(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
第48話
ウミット海運の定期報告を終えたホーミングが書類をセンゴク元帥に提出する。すでに形骸化しつつあるが海軍とウミット海運という立場の違いを曖昧模糊にしないための大事な儀式でもある。
海軍内の定期報告会にそのまま流用できる貴重な資料を受け取る儀式が終わると、いつものように扉の両脇を固める海兵達は待機室に引き上げる。
代わりに入ってきたロシナンテ大佐にホーミングが個人的に話しかけたことは一度もない。肩をすくめたロシナンテ大佐は、ナギナギの実の力を発動させ、いつものように扉横の椅子に座った。センゴク元帥がお茶と梅干しのおにぎりの夜食をだした。皿や湯呑みは転けて割ると困るから、すぐにセンゴク元帥が片付けることになっている。
センゴク元帥は椅子にこしかけると、世間話をはじめた。数年前の定期報告会でホーミングがあげていた南の海のギャング出身の新しい海賊が偉大なる航路楽園で名を挙げはじめている。今回、懸賞金が更新されてることになった。
なぜかホーミングの横にしれっといるガープ中将に、ホーミングはにこにこしながら話しかけた。
「聞きましたよ、ガープ中将。結局、海軍に入ったのはロシーだけでしたね」
「うるさいうるさいうるさーい聞こえんわーい。センゴクとおつるちゃんに散々小言いわれたし、からかわれたんじゃ、ほっとけ!」
めずらしく叫ぶガープ中将にセンゴク元帥はため息だ。ホーミングの笑みが深くなる。
「海軍の学校にいれるために迎えにいったら旅立ったあとでしたか?エースのときに学んだでしょうに、なぜ早く入れなかったんです?」
「うっせーわい!まさか10年も前に会った赤髪にあそこまで感化されてるとは思わなかったんじゃ!赤髪に憧れはしとったが、はしかみたいなもんじゃと思っとった。相変わらず海賊嫌いじゃったし」
「はは、赤髪だけは別というやつでしょう。天竜人嫌いのあなたが私と腐れ縁のようなものだ。別に矛盾はしないでしょうに」
「お前さんが別なのはわしだけじゃないだろうが」
「ははは、それはたしかに。ありがたいことです。それに四皇赤髪に海賊王の麦わら帽子を託されたんだ。しかも近海の主に腕を喰われてまで助けてくれた恩人となれば、赤髪みたいな海賊に憧れるのはあたりまえでしょうに。これであなたは海軍の英雄、息子は革命軍総司令官、孫は海賊ですか。とんでもない一族だ」
「お前にだけはいわれたくないわい、ホーミング。おまえは闇の5大帝王運輸王こと深層海流ウミットの右腕、妻はモルガンズ社員、上と下の子供は七武海と四皇の部下、真ん中の子供は海軍本部の大佐じゃろーが。人のこといえるんか、お前」
「私はあなたと違って、子供達に道を選ばせてから、学ばせましたからね。一緒にされても困りますよ。唯一妻だけは離縁するかどうか、聞けなかったことが心残りだ」
「今だに手紙の返事も書いてやらんのか、ホーミング。細君もロシナンテも連絡を取りたがってるぞ」
「それだけが私の想定外でした。それにしても赤髪がCP9の船を襲撃して奪ったゴムゴムの実を、デザートと間違えて食べてしまうとは。事実は小説より奇なりとはまさにこのことですね。私はてっきり赤髪があなたの孫だから食べさせて、新時代の海賊になるよう、そそのかせたと思っていました」
「お前の上の息子と一緒にするんじゃない。七武海なのに海賊増やしおって」
「ドフィにそんなつもりはないはずですがね」
「嘘つけ、ハートの海賊団ってなんじゃい」
「医者が船長なんだ、実にわかりやすいじゃありませんか。船員が救助隊と同じオレンジのつなぎときたら、そういう意味では?」
