼした無名の海賊団を探し出すには手段がいくらあってもいい。

 

いくらウミット海運の社長直々の指示でも、私の儲け話の邪魔になる可能性が高いという将来性だけでは社員達のやる気までは管理できない。金獅子のように誰が見ても明らかな敵でなければ士気は上がらない。

 

ならば発想を変えればいい。バロンターミナルに本当に世界中の風船が届くのか実験したいから協力してくれというのだ。情報伝達の速さを調べたいからと頼むだけでいい。黒ひげと名乗る5人だけの海賊達を見かけたら教えてくれ。人相はこの通りとモルガンズからもらった新聞にも掲載されたチラシをばら撒くだけだ。

 

ドラム王国の市民にインタビューするついでに人相モンタージュできるレベルの取材までするんだからさすがは新聞王だ。できた社員にはボーナスを出す。モルガンズの新聞より早ければ特別ボーナスを追加で出す。私のポケットマネーからだ。

 

なぜ黒ひげなのか?理由なんてなんだっていい。今話題の海賊だから目撃情報をモルガンズ社長が欲しがってる。つまり高値で売れる。

 

あるいはドフラミンゴファミリーが雇ったばかりのドラム王国出身の医者達が衝撃を受けているからはやく捕まえてもらうために海軍に情報提供するためでもいい。聞こえのいい建前ならなおのこといい。

 

そして、その全てが結実して、今私の手に1週間以内の黒ひげの情報がある。

 

「そんなにあぶない奴なんだねー、せんちょー」

 

「あのときは、そんな感じしなかったけどねー」

 

「能ある鷹はってやつ?」

 

「20年以上もすごくない?」

 

「そんだけヤミヤミの実に賭けてたのかなー?」

 

パンサとシデが不思議そうな顔をしながら、私から風船を受け取る。外した封筒を開ける。

 

パンサ達が疑問視するのは無理もない。私たちは白ひげと儲け話や取引をするたびに何度か独立前の黒ひげと顔を合わせたことがあるのだ。

 

元は偉大なる航路のとある島の孤児で、28年前に「行く当てが無い」と頼み込み白ひげ海賊団に加入したと聞いたことがある。

 

実際、ヤミヤミの実が手に入る可能性が最も高いと自身が踏んだ白ひげ海賊団の2番隊に20年以上に渡って所属していた。己の野心を隠し、古株でありながら2番隊隊長に就くことも無く日々を過ごしていたが、自身が求めていた史上最悪の悪魔の実ヤミヤミの実を偶然4番隊隊長で親友であったサッチが入手。

 

本人曰くはずみでサッチを殺害して実を強奪し白ひげ海賊団から脱走、その後黒ひげ海賊団を結成した経緯がある。

 

あの日、あの場所で、私の問いに黒ひげがいったことを今でも昨日のことのように思い出すことができる。もしヤミヤミの実が手に入らなかった場合はそのまま一生日陰者として生きるつもりだったという返事を思い出すたびに精神がどん底まで冷える。そのまま白ひげのところにいればよかったものを。

 

今、黒ひげは偉大なる航路でドラム王国を5人で滅亡させるなど幾つかの島々で暴れ回っている途中のはずだ。七武海入りを目指して1億越えの海賊を見つけては襲っている。インペルダウンに収監されている有望なやつを片っ端から声をかけて白ひげ越えを目指している。

 

黒ひげは冷静な判断力をもつ男だ。その時が来なければ絶対に行動しないし、今がその時だから一気に動き出した。そのくせ、引き際をわかっているからこちらが全力でかからないと逃げられる。

 

あの赤髪のシャンクスの左目に鉤爪で引っ掻き傷を残している男に油断などする方が失礼だろう。なにより、かつての私を殺した男だ。

 

黒ひげは私の知る限りロックス以来の夢を追い求める外道だ。最も海賊らしく狡猾さと豪快さ、そして慎重さを兼ね備えた人物。 ロジャーの影響により大航海時代になった今では絶滅危惧種になった昔ながらの海賊といっていい。

 

白ひげ海賊団に所属していた頃の黒ひげに対してジンベエや白ひげも不気味さ・得体の知れなさを感じてはいたが、本性は見抜けなかった。 それが全てだ。

 

なにより厄介なのは、たとえ見苦しくとも生き残ってさえいれば、最終的な夢を叶えるチャンスが巡ってくるかもしれないという考え方である。自分が生き残るためならば最悪重要な部下や目的であっても切り捨てる覚悟がある。だから撤退の判断は常に的確且つ迅速。どのような状況下でも黒ひげ海賊団という組織が致命傷を負う前にその場から姿を眩ませてしまう。

 

もし仕留め損なえば長丁場になるだろうという予感がある。かつて私は金獅子の時には失敗した。だがインペルダウンの集団脱獄する時まで金獅子が生き残っていた場合、きっと楽しいことになると気づいてからは楽しみでならない。黒ひげがもし逃げおおせても、今回はそれはそれできっと楽しいことになるだろうと考えることにした。

 

「なるほど、このあたりか。バロンターミナルに戻って準備を始めよう。イールに航路を考えてもらおうか、奴らはイカダで航海しているからな。特定できればこちらのものだ」

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。