(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第56話

九死に一生を得たカルーとゾロがウミット海運を出てくると、雪に埋まる港の一角に見覚えがある船を見つけた。大型潜水奇襲帆船ブリキング号が停泊している。ブリキング海賊団ブリキのワポルの船だ。ジャガーの男は顔を引き攣らせた。

 

「とうとう帰ってきたか、ワポル王ッ!おい、お前らは早くドルトンさんに知らせろ。仕事は後だ、街の護衛に回せ!そっちはあの船の見張りもろとも船を沈めろ。抵抗するなら殺せ。逃すなよ」

 

魚人達がブリキング号に向かっていく。極寒の海だというのに平然と飛び込んで行き、巨大な帆船は底が抜けたのかどんどん沈んでいく。見張りをしていた兵士達は引き金をひくが、意思を持ったようにうねる波が一気に船を傾かせ、兵士達の足場を崩す。誤射したり、フレンドリーファイアしたり、海に落ちたり、大惨事になっていく。あっという間にゴーイングメリー号の何十倍もあった帆船は海の藻屑と化した。

 

アーロンパーク以来久しぶりに見た魚人達だったが、ウミット海運の魚人達は連携がとれている上に容赦なく殺していくため無駄がない。あっという間に仕事を済ませた魚人達は、ジャガー男のところに向かう。

 

「ペドロ隊長、ダメです!ワポル王がいません!」

 

「もぬけの殻のようです!足跡をみるにうちを避けて麦わら一味の船を調べ、足跡を追っていったようです!」

 

「なにいっ!?麦わら一味の船をか?」

 

「誰もいないと思ったようです」

 

「なぜ麦わら一味の船を狙うんだ?」

 

「あー......それ多分あれだ。ここくる前にうちの船長がワポルを吹き飛ばしたからだな」

 

「ワポルをか?」

 

「ああ、あいつ船食うからびっくりした。なにかの能力者か?」

 

ペドロ隊長と呼ばれた男はうなずいてブリキのワポルの手配書を見せてくれた。

 

ワポルはバクバクの実を食べた雑食人間であり、口を自在に巨大化させ、ありとあらゆるものを美味しく食べることができる。一般的な食料品はもちろん、どう頑張ったって常人では食べられない物でも関係なく食べてしまえる。

 

常人では食べられない物というのは猛毒のキノコとかフグを内臓ごと食べるとかそういう話ではなく、砲弾とか大砲とか焼け落ちた家屋とかそういった物でもである。

 

また、歯や顎の力も非常に強く、短剣に刺した肉を短剣の刃ごと噛み潰してしまうことも容易。その気になれば人間でも生きたまま食べてしまえる。

 

ただ食べて消化吸収するだけでなく、食べたものの能力や特性を体内に保存しておくことができる。そしてバクバクの能力の真骨頂として、食べたものの特性を自分自身に反映して肉体を強化したり、食べた物そのものに変身したり、二種類以上の物質を融合させて新たな物質を作り出したりすることが可能。

 

武器庫の武器を食べてしまえば全身兵器人間となる。ただし食べた分だけずっと使えるわけではないようで食べた分だけ使用すればその分はまた食べない限り使えない。

 

「血の掟に従い、ブリキング海賊団を追いかけていたんだが、あの船は潜水能力も機動力も見た目以上にあるものだからなかなか捕まらなくてな。今度こそ仕留めてやる」

 

「そうか、気をつけてな」

 

「ああ、そちらも航海士がはやく元気になるといいな」

 

「クエーッ!」

 

「ありがとう。それでは失礼する」

 

 

 

 

 

 

見張りの男達は無事だった。先に派遣していたウミット海運の社員達がわってはいって、ワポルの部下をひとり残らず撃ち殺したからだ。ペドロ達の顔を見て、安心したのか大人達が次々と顔を出す。そして、情報収集に明け暮れる。ワポル達の襲撃を聞いてギャスタに向かったペドロの見聞色がみせたのは、雪崩に飲み込まれていく、民間人を庇って矢で射られたドルトンだった。

 

