(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
「おーいおいおいおい、なるほど、なるほど。そういうことか!ならば心当たりがある。我が故郷ビルカに行くといい。あそこは寂れた島だが君の依頼主の願いをかなえるものがきっとある」
残念なことにそれは私の望んでいた返答ではなかった。
「ちゃんと話を聞いていましたか、ハレダス博士?ツキミ博士の研究室でその手の歴史研究は把握済みなんですよ。問題はそこじゃない、話を逸らさないでください。私はウェザーエッグを貰いにきたんですけど」
やけに長い呼びかけをする老人だった。顎髭と長髪が特徴的で、魔法使いの様な青い帽子とローブを着用しており、他の仲間達も其々異なる柄のローブと帽子を着ている。
今私達が訪れているのは空島の1つではあるが、純粋な空島ではなくハレダスらが35年前に作った人工島である。主に「風の結び目」や「ウェザーボール」など、この世界全体の天候の科学について研究している。
差し入れの青海から仕入れたお茶菓子をつまみながら茶を飲むハレダス博士に私は話を続ける。
「そんなこと言わずウェザーエッグをわけていただけませんか?」
「いかあああん!!ダーメじゃダメじゃ、絶対にダメじゃ!ウェザーエッグはわがウェザリアの大発明!自由自在に天候ををコントロールできてしまったら大事になりかねない。ダンスパウダーひとつで国一つ滅びるんじゃからわかるじゃろい?」
「何か問題でも?」
「大アリじゃあ!あーもー相変わらず物騒な男じゃなあ、お前さんを諭した私が馬鹿じゃったわい!お前さんがウミットんとこの用心棒で、依頼主がツキミ博士の忘れ形見じゃなければ、わざわざ時間とって話なんかせんわ!!」
「いつもご愛顧いただきありがとうございます」
「こちらこそ、ってちがわーい!!ビルカへのログポースやるからさっさと帰るんじゃ!今すぐにでも出てけ!」
「要らないっていってるでしょう、一応いただきますが」
「もらうんかい!」
「ご協力ありがとうでアリマス、ハレダス博士。空島ビルカとはどのような場所なのでありましょうカ?」
「ごほん、そうじゃったの。すまんすまん、話が逸れた。空島ビルカはさっき言ったように我が故郷。そもそもツキミ博士はビルカの遺跡から数多の失われた化学技術を再現しておった。きっと力になるはずじゃ」
「なるホド!ご協力ありがとうでアリマス!」
「騙されてはいけませんよ、スペーシー中尉。私達は動力になるものを探しているんです。月にいけても電気が尽きたら敵討をする前に停止してしまいますよ、貴方」
「ハッ、そうでありまシタ!ありがとうでアリマス!」
「ぐぐぐぐぐ、騙されてはくれんか......」
はあ、とハレダス博士はため息をついた。
「しかし、月の大爆発とは、やはり気のせいでは無かったのか......。まさかそのせいで餅を喉につまらせて死んでしまうとは。実に偉大な人材を失ったんじゃなあ、この世界は。私より先に死んでしまうとは......ツキミ博士......」
「私も残念です、ハレダス博士。ツキミ博士ならきっと私の力になってくれたはずなんですがね、おかげでとんだ回り道だ」
「いや、やっぱり死んでくれてよかったのかもしれん」
ぼそりとつぶやくハレダス博士に私は視線をなげた。ハレダス博士はあからさまに目を逸らす。さいわい依頼主には聞こえていなかったようだ。よかった、聞こえていたらハレダス博士の口を永遠に塞がなければならないところだった。
「ハレダス博士」
「地獄耳め......だってそうじゃろ?お前さんに拉致されたらなに開発させられるかわかったもんじゃない。だいたいお前さんのあれこれは本来ベガパンクの領域じゃろ?闇金王通じてMADSにでも依頼したらどうじゃ」
「いえ、今回の儲け話はまさにツキミ博士の領域だったんですよ。だからあてが完全に外れてしまったんです」
「おい待たんか、今何言った。金獅子にでもなる気か、おまえさん」
