(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第51話

それはルフィからサンジを勧誘したいから船番していてくれと頼まれたヨサクとジョニーが、ナミに騙されてゴーイングメリー号ごと盗まれる30分前に遡る。

 

ヨサクとジョニーはゾロの舎弟だったが、ゾロが海賊になったことでいつかは同行をやめるつもりではいた。だから、次の賞金首を誰にするか決めるために集めている手配書のリストで、あーだこーだ話していた。

 

賞金稼ぎは情報屋からもらう新鮮かつ正確な情報が生命線だ。旅に出たはいいが迷子になり、故郷のシモツキ村に帰れないから仕方なく賞金首を狙って生活費を稼ぐことができるのは、偉大なる航路にまで名が売れているゾロにしかできない芸当である。

 

だから二人にナミが興味を示したとき、ゾロの仲間のよしみで海賊専門の泥棒だというナミに、情報提供するくらいやぶさかではなかった。

 

 

 

 

 

「ジョニー、これなに?」

 

「そいつは賞金首のリストですよ」

 

「どうしたんです、ナミの姉貴。手配書のリストぼーっと眺めて」

 

「......ううん、なんでもない」

 

「おー、さすが高額の賞金首に目をつけやしたね。でも狙わない方がいいっすよ」

 

ジョニーとヨサクはよかれと思ってナミに手配書の男の詳細を話しはじめた。

 

通称ノコギリのアーロン。全ての海を制覇し、人間を駆逐した魚人だけの世界を築き上げ、自らがその頂点に立つという野望を持つ。

 

野望の礎となる「アーロン帝国」を建国する為、ココヤシ村を含む20の町村を力で支配し、海軍支部も金で買収し、8年間に渡って村を支配し続けている。

 

東の海では珍しいノコギリザメの魚人で、青い肌とノコギリのような長い鼻が特徴。また、左胸にタイヨウの刻印を刻み、左腕には自身の海賊団のマークを刺青として刻んでいる。 服装はアロハシャツを好んでいる。

 

「魚人こそが至高の種族」、「万物の霊長は魚人である」という思想の持ち主で、特に気性が荒い人物として知られている。

 

ただし、人間でも金で話の分かる者や利用価値のある個々人に関しては比較的好意的な態度で接するようで、上から目線ながらもその我欲を評価し、仲間うちは大切にする男である。

 

その首にかけられた賞金は2000万ベリー。300万ベリーが相場の東の海では破格の値段である。

 

「ナミの姉貴?」

 

ナミがアーロンの手配書がシワがよるくらい握りしめていることに気づいたヨサク達は、ようやくナミが海賊が嫌いなことを思い出して謝るのだ。アーロンはナミが嫌いな海賊そのものである。

 

しかし、ナミは二人の謝罪にあいまいに笑うだけで、聞いているようにはみえなかった。

 

 

 

 

10年前、ホーディという魚人がウミット海運の儲け話を邪魔したから血の掟に従い処刑されたという記事を読んでいた男は終始無言だった。

 

『この女海兵は、こないだ海賊を撃退してやったにもかかわらず、魚に守ってもらいたくはねえそうだ』

 

ノジコとナミを庇って死んだベルメールの死体を蹴りながら、冷笑して平然とした顔で嘘をでっちあげる男がいた。

 

『噂には聞いてたが、外界は想像を絶するほど遅れてるようだな、今時差別か』

 

ナミが魚人をめぐる差別を知るのは、アーロン達がたまに昔の話をしているのを盗み聞きするか、本を探して調べたときくらいだ。魚人をよく知らないから、差別なんてあるはずもないあの島の人々には、アーロンの話はどう聞こえたんだろうか。

 

海賊を派遣する男がもしいたとしても、実際にアーロンはそれを撃退するくらいには強かったから、あの日、たまたまデンデン虫の取引を聞かなかったら、全てがマッチポンプだなんて思いもしなかった。

 

もともとココヤシ村を含む近くの島々は、ここ30年ほど政治的対立が深刻で内乱が激化している隣国の被害を被ってきた歴史がある。実際ナミもノジコもその戦争の被害者かつ孤児でベルメールに拾われた経緯があった。だからナミは本当の生まれ故郷を知らない。

 

荒廃する土地は海賊が生まれやすい土壌になり、タチの悪い賞金首や繋がりが欲しい闇のシンジケートを呼び込んできた。ナミもあの話を聞くまではアーロンの話を半ば信じ始めていた時期があったくらいには。

 

『気が変わった。倍にしてやる、連帯責任だ。毎年大人40万、子供20万貢金を払え。払えねえ島はその年だけは隣国の戦争、海賊の襲撃、おれを狙うタチの悪い賞金首がきても、助けてやらねえ。政治的な理由で海軍が来てくれないこの島々にとっちゃ悪くねえ話だろう。今までどおりか、今までより安全で苦しい生活か、どっちかなわけだからな。二度とこの女のようにおれ達を差別するやつは許さねえ、村ごと消してやる。覚悟しておけ』

