(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第6話

シャボンディ諸島は偉大なる航路の前半部の終点にある島だ。島と呼ばれているが、実際はヤルキマンマングローブと呼ばれる巨大な樹木の集合体であり、偉大なる航路の島特有の磁場が発生しない。それぞれの樹木の根元に島状のものが出来、樹木から特殊な天然樹脂が分泌され、島を構成する樹木の根元が呼吸するときに樹脂がシャボン玉のように飛んでいく。

 

各々の樹木に番号が着けられており、それが島の区画として使われている。明確に決められているわけではないが、1~29番は無法地帯、30~39番は繁華街、40~49番は観光関係、50~59番は造船所、60~69番は海軍駐屯地、70~79番はホテル街が多い傾向にある。

 

この島の向こうには赤い土の大陸があり、正規の方法で偉大なる航路後半部、通称新世界に進むには聖地マリージョアを通るしかない。そのため、海賊などの無法者達は新世界への裏ルートである魚人島を通る海底ルートへの準備をする島として、このシャボンディ諸島を利用している。

 

結果として、この諸島には偉大なる航路の前半の海で名を上げた悪名高い凶悪な海賊達が集結する地として有名で、それらに睨みをきかせるため、海軍本部が設置されている。

 

奴隷制度や魚人族・人魚族への差別など、200年前に悪しき歴史として世界政府が否定したはずの風俗が公然と肯定されており、世界政府や海軍も人身売買を黙認。人間屋を職業安定所と見て見ぬふりをするなどといった歪みを抱えている。

 

もちろん私達の用があるのは無法地帯である。人間屋を見回りながらミンク族がいないか探して回る。

 

希少な種族なのはわかっていたが、探すとなると案外見つからないものである。ウミット海運の仕事の合間にシャボンディ諸島を訪ねるようになってから早半年。まだ見つかる目処が立たない。

 

一応社長にも掛け合っているのだが、あいにくミンク族を乗せた海賊は白髭、ロジャーしか心当たりがないそうだ。

 

今日も空振りだろうかと思い始めた頃、ドフィが何度目になるかわからないため息をついた。

 

「天竜人の頃に初めからしたいこと教えてくれたら、俺だってミンク族選んだぜ?いくらでも買えたじゃねえか」

 

「何度もいうが天竜人のままだと面白くないから人間堕ちしたんだよ、私は」

 

「何度も言うけど親の都合に子供を巻き込むんじゃねえよ、クソッタレ」

 

「私が父親でごめんね、ドフィ」

 

「感情が微塵もこもってねえじゃねえか、何度も同じこというなよ腹立つな、クソ。どうせ天竜人だったおれが嫌いなんだろ、アンタは。自分も含めて」

 

「よくわかっているじゃないか、ドフィ。何度も言うが今からでもモルガンズのところにいってもいいんだよ?私は一向に構わない。このままだとドフィにまで懸賞金がかけられてしまう。まだ間に合うと思うんだが」

 

「うるせえ、しね」

 

「最近ほんとうに反抗期がひどいな、ドフィは」

 

「うるせえ、ばーか」

 

軽口を叩きながら歩いていると、ようやくお目当てのミンク族の奴隷を見つけることができた。オークションで競り落とすのに時間がかかったが、ウミット海運の今後がかかった儲け話のためか資金には困らない。

 

あっさり買うことができた。みんな一様に怯えた目をして私達についてくる。

 

私の想像以上にモコモ公国の住人は海外への憧れが強いのかもしれない。ミンク族といえば白髭海賊団やロジャー海賊団にいたネコマムシやイヌアラシあたりしか見たことがなかったのだが、私がシャボンディ諸島で買ったミンク族はみんな似たような理由で奴隷になっていた。

 

