(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
今日も朝からクロコダイルの苦情の電話が来た。新世界にいるような海賊がこんなにくるわけないだろうがとガチトーンでキレていた。いっそのことバロックワークスの最終計画に支障が出たら面白いことになるだろうと考えていたのだが。残念ながら生真面目なあの男はなんとかスケジュールに遅れが出ることなく完遂したようだ。
プルトンが最終目標な以上、アラバスタを見捨てて逃走することはできないし、七武海が敗走したとなれば己のプライドと名声に傷がつく。白ひげ以外で背を向けることは絶対にできないクロコダイルには、新世界クラスの海賊であろうと戦わない選択肢は初めから存在しないのだ。
その証拠にアラバスタにおける今のクロコダイルの絶大な支持率は前をゆうに超えていることを世界経済新聞が伝えている。
おかげでハチノスの海賊達も腐らずに戦えると王直は上機嫌だから、次の海賊派遣の場所も検討している先に切り替えていけそうだ。ハチノスの能力者の血はだいたい集められたから、ほかの派遣先にしても能力者がいるか事前調査が必要かもしれない。
私が新聞に没頭しているとイールから声を掛けられた。私に客らしい。この気配はエースか。私は机の上を軽く整理してから、中に入るよう告げた。
「何年振りかな、白ひげ2番隊長火拳のエース」
「4年振りだな、ホーミングさん。アンタの噂を聞かない日はないよ。元気そうでなによりだ」
「そうか、もうそんなになるのか。月日が流れるのは早いものだな。今回はなんのようだ?」
「親父から手紙を預かってきたんだ」
「白ひげから?珍しいこともあるものだな、あの男がわざわざ手紙を......。いつもなら、こちらから送ろうものなら酒をよこせという癖に」
「あはは、そういわないでやってくれよ。ドフラミンゴんとこの薬と相性いいのか、最近調子よさそうなんだ。元気に酒飲んでるよ」
「酒飲み過ぎたら意味がないと思うんだがね......」
受け取った私はさっそく封を切る。ざっと内容を確認した私は息を吐いた。
「そうか、あの男が......死体が見つからない時点で嫌な予感がしていたが......そうか。わざわざありがとう、エース。たしかにこれは信頼できる人間に伝書係になってもらった方が確実だ」
「そこでものは相談なんだが、ホーミングさん。アンタにこれを受け取って欲しい」
「それは、ビブルカードか?」
「ああ、さすがに知ってるよな。いざという時のために取っといて欲しいんだ」
「これはお前のか?2枚あるが」
「親父とおれのだ。こっちが親父で、それがおれの。ものは相談なんだが、ホーミングさん。アンタのビブルカードがあったら同じ枚数ほしいんだ。魚人島周辺はアンタがいなくなると大荒れになることを親父は心配してる」
「いや、それはわかったんだがね、なぜ白ひげだけでなく、おまえとも交換しなくちゃならないんだ?」
「そんなのおれが聞きてえよ......なんだよ実の親に会いに行かせてやるんだから、ついでに交換してこいって......。事情知ってるくせに親父......あんな公衆の面前で、あーもー!!」
「白ひげなりの親心だろう。2番隊長はかつて、おでんが座っていた場所だ。そこにお前を座らせるんだから、おでん以上に強くなれという発破をかけたいんだろうさ」
「ドフラミンゴも親父も要求する水準が高すぎるんだよ!......いや、そんな顔されなくてもわかってるよ。言いたかっただけだ。今のおれにはわかるよ。この肩書きは重すぎることくらいさ......将来への期待だけで置かせてくれてるのはさ」
「成長したな、エース」
「ありがとう、ホーミングさん」
「なるほど、だからわざわざエースをよこしたのか、あの男は......。あいにくビブルカードは作ったことがないんでね、いまいち勝手がわからないんだがどうしたらいい?」
「え、意外だな。ビブルカード作ったことないのか、アンタ」
「世界中どこにいても数時間で会える環境にいると、なかなか思いつかないものだよ」
