(未完)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第53話

「随分と熱くなっているようだが、それがどうかしたのかね、スモーカー君」

 

あまりにも低い声だった。ヴェルゴの問いにスモーカー大佐は思わず勢いを削がれて沈黙する。それほどまでにヴェルゴがスモーカー大佐をみる目が冷え切っていたからだ。

 

「キミが海賊王の処刑に並々ならぬ思い入れがあるのはわかったが、それとこれとは関係ないだろう。私は客観的な情報が欲しいのだ、キミの感傷的な想いなど必要ない。報告書はちゃんとテンプレートに沿って書けば、誰もが客観的に見る情報となるのだから、勘違いしないでくれたまえ。私はキミの感想文が聞きたいわけではないのだよ」

 

そういって、ヴェルゴはスモーカー大佐の体をなしていない報告書を突き返す。

 

「トーンダイヤル不携帯だからこんなことになる。自分以外の情報がわからない。実際になにがあったか、言ったかわからない。さっそく水掛け論に陥っているようだね。こんな報告書、上が納得すると思うかね?そもそも私が通さないが」

 

そしてため息をつくのだ。

 

「その上、麦わら一味と革命家総司令官ドラゴンの捕獲失敗となると......。さすがにここまでやらかされるといくら私でも庇いきれないぞ、スモーカー君」

 

スモーカーはさすがに神妙な顔をし始めた。

 

「キミは少々ローグタウンにいすぎたようだな、そろそろ現実から顔を背けずに知る勇気を持ちたまえ、白猟のスモーカー。私は再三説明したはずだ。1000万以下の雑魚をいくら捕まえようが大抵は偉大なる航路新世界前に淘汰される。1000万以上の海賊こそが偉大なる航路で名をあげる海賊の最低ラインだと私は説明してきたはずだろう」

 

「......ああ、いってたな、アンタ」

 

「キミの仕事の評価は、東一番の悪である麦わら一味の捕縛失敗で全て帳消しにされる。何故失敗したかわかるかね?私の再三の呼び出しを無視してローグタウンに居続け、昇進を蹴り、覇気の取得をおろそかにしたからだろう。私は何か間違ったことをいっているかね?白猟のスモーカー」

 

「..................いや、いってねえな。アンタはいつも正論しかいわねえ」

 

「海軍本部が何故キミを貴重な自然系悪魔の実の能力者にしたか、くれぐれも忘れないでくれたまえ。キミのくだらない矜持のためではないのだから。さっさと覇気を取得し、覚醒していれば一網打尽にできたはずなんだよ。それだけのポテンシャルを秘めていたのに蹴りつづけてきたキミが悪い。そして今キミ達が何をすべきなのか、真剣に考えることだ」

 

「........................」

 

スモーカー大佐の脳裏にはたしぎなどの慕ってくる部下達が過っているにちがいない。がしがし頭をかいているスモーカー大佐にヴェルゴは笑う。

 

「勘違いしないで欲しいのだが、全て書き直せと言っているわけではない」

 

「!」

 

「特にここの、麦わらのルフィが、道化のバギーにギロチンを降ろされるその瞬間まで笑っていたこと。直後に落雷が落ちて、ゴムゴムの実の能力者である麦わらのルフィだけが無傷で助かり、逃げ出すことができたこと。ここは直さなくてもいい」

 

一番手直しが必要だと思っていたのか、スモーカー大佐は虚をつかれたような顔をしている。

 

「天をも味方にするほどの強運は、時としてなによりも脅威になる。エッド・ウォーの海戦で金獅子の艦隊は壊滅したが、海賊王の船がウェザリアの雷を回避したのがいい例だろう?ドラゴンの支援によるものか、偶然によるものかは、天気観測班に回すことになるが、どのみち大事な証言になるだろう」

 

「ヴェルゴ、お前......」

 