みんな揃いも揃って子供であり、イヌアラシ達のように世間知らずだった。大人はまず無謀なことはしないだろうから当たり前といえば当たり前か。ある者は世界政府により知ることすら禁じられていることを知らないためにポーネグリフを見に行きたいといい。ある者はイヌアラシ達を追いかけてワノ国に行きたいといい。ひどい者だと冒険したいとかふんわりした理由で無謀にも航海術や新世界の海の知識も学ばないまま一緒に小舟に乗り、旅立ってしまったらしい。

 

ワノ国でおでんに拾われて家来になったイヌアラシ達から手紙をもらったのが引き金らしいから憧れというやつはなかなか止められないようだ。

 

難破して漂流したあげくに打ち上げられた国でミンク族の知名度の低さが災いして迫害に遭った挙句に人攫いに売られたという。

 

天竜人が闊歩するシャボンディ諸島に長居する気はないため、買い付けが済んだら早々に島を離脱し、そのままウミット海運の深層海流に乗ってツキミ博士のからくり島に向かうことになる。

 

ツキミ博士の趣味でワノ国の庭園や家屋が広がる小さな島に上陸するころには、私達に協力さえしてくれればモコモ公国に帰還できると知った彼らはすっかり安心した様子でくつろぎ始めたのだった。

 

「おい待てこら、おれの服勝手にタンスから出すんじゃねえよ!あいつらに着せる気だろアンタ!!」

 

「最近着てなかっただろう、いらないのかと思ったんだが」

 

「せめて聞けよ馬鹿!母上に買ってもらった服まで勝手に着せようとすんじゃねえ、ふざけんな!しね!!」

 

「ああ、なるほど。そうだったか、すまないねドフィ。じゃあ、今から買い出しに行こうか」

 

「誰に話ふってんだ、馬鹿!おれとアンタだけでいいじゃねえか!!もうガキの引率なんかゴメンだ!」

 

「やけに反抗するじゃないか、ドフィ」

 

「..................ばーかしね」

 

いよいよドフィは拗ねてしまった。

 

「わかった、わかった。からかいすぎたね、すまないドフィ。久しぶりに買い物にでも行こうか」

 

特に深い意味はなかったのだが、ドフィはそのまま私の服を掴んだまま泣き出してしまった。なにを言っても泣き止まないものだから、なにが欲しいのか根気強く聞き出したところ、なんと私と同じ黒シャツに赤いネクタイのスーツが欲しいと言い出した。よくわからないがそこまで言うなら特注の店にも立ち寄ることにした。

 

「自分の子供の誕生日ぐらい覚えとけよ、天竜人んときは盛大なパーティ毎年してたくせに、言わなきゃ祝ってもくれねーのかアンタ」

 

ここでようやく私は今日が10月23日だと思い出した。

 

「あの時いったはずだよ、ドフィ。父親としての最後のプレゼントを拒否したのは他ならぬドフィじゃないか」

 

「ばかいえ、父親の背中をみて生き方を学べっていったのはアンタだ、父上。つまり、アンタはまだおれの父上なんだよ、自分のいったことくらい覚えとけばーか」

 

げしげし蹴ってくるものだから、私はスーツに合わせたブーツも買ってやることにしたのだった。

 

「帰ったら焼肉でもするか」

 

「ほんとにアンタってやつは......!!アンタってやつはあああ!いいかげんにしやがれ、ばかやろー!!!」

 

「いらないのか?」

 

「あいつらだけが食うのはムカつくから食うけどよ、ほんとアンタってやつはいつかころす!!!」

 

「そればかりだね、ドフィ」

 

「だれのせいだと思ってんだ!!!」

 

ドフィはずっとこんな調子だったが、ようやく依頼人のために延期していた宇宙船の動力の開発を進めることがことができそうだ。からくり島にある研究室は報酬である私の船に移設することにしよう。ミンク族の奴隷を買うのに時間がかかりすぎてしまった。いつ世界政府や海軍本部に見つかるかわかったものではない。刺客に嗅ぎつけられる前になんとしても依頼を完遂しなくては。前途はまだまだ多難である。


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