「ドルトンさんッ!」

 

一面雪景色にしか見えない世界に真っ先に飛び込む。掘り起こす。見聞色がたしかにそこにいると教えてくれる。ペドロと続いていた部下達もまた民間人を掘り起こしていく。ウミット海運が来てくれたと安心したのか、ギャスタの人々もその中に混じっていく。

 

「ダンナはこの国にいま一番必要な男だ、死ぬな!!」

 

救出された人から順番に近くの民家に運び込まれていく。医者はいないが冬島だ。経験則としてどうすればいいかはわかっている人間しかここにはいない。

 

「ドルトンさん!」

 

ようやくドルトンを雪から掘り起こせたはいいがぞっとするほど冷たくなっている。動揺したペドロは覇気を使うことも忘れて必死にドルトンに呼びかけていた。部下達が次々とお湯を運んでくる。そんな中、ざくざくと雪を踏みしめながらドルトン達に近づいてくる男達がいた。

 

「ドルトンは生きている。冷凍状態になっているだけだ、我々に任せてくれないか」

 

そこにはワポル直属のイッシー20達がたっていた。一斉にあたりがざわつき始める。

 

「待てよ、信用ならねえぞ!ワポルに......王の権力に屈したお前らにドルトンさんをまかせろだと?」

「一体彼をどうするつもりだ!」

 

「ペドロさん、アンタんとこの船の設備ならなんとかなるんじゃ」

 

ペドロの思考が一気に冷静になる。見えてくるものがある。

 

「馬鹿野郎、ギャスタから港までどんだけ距離があると思ってんだ。ドルトンさんを殺す気か!ドルトンさんを救いたいんなら、こいつらのいうとおりにしろ。何が必要だ?至急集めさせるから指示をくれ」

 

「えっ、ペドロさん!?」

 

「何言ってんだ、アンタ!」

 

「いいから早く!雪崩から救い出した15分が勝負なんだぞ、冬島生まれなら常識なんだろう!?教えてくれたのはお前らだ!忘れたとはいわせねえぞ!」

 

この名もなき国でドルトンの次に絶大な信頼を寄せられている男の一喝は強烈だった。イッシー20の男達から指示をうけ、ドルトンを助けるために近くの民家から必要なものがどんどん集められていった。そして、ドルトンの治療は開始されたのである。

 

「......おれ達だって医者なんだ」

 

「奴らの強さに屈しながらも、医療の研究は、常にこの国の患者達のために進めてきた」

 

「......とあるヤブ医者に教わったんだ。諦めるなと」

 

「もう失ってはならないんだ、誰かのためにどこまでも馬鹿になれる男をな」

 

ドルトンの一命を取り留める大手術の末に、見事成功させたイッシー20はなぜか、誰もが標高5000メートルの山ドラムロックを見上げる。つられて見上げたペドロには見えていた。さくらとドクロマークをかかげた海賊旗をめぐる海賊達の戦いが。

 

「ペドロッ!きみには見えているんだろう、ワポル達との戦いが!!」

 

いきなり腕を引かれてペドロが振り返ると、意識を取り戻したばかりのドルトンがいた。

 

「ダンナはここでじっとしてるんだ。今度こそ死ぬぞ」

 

「それだけはできない!国の崩壊という悲劇にやっと得た好機じゃないか!今這い上がれなければ、君達から永遠に独り立ちできず、この国は腐りおちてしまう!!そんなことできるわけがないだろうが!!!」

 

無理やり立ちあがろうとするドルトンをウソップとゾロが支えてやる。そういうことなら山登りを手伝ってやると笑っていう。ウソップの足がすでにガクガクだが誰も指摘はしない。ビビはその様子をなにかを噛み締めるような顔をして見ていた。そして、自分も行くと手を挙げる。

 

ギャスタの住人がひとり声をあげた。

 

「そこまでいうなら30分だけ待ってくれ。ここの外れの大木に、なぜかロープが1本だけ張り直してあるんだ。随分前にこことあの山の頂上を繋ぐロープウェイは全て外されていたはずなのにな」

 

 

 


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