(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
風と気候が安定してきた。アラバスタの気候域に入った証だ。ビビがアラバスタにおける神聖な生き物だから食べるなと男性陣を後ろから金棒で殴り倒してとめた海ネコという海獣もまたその証。あの猫と魚の融合みたいな海獣は、アラバスタサンディ島近郊をナワバリとしている。
「後ろに見えるあれらもアラバスタが近い証だろう」
ゾロが指差す先には見渡す限り沢山のBWという文字をかかげた船。ビリオンズというバロックワークスのオフィサーエージェントの部下である。ウイスキーピークの賞金稼ぎとは比較にならない強さを持ち、まさに精鋭というにふさわしい。200人は堅いと思われる。
バロックワークスは表向き賞金稼ぎの会社だ。内乱が激化しているアラバスタは、便乗したい賞金首や犯罪組織を呼び込むため、格好の稼ぎ場だ。国民にとっては七武海にして砂漠の英雄クロコダイルの力がどうしても及ばない地域の救世主になりうる。ゆえに堂々と表の港に寄港しても歓迎はされても疑う者はいない。アラバスタでバロックワークスを糾弾してはいけない。周りから頭がおかしいと言われて袋叩きにされ、家族ごと村八分される。それだけアラバスタ王国の信用は地に落ちているのだ。
ビビの言葉に麦わら一味はこれからたった8人で挑む巨悪を再認識する。
砲撃の音がした。それを皮切りにBWの船を片っ端から沈没させていく海賊達が現れた。小舟がどんどん増えていき、座礁した船から日の出が上がり、煙が上がり、沈没していく。大惨事になっていく光景に、えええええ、となった麦わら一味は思わずビビをみた。
「あれもクロコダイルが雇った海賊達なの。王直に依頼したに違いないわ。ああやってアラバスタで英雄としての地位を不動のものにしているの」
王直という言葉にナミが反応する。
「王直って......アーロンが海賊雇う取引してた、あの......!!」
ナミの過去をしらないビビとそれをろくに聞かないままアーロンと激闘の末半ば意識を失いながら気力で倒したルフィ以外の表情が固くなる。
「アーロンが倒せるくらいならそんだけ強くないんじゃねーか?」
サンジが希望的観測をのべる。
「アーロンて海賊がどれくらいの強さかにもよるけど、王直は依頼された強さの海賊しか寄越さないわ」
ビビの言葉に王直という言葉しか知らなかったルフィ以外の誰もが意味を理解して戦慄するのだ。
そんな麦わら一味の反応をみて、ビビは説明を始めた。
王直は偉大なる航路後半の海にある海賊島ハチノスの元締めをしている大海賊である。金さえ払えば配下の海賊を派遣することで知られている。
ハチノスとはあくまで通称であり、正式名称は別にあるが通称が有名過ぎてビビも知らない。なにせ「つつけば(= 上陸すれば)すぐさま大勢のハチ(= 海賊)が出てくる蜂の巣のようである」ことから付いた通称だ。インパクトがありすぎてハチノスじゃないと偉大なる航路では通じない有様だ。
ハチノスは特徴としては、島の中央にドクロの形をした巨大な要塞がある。
島に滞在しているのは文字通り海賊ばかりであり、海賊にとっては「楽園」と言える環境になっている。現在この島の元締めを務めているのは準四皇の一角を担う王直の本拠地になっている。
また、かつて世界最強の海賊団と称されたロックス海賊団が結成された場所でもある。
また、ビビがバロックワークスにいた時に知ったのだが、ハチノスはある大海賊団の結成の地だった。
その男の名はロックス。ある儲け話のためにありとあらゆる無法者たちをこの島に集結させ、ロックス海賊団を結成した。
最強生物と名高い四皇カイドウは、この島にて大物海賊を撃破する等の実力を見せ、白ひげのスカウトでロックス海賊団に海賊見習いとして入団したという。ロックス海賊団壊滅後は、メンバーの1人であった王直がハチノスの元締めになっているというわけだ。