 

ベルメールの遺体を引き摺り回しながら、支配域となる島々全てに説明してまわったアーロン達。航海士としての腕を気に入られ、無理やり引き入れられてしまったナミはずっと聞かされる羽目になった。

 

連帯責任という言葉の先でベルメールに投げつけられた罵詈雑言やいろんな物がこびりついて離れない。ナミがベルメールの娘だとアーロンが言った瞬間の冷え切った空気と殺意はナミを怯えさせた。

 

この話を聞いて、ココヤシ村で実際に起こった出来事を知らない隣の島々のナミを見る目が変わったことをナミは覚えている。

 

でっちあげた制裁のためにココヤシ村を皆殺しにするといったとき、ナミがココヤシ村を2億ベリーで買うといった。すると、アーロンはいきなり黙り込んでしまった。

 

「あの男みてぇなこといいやがって」

 

低く唸るように言い、行き場の失った衝動を発散するように、たまたま近くにあった建物を破壊して去っていった。タコのハチにアーロンはその約束を守るはずだが、集まるまでその話を絶対にいうなとナミに複雑そうな顔をしながらいった。それきりだがナミがどこに金を隠しているのか気づいているだろうに、勝手に手を出そうとした海兵が次の日には死体になって転がっていたことは覚えている。

 

 

 

 

 

 

「最近、アーロン達がまた暴れてるって話を聞いたその直後だ。ナミの姉貴が宝持って船出したのは。これはもう偶然とは思やせん。きっとなんらかの因縁があるはずだ」

 

ヨサクはここからアーロンの率いる魚人海賊団について情報提供をするつもりだった。真剣にアーロンがいかに危ない男か説明しようとしたヨサクだったのだが、ルフィもサンジもちゃんと話を聞いてくれない。最終的に歴史的な背景は全て省略して結論だけ話すことになった。

 

「魚人海賊団の頭ジンベエ。ジンベエは七武海加盟と引き換えにとんでもねぇ奴を東の海に解き放っちまった。あっしらが向かってるのはアーロンパーク。かつて七武海の一人、ジンベエと肩を並べた魚人の海賊。アーロンが支配する土地です。個人の実力なら首領クリークをしのぎます」

 

 

 

 

 

 

 

麦わらのルフィがノコギリのアーロンを破り、アーロン一味は海軍の東の海支部に逮捕され、東の海の牢屋に送られた。度重なる尋問により全てが露見した。ココヤシ村を中心に支配地域から解放された島々に海賊が押し寄せることは無くなったが、オイコット王国の内乱の余波はまた及ぶことになった。まだ内乱の終結は先が見通せない状況だ。

 

世界経済新聞のありふれた記事を目にしたジンベエが真っ先に向かったのはアーロン一味が収監された東の海の刑務所ではなく、ドレスローザだった。

 

あらゆる感情を飲み込んだために終始真顔のまま、ジンベエはドフラミンゴに情報提供を頼んだ。オイコット王国や周辺のコノミ諸島でドフラミンゴファミリーが牛耳る闇のシンジケートがどうやって荒稼ぎしたか、記録を全て見せてくれと頼んだ。ドフラミンゴは闘技場ではなく経済特区のうち、ドフラミンゴファミリーの機密がかかわるため、近づいた者は血の掟に従い処刑することで知られた工場の地下に案内した。

 

厳重な警備体制が敷かれている。ドフラミンゴがいても手続きを省略できない複雑な手順で地下に降りていく。電気をつけると、上から下までびっしりと約30年分の仕事の成果が眠っているのがわかった。

 

ドフラミンゴは目録や目標を見ることなく進んでいき、ある区画にジンベエを案内した。

 

「......全て書面で残しておるのか」

 

「全部頭には入ってるが、記憶違いしたら致命的な案件もたくさんあるんでな。確実な方法をとった」

 

「......あいかわらず勉強が好きじゃのう、天夜叉」

 

「御託はいいからさっさと読め、ジンベエ。こっからここまでが全記録だ。気が済むまで見てけ。今のテメェは信用できねえからな、ジンベエ。おれはここで見張らせてもらうぜ。あん時のイールみたいな目をしやがって」

 

「......すまん」

 

「読むのに何日かかると思ってやがる。大事な資料室で切腹されたら敵わんからな、早くしろ」

 

「......」

 

「ちょうどいい。テメェの口から情けない話は聞きたくねぇからそのまま黙ってろ、海侠のジンベエ。知ってるだろうが、この世界でもしもあの時が叶うのは悪魔の実だけだ」

 

ドフラミンゴの声がやけにあたりに反響した。

 

「───────結果だけが全てなんだよ、ジンベエ。あの日、ホーミングの言葉すら届かなかったアーロンを殺せなかったことこそが、テメェのいう唯一の罪だろうよ。タイヨウの海賊団船長のお前が尊敬するタイガーの意思を無下にして不殺を破れるとは思えねえがな」

 

 


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