「ほんとかぁ?上の息子んとこの幹部はトランプがモチーフで、永久欠番の幹部の肩書はコラソン。北の方言でハートって意味だそうじゃないか。おつるちゃんがぼやいとったぞ」
「一番驚いてたのドフィですから、ガープ中将。そういえばおつるさんは北の海生まれでしたか。七武海に入る直前まで追い回されたからか、今もドフィはおつるさんが苦手でしたね、そういえば。それをいうならあなたのお孫さんは、麦わら帽子を被って旅に出たそうですね。この世界で名を挙げ、肩書に麦わらがつく意味の方が問題では?」
「なあに、偉大なる航路新世界までこれなければただの弱小海賊にすぎん。問題ないわい。しかし、それが本当ならその気がないのに慕われるのも、やる気にさせるのもよく似た親子じゃわい。それが天竜人のもつ素質なのか?」
「さあ、私にはわかりかねます。それに北の海で名をあげる前から危険な海賊だと無名の時代から報告にあげているんだから帳消しですよ、ガープ中将。私は誰かさんと違って公私混同はしない主義だ。うちのシマを荒らして血の掟に従い処刑しにいってるうちの社員が船ごと沈没させられているんだ。海軍の被害が少ないのは私達の犠牲の末に提供した情報のおかげでしょうに。極寒の港町育ちで魚人でもないのに海戦が得意だと情報がなければ、どれだけ被害が出たと思っているんですか?」
「ゆえに死の外科医か。それはそうと赤髪じゃ。あいつら、また瞬間移動しおったぞ。お前さんらの仕業じゃないだろうな?」
「ひどい濡れ衣だ、あなたと一緒にしないでくださいよ。ガープ中将」
「ほんとかぁ?しかし、赤髪はなあ、ルフィがわしの孫じゃとは知らんはずだ。それに食ったのは偶然じゃとマキノから聞いとるからな......ただ真意はわからん。わしがいない時に限って長居して、帰ってくるタイミングで航海しおって。一回でもかち合ったらタダじゃ済まさんつもりだったんだが」
「いくら四皇とはいえ、10年前の赤髪達ならあなたと会わないよう何がなんでも避けるのは当たり前でしょう。それにしては海軍の英雄ガープの故郷なのにずいぶんと長い拠点にしたものですね、赤髪は。なにが目的なのやら。四皇クラスだと拠点にして街を出歩くのは普通難しいはずなんですがね。よほど居心地がよかったとみえる。あなたの故郷はゴア王国から隔離され、海軍にも海賊にも革命軍にも寛容な奇跡の港町だ」
「褒め言葉と受け取っておくわい」
「お前たち、元帥室は談話室じゃないんだが......人払いするのも手間なんだぞ、勘弁してくれ。だいたい何故ロシナンテだけ入隊させたんだ、ホーミング。ドフラミンゴも入ってくれたら、私以来久しぶりの覇王色持ちの海兵に育て上げたものを」
「お言葉ですがね、センゴク元帥。私も初めはそのつもりでしたよ。ドフィが私と地獄に落ちるといったんだから、仕方ないじゃありませんか」
「たった7歳の子供に酷な選択をさせるものだ」
「私が人堕ちしたように、なるべくしてなったとしかいいようがありませんよ。海兵になったところで、ドフィがあなた方のように正義の矛盾を割り切れるとは思えません。海兵から海賊になるよりはマシでは?天夜叉とは考えたものですよ。怒りと哀しみの表情を浮かべ、立ち昇る炎に包まれ飛行する半人半獣の神の名前でしたか?よくできてるじゃありませんか」
複雑そうな顔をするロシナンテ大佐が視界に入ったはずなのだが、ホーミングは相変わらずガープ中将とセンゴク元帥と世間話に興じている。これが33年前に我が子が選んだ道に対するホーミングなりのケジメなのはわかっていたが、ガープ中将とセンゴク元帥は2人を見比べて肩をすくめたのだった。