ハチノスは「海賊島」と呼ばれているため、この島がデービーバックファイトが誕生した地である。
「すっげー、あのデービーバックファイトのか!?聖地じゃねーか!やっぱ偉大なる航路はすげーとこなんだな、ワクワクする!」
ルフィの食いつくところが予想外すぎてビビは一瞬ぽかんとしてしまうが、一部を除いた男性陣の目が輝いていることに気づいたため、男のロマンはわからないとぼやくナミに賛同する羽目になる。
ビビはルフィの食いつき振りをみて、それも絡めながら話を再開した。伝説の海賊ロックス海賊団には到底人の下にはつかない性格であるビッグマムやカイドウ、金獅子、王直、白ひげ、キャプテン・ジョンなどビッグネームすぎる者達が所属してた。ロックス海賊団はこの島で行われたデービーバックファイトによってメンバーが構成された、或いはロックスの伝説からデービーバックファイトが出来た可能性がある。 だから聖地といわれている。彼らにとっては黒歴史のため真意は不明だが。
「はー、そんなすげえやつと繋がりがあんのか、クロコダイルは」
「マッチポンプにわざわざ育て上げた部下を200人も使い捨てかよ。惜しげもない使い方だな、おい」
「計画は最終段階に入ってる。でもあの男にはどこにも抜け目はない」
「にしし、でもアリンコが入るくらいの隙間ならあるだろ?」
「!......そうね!バロックワークスの小さな隙間に、私達は入り込めたんだもの。みんなで一気に崩すことだってできるよね!ペドロさんにいい儲け話を持っていくためにも頑張らなきゃ!」
ビビがやる気をだしたところで、ゾロは上陸前にやることがあると話を切り出した。
「盛り上がってるとこ悪いが、クロコダイルは父さんが嫌いだし、親父を不倶戴天の敵だと思ってる。そのせいで天夜叉とも仲悪いっていうんだから、大ハズレだな。王直と父さんは大事な取引相手だ、たぶん嫌がらせしてるだけだぜ」
麦わら一味の誰も声をかけられるまで、そこに人がいることに気づけなかった。もっというなら背後をとられていることはもちろん、マネマネの実の能力者対策に印をつけて包帯を巻くところまできっちり見られたことに気づけなかった。
これからアラバスタを救うため、たった8人で潜入するためには生命線というべき秘策を見られた事実に、麦わら一味は凍りついた。
甲板に降りた男はにいとわらう。ルフィだけは何かに気づいて反応しようとしたが、見えない何かに吹き飛ばされてなにもできなかった。
誰だ、という前に意識を刈り取られたサンジが先だった。
「気づく速さはいい線してるがまだまだだな」
ウソップ、チョッパー、ナミ、ビビは気絶する。
「まあ、前線に出なくていい奴らならまだいいか」
唯一切り掛かったが射程圏に到達する前に吹っ飛ばされたゾロ目掛けて男はようやく右手を燃やした。能力者かとゾロは焦る。ゴーイングメリー号を燃やされたら終わりだ。アラバスタに到達する前に全滅しかねない。飛ぼうとする意識を無理やり繋ぎ止めるため咄嗟に自らに傷をつけようとした。
「センスはあるけど遅いな」
ゾロはまた吹き飛ばされた。
「久しぶりだな、ルフィ。いい仲間連れてるみたいだが駄目だ。このままじゃ死ぬぞお前ら」
一瞬にしてゴーイングメリー号を支配していた何かが霧散する。麦わら一味はその言葉を聞いて耳を疑い、真っ先にルフィをみる。
「エースー!!!いきなりなんだよ、びっくりしたな!?なにすんだよ!!」
「初めから殺そうとしてないことだけは気づいてたか、やっぱり持ってるんだなあ、お前」
「???」
「おれは白ひげ海賊団2番隊隊長こと火拳のエース。ルフィとは兄弟盃を交わした仲だ。いつもルフィがお世話になってます。これからよろしくな」