「別にこの島でも構わないんですがね、実に魅力的な島だ」
「すまん、余計なこといったわい。聞かなかったことにしてくれい」
「わかりました。これからもウミット海運をご贔屓によろしくお願いいたします。ついでになにか心当たりはありませんか?」
「私に聞かれても知らんわい。動力になるような悪魔の実を船に食わせたらどうじゃ?それこそベガパンクの得意分野じゃろ。それにウミット海運の方が情報手に入るじゃろ」
「弱小海運がそんなことしたら信用なくすじゃないですか、だめですよ」
「それならやっぱり金積んで人工悪魔の実を食わせたらどうじゃ?あの完璧主義者なら失敗作のひとつやふたつ買い取るといったら喜んでくれるじゃろ。お前さん火薬に咲く花大量に購入しとるし」
「それが近道ですかね、やはり?それならモコモ公国にいって海外に興味ありそうなミンク族にこのログポースとビルカへの護衛を条件に仲間になってもらった方がはやい気がするんですが。安上がりだし」
「エネルギータンクの間違いじゃろ、お前さんの企みぐらいお見通しじゃ。月にミンク族行かせるんじゃない、発狂させる気か!」
「それならMADSの実験に協力してもらってロボット作ったらまだ人道的では?」
「やめんか!あのMADどもの中に世間知らずのミンク族を放り込むんじゃない!!」
「ウェザーエッグ提供拒否する癖に邪魔ばかりしないでもらえます?」
「さっきからなんの話してんだ、アンタら」
茶菓子を平らげたドフィがいいかげん暇になってきたのか私達の話に割って入ってきた。
「ああ、そういえばドフィは知らなかったね。この世界にはミンク族という獣人がいるんだ。電気を使う体質だからスペーシー中尉達の力になるんじゃないかという話をだね」
「ミンク族ってなんだよ、能力者か?」
「いや、違うさ」
軽くドフィに説明してやった。
ミンク族とは動物に模した顔と体つきが特徴の獣人のことだ。全身が純毛によって覆われており、それがミンク族の名前の由来となっている。 一見動物(ゾオン)系悪魔の実の能力者に思えるが、明確な種族名もある為、独特の種族である事がわかる。
種としての身体能力が人間より高いことに加え元となる動物の能力を色濃く残しており、ウサギのミンクは驚愕させるほどの跳躍力を持つ。
また、『エレクトロ』と呼ばれるスタンガンのように触れた相手に電流を流す技を持つ種族であり、「生まれながらの戦闘種族」「赤子ですら身を護る術を持つ」「弱者という概念すらない」とまで称される。
当然、二人の王と国を守るために鍛え上げられた本職の戦士ともなればその強さは「言語に絶する」と謳われるほどである。
更に満月を見ることにより、ミンク族の奥の手といえる真の姿、「月の獅子(スーロン)」になることができる。この形態となると一時的にまるで獅子のように髪の毛が増え、身長が伸び、身体は白く、瞳孔は鋭くなり身体能力も大きく向上する。
これは満月の光がミンク族を高揚させ、記憶の奥底の更なる野生が呼び起された姿だというが、本来は、凶暴性が増す上に一晩で暴れ、戦い疲れて死んでしまう暴走形態であり、訓練をして制御しておく必要がある。また、制御できるようになっても肉体への負担は大きいため長時間の変身はできない。
「たしかシャボンディ諸島だと70万ベリーが相場......うん、奴隷を買った方がはやいね。ありがとう、ドフィ。すっかり忘れていた。モコモ公国に送る代わりにMADSの研究に協力してもらってロボットをつくろう。いや、君たちなら作れるかな?スペーシー中尉」
「ミンク族からの協力があれば可能かもしれないでアリマス!」
「よし、善は急げだ。ありがとうございました、ハレダス博士」
「な、なんとか犠牲者は出ずに依頼達成できそうかの......?」
「そうですね、世界政府に勘付かれるのも癪だ。そちらの方が安全だろうし、今回はそうします」
「よかった......」
私達はウェザリアを後にすることにしたのだった。