(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
ここは偉大なる航路、何もない島という名の巨大なフンの上。数多の島を食べることで育った巨大金魚島食いのフンの上。島に間違えられるほどの面積を持つフンをすることで知られており、島ごと食べるからフンなのに磁気を帯びているためログが溜まる不思議な場所だった。
島食いがいるため、昨日まであった島が次に来たら何もない島になっていることはよくある。黒ひげ海賊団の場合はまさにそのパターンだった。本来ありえないはずの突然の嵐に遭遇し、座礁するくらいならと緊急避難で上陸する羽目になっていた黒ひげ海賊団はその幸運に感謝した。
元巨兵海賊団統領ドリーとブロギーが100年経った今も勝負がつかない決闘を繰り広げているリトルガーデンはログが溜まるのに1年もかかるのだ。それと比べたら何もない島は1週間ほどでログが貯まる。4人総出でイカダを修理している中、黒ひげ マーシャル・D・ティーチは納得いかない顔をしてうなっていた。
この男の趣味は歴史研究であり、このあたりの気候は白ひげの船に乗っていた頃から何度も通っているし、数多の冒険記などを頭に叩きこんで把握しているつもりだった。ティーチにとってあの嵐はまるで予兆のない不自然極まりないものだったのだ。
そもそも偉大なる航路を新世界から楽園へ逆走する形で航路をきっているため、磁気が安定してきたこのあたりの海域ならば一見アトランダムに見える天候にさえ気をつければマシなはずなのだ。優秀な航海士ラフィットとチィーチの知識があればなんとかできるくらいには、気をつけることができるはずだった。だからこそ船がイカダなんてイカれたことができるのだ。そうじゃなければ操舵手にだけ負担が大きすぎてさすがのジーザス・バージェスもやめてしまいかねない。
黒ひげ海賊団の船は巨大な丸太を繋げて帆を付けた丸太船を使用している。丸太の内部を刳り抜いて船室や砲門を設けているなど、見た目よりも造りがしっかりしている部分はあるが、舵が無いので操舵や加速はオールで漕いで行わなければならない。
もちろん普通の船もオールを使って船を進めることはあるが、あくまで風が無く帆が使えない時の緊急手段である。そのため黒ひげ海賊団の操舵手とは即ちオールの漕ぎ手だ。
更に、甲板が非常に低い位置にあるため波を防ぎにくく、構造的にも脆くなっているなど、とにかくこんな代物で偉大なる航路を突破したのだから、とんでもない連中だと言える。 勧誘するたびに仲間からまるでイカダだと指摘されて呆れられることがいつものパターンな黒ひげ曰く。丸太船を使い続けるのは愛着だという。
なにはともあれ、突然の嵐から無事座礁せずに何もない島につけたのはバージェスのおかげだった。
「ゼハハハハ............この世に不可能という事は 何一つねェとはいうが、さすがに嫌な予感がするぜェ」
嵐に巻き込まれた黒ひげ海賊団の船は大破こそ免れたが、落雷により船全体が焼けてしまい、焦げ臭くなっている。嵐により落雷からの炎上は免れたし、感電死しなかっただけマシだが、どうにも嫌な予感がティーチから離れてはくれなかった。
「ウェザリアに喧嘩売った覚えはねェんだがなァ」
天候を自由自在に変えられるといえば、エッド・ウォーの海戦で金獅子率いる艦隊を壊滅までおいやったことで知られるウェザリアだ。金獅子が世界中の優秀な気象予報士や航海士を誘拐していたため、危機感を覚えたウェザリアが唯一海軍の英雄ガープと手を組み門外不出の技術ウェザーエッグを使ったとされている。
黒ひげ海賊団として名を上げるため、あちこちの島国を襲って略奪を繰り返しているティーチだが、さすがに空を飛ぶ人工島にいったことはない。というか、エッド・ウォーの海戦以降、ウェザリアを敵に回すことは禁忌とされているし、ティーチもその通りだと思っているのだ。
「天候を変えるような能力者かァ?しかも覚醒してやがる......」
自然系悪魔の実ならいくらでも思いつくが、ティーチ達が一切気づかないほどに練られた覇気の使い手。なおかつ天候を急変させられるほどの覚醒が知られている者などほとんどいない。
黒ひげの心あたりがあるとすれば、まずは噂程度ではあるが革命軍総司令官のドラゴンだ。
打倒世界政府を目的に暗躍する反政府組織。不条理な社会とその未来をただそうと、世界中にその思想を広め、悪政・圧政を行う国々にクーデターや革命を引き起こしている。
それを良しとしない闇のシンジケートの裏工作で作戦の足が引っ張られ、一部の勘違いした急進派が生まれつつあることをティーチは知っていた。
海賊は政府や海軍と敵対しても、政府そのものを倒そうとまではせず、その点で海賊と革命軍は異なる。 彼らにも相当な賞金首に指定される事が多く、海賊と同様に生死を問わない捕縛が求められている。
世界政府は直接的な敵対関係にあるため、革命軍の影響力を恐れており、トップの革命家ドラゴンを「世界最悪の犯罪者」として危険視しているが、彼と組織の手がかりを掴めずにいるはずだ。
ドラゴンが現れた戦場では必ず突風や雷といった不可解な天候の急変が確認されているため、ドラゴンが起こしたものと世間では推測されている。おそらく自然系悪魔の実の能力者だと憶測されるが、それこそティーチは喧嘩を売った覚えはなかった。
空を見上げてもウェザリアはないし、革命軍の船はない。
「もしかして、襲った国のどっかに革命軍のアジトでもあったのかァ?海賊じゃあるメェし、仲間殺しが大罪だなんて聞いたことねェが」
そんなチィーチの疑問は、突如海中から出現した碇マークの旗が答えだと知らしめるようにはためき始める。さすがに驚いたチィーチだったが今朝見た新聞を見てようやく合点がいくのだ。
「噂どおりの速さだなァ、人堕ちホーミングッ!!後から雇った連中の都合も血の掟に適応されんのかッ!?知らなかったぜ、アンタの右腕ん時はセーフだったから大丈夫だと思ってたんだがなァ!」
「その解釈であっていますよ、黒ひげ海賊団船長マーシャル・D・ティーチ。タイヨウの海賊団のときと同様に、今回も雇ったばかりのドラム王国出身者は関係ありません。あなたは単純に運が悪かったんですよ」
「まさかエースに泣きつかれでもしたかァ?」
「はははっ、面白いことを言いますね。白ひげのいいつけを守ってあなたを追わなかったエースがなぜ出てくるんです?」
「いってみただけだ、気にすんな。アンタがおれを警戒してるのは知ってたがァ......まさか、白ひげから抜けるのを待ってたのか?」
「さすが頭がいい男は嫌いじゃないですよ、 マーシャル・D・ティーチ。ドラム王国に拠点を構え、医者の育成に力をいれようとしていた儲け話を見事ご破産に追い込む建前をくれてありがとうございます」
「ゼハハハハッ、なるほどなッ!!アンタも万能薬のキノコ狙いだったわけか!残念ながらおれ達も見つけられなかったぜ、無駄足だったな!!」
「おや、そうなのですか?てっきりアナタ方が持ち去られたと思っていたのですが」
「だから見逃してくれねえか?」
「ウミット海運の血の掟に例外はないんでね。今ここで死んでください」