「それ、世界中どこ探しても、いえるのはアンタらだけだと思うぜ。おれ達はそうじゃないから頼むよ。作るアテがないなら、髪の毛2本でもくれたらワノ国で作ってもらうからさ」
「わかった」
私が適当に抜いた髪の毛を1本ずつ大切にしまいこむエースはシュールな光景だが、これがこの世界の基準だ。
ビブルカードは別名「命の紙」と呼ばれている。特殊な紙で作られており、燃やしても水に浸しても破損しないという特徴がある。
ビブルカードのひとつ目の役割は、相手がいる位置を教えてくれること。ビブルカードは平らな場所に置くと、少しずつ動き出すという特徴がある。このときにビブルカードが動いた方向が、ビブルカードの元の持ち主がいる場所ということになる。例えどれだけ遠く離れていても、ビブルカードさえ持っていれば相手の居場所がわかる。
ふたつ目の役割は、相手の無事や危機を知らせてくれるということ。ビブルカードは元の持ち主が無事であれば大きさなどに変化は現れないが、怪我や病気などで命の危機にさらされると、徐々に小さくなる。
体が回復して危機を脱すると、また大きく回復する。また、元の持ち主が死亡すると、燃えてなくなるという特徴がある。ビブルカードが燃えているようであれば、ビブルカードの持ち主が瀕死状態にあるということになるのだ。
ビブルカードは紙であるため、破ることができる。いくつかに破っても、その効果は変わらない。小さな破片になってもそれぞれが役割を果たすため、複数の人間に自分のビブルカードを持たせることもできる。
ビブルカードには本人の魂が宿るといわれており、ビッグマムのホーミーズのようにビブルカードを持っている者に手出しできなくなる場合もある。
ビブルカードは知識さえあれば、比較的簡単に作れるそうだ。新世界でしか作れないアイテムだが、作り方はそれほど難しいものではないようだ。作り方がわからなくても、街にいる職人に頼めば作成可能なようだが、ウミット海運に作れる人間はいなかった。必要に迫られなければ技術は発達しないものだ。
「ホーミングさんのことだから、期待新鋭の海賊の情報も入ってんだろ?」
「ああ、自然と集まるように関係を築いてきたからね」
「なら、お願いがあるんだ。麦わらのルフィが今どこにいるのか教えてくれ」
「麦わらの?」
「ああ、ホーミングさん知ってるだろうけど、ルフィはおれと兄弟盃を交わした弟なんだ。ほんとはもう1人同い年のやつがいたけどもう死んでる。ルフィだけが弟なんだ。あの男が生きてた以上、また七武海に入るために億超えの海賊を狙ってくるはずだ」
「そうだな、今回は私の存在を前提に動くだろうから、より水面下になるだろう」
「ルフィはまだ3000万だけど、初頭でこのペースならおれと同じで1年以内に億超えるはずだ。頼む、ホーミングさん。おれ、ルフィが心配なんだよ。甘いこといってるのはわかってる。でも、おれはルフィと同じ高みで戦いたいんだ。武装色をやっと使えたおれですら5億いったんだから、覇気もなにも使えないまま億超えになったらルフィが新世界にも行けないまま死んじまう。それは嫌なんだよ。悔しいが、今のルフィだと黒ひげに会ったら終わりだ、殺される。だからその前に会いたいんだ、頼む」
「わかった、そこまでいうなら教えてやろう」
「ホーミングさん!」
「うちの一番隊長のペドロが、昨日麦わらの一味と旧ドラム王国で会ったそうだ。普通の航路を辿るなら、あと数日でアラバスタにつくだろう」
「ありがとう、ホーミングさん。なんて礼をいったらいいか」
「なに、たまには父親らしいことをしないと怪しまれるだろう。お前はまだ母親の姓を名乗る領域にいないと自分で判断したようだからな」
「それまでお世話になります」
「気にするな、20年もたてばなにも変わらない。ただ、ひとつ問題がある。麦わらの一味がどういうわけか、ローグタウンの白猟のスモーカーに狙われているようでな。あの男も同日到着することになりそうだ」
「スモーカーが?ローグタウンからアラバスタまで追いかけてきたのか!?」
「ローグタウンではドラゴンが助太刀したようだが......」
「ありがとう、ホーミングさん!お礼はアンタのビブルカードができたら改めて伺うよ!じゃあな!」