「 ヴェルゴ中将か、ヴェルゴさんだ。スモーカー君。実は、私もあの日、ローグタウンで海賊王が首が落ちるその瞬間まで笑っていたのを見ていたクチでね。キミが麦わらのルフィに感じたものを理解はしているつもりだよ。だからこそだ。───────今度こそ、いい返事を期待しているよ、白猟のスモーカー君。いつまでも私を失望させないでくれたまえ」

 

ヴェルゴの話を聞いて、無言のままスモーカー大佐は報告書の再提出に向けた推敲を再開した。

 

スモーカー大佐にとって海賊王の処刑が運命の日だったのと同じように、その数時間前ドフラミンゴの紹介でホーミングのところに挨拶にいったことがヴェルゴの運命の日だ。

 

様々な状況証拠と誤解からドフラミンゴとホーミングは軽い言い争いになった。正しくはドフラミンゴから一方的につっかかっていった構図だが、たまたまホーミングの発言がドフラミンゴの地雷を踏み抜き、激怒したドフラミンゴがヴェルゴの前で勢いあまって自らの出自を口走ってしまったのだ。

 

その時の絶望したままヴェルゴをみたドフラミンゴを忘れることはないだろう。これで全てを失ったのだと信じてやまない顔だった。

 

ドフラミンゴファミリーは誰もがドフラミンゴが北の海の非加盟国出身の孤児であり、ウミット海運に拾われてホーミングに3年師事したという話を信じていた。いや、今も信じているはずだ。

 

ウミット海運の血の掟に従い、たったひとりで報復のために殺し屋の組織を皆殺しして回っている子供がいる。すでに3つの覇気を完璧に使いこなしていて、銃ひとつで無駄なく全滅させては組織外の繋がりを洗い出し、次に襲撃する場所を決める。

 

そんな噂を聞いて、みんなで探し回り、ようやく見つけたヴェルゴが声をかけたのが最初の出会いだった。そのときドフラミンゴは男を射殺するところだった。

 

「たかが見張りのために殺しにくるなんて馬鹿のやることだ。いつか後悔する時がくる」

 

そんなことを宣う男を即座に覇王色で気絶させ、急所を過剰なほど込めた武装色の弾丸でふっとばし、銃に込めた実弾を全て放つほど怒り狂っていた。男はミンチよりもひどいことになっていた。

 

ヴェルゴが声をかけたとき、ドフラミンゴは見聞色ですでにわかっていたのか、あっさり話に応じたのを覚えている。殺意を感じなかったから、ずっと放置していたらしい。

 

トレーボルが求めているような王の資質はあったが、別の形で開花したあとであり、祭り上げるには色々物足りない。しかも自我が確立しすぎているが、これから何がしたいかはっきりしている子供だった。

 

これはこれで共にいたら面白いかもしれないと思うものがあった。

 

だから、トレーボルはイトイトの実をドフラミンゴに渡して、その復讐が完了してウミット海運に帰る気がないなら海賊をやらないかと持ちかけたのだ。

 

ヴェルゴにとっては最初の出会いからドフラミンゴはドフラミンゴなので、今更天竜人だった過去があるとはいえ、なんとも思わなかった。ただ、それはドフラミンゴにとってかなりの衝撃だったらしい。

 

自分の見る目を信じて海軍へ潜入するよう命じるほど信頼のおける人間が、自分のひた隠しにしていた過去を知ってもなにもかわらない。だからどうしたと、こともなげに返してくる。そういう反応をするのが、ドフラミンゴにとっては色々な意味で転機になったと帰り道に教えてもらった。

 

お前がコラソン(心臓)でよかったと笑ったドフラミンゴを忘れない限り、ヴェルゴはドフラミンゴファミリーを裏切ることは絶対にないだろう。

 

スモーカー大佐がようやく昇進に応じたので、ヴェルゴはようやく上に怒られる必要がなくなったのだった。

 

「応じるとはいったが、いつ本部に行くとは言ってねえからな。いくぞ、たしぎ。船を出せ。ヴェルゴの言ってることはもっともだが、麦わらはまだその領域にはいねえ。その前に捕まえるぞ」

 

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