(未完)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
今私の前にいる逆立った赤い髪に海賊らしい悪人面をしている男の名はロックスター。懸賞金9400万ベリーの赤髪海賊団船員。レッド・フォース号に乗ったばかりの新参者だ。
元々別の船でも海賊をやっていたことは調べがついている。例によって無名の頃から海軍本部への定期報告にあげるくらいには私の興味をひいていた。懸賞金額から考えると偉大なる航路でも結構な海賊業を積んできたのは間違いない。ウミット海運の血の掟を破ってなお海賊船を沈められることも、本人含めて幹部達の誰も処刑されることもなく逃げ切り、赤髪海賊団の支配下に辿り着き、傘下に入っただけの実力の持ち主だ。
世界最強の男とも呼ばれる四皇大海賊白ひげことエドワード・ニューゲートへ手紙を届けるときに赤髪海賊団が使者として送りだすほどの期待の新鋭なのは間違いないだろう。
イールとの小競り合いをみるに、体育会系の真面目な性格でシャンクスへの忠誠心が特に厚い。正義感が強くルールにうるさい。戦闘スタイルは「まっすぐ剣を振り下ろす“カチ割剣”」「剣で穴掘るドリル」。 報告書に嘘はない。あいかわらずウチの諜報部門は優秀だ。
「喜ぶがいい、ロックスター。お前はよほど赤髪に期待されているようだ。少なくとも、私の覇気に耐えられる上、そこまでされてもなお、うちの護衛に一撃いれようとする気概があるお前を私は評価しよう」
イールを止めた私はすでに待機している治療班にロックスターを今すぐに治療室に放り込むよう告げた。
「ただ白ひげのところにいくなら態度を改めろ。あの男は私より優しいが、万が一はいつでもつきものだ。今のままだとどうでもいいところで死ぬぞ貴様」
赤髪海賊団の一部下として若干謙遜しつつも、白ひげ海賊団の船員に自慢げに声を掛けたと前の世界で白ひげから酒のさかなに聞いていた。あの時から楽しみにしていたが、想像以上の実力の持ち主だとわかって今の私は機嫌がよかった。だから気まぐれに声をかけたわけだが。
なぜかイールが私を弾かれたように見たあと複雑そうな顔をしてロックスターを見送った。今度は何を見当違いな妄想をしているのやら。肉盾の期待しかしてないから正直しったことではないが、また離反されても困るから話をしてやるか。
私は雑談といいながら、イールに話をふる。
白ひげとロックスターの力関係は歴然だろう。たしかにロックスターの約1億ベリーは本人のいうようになかなかだ。赤髪海賊団に入る前なら黒ひげの海賊狩りの標的になるし、麦わらのルフィがクロコダイルを破りバロックワークスを壊滅させる奇跡を見せてようやく到達しうる領域だ。
巨兵海賊団ドリーとブロギーも1億ベリーだが、あれは長年放置されていた関係上今の相場に換算すると何倍にまで跳ね上がるのか底がしれないため除外するにしても。
青田買いが大好きな世界政府の勧誘に応じた当時の砂の王クロコダイルが王下七武海に入るころですら8100万ベリーだった。白ひげに破れて仲間もろとも全滅したのはそのあとだから、当時の実力が反映されているのは間違いない。たしかな指標だ。
ロックスターは当時の七武海に勧誘されるころのクロコダイル越えの懸賞金額を引っ提げて私の前に現れた。
そんな大物を赤髪は私によこしてきた。失敗する事を予測した上で小間使いに送り出したとはいえ、役割を果たすにしても敵対するウミット海運に送り込むには最低ラインを超える人間がいるのはたしかだ。
そんな男が不死鳥のマルコ13億7400万ベリー、50億4600万ベリーに屈辱だの何だのと言って万が一があって消されるのは惜しい。
私はそのまま医務室に向かう。
「それにロックスターには赤髪に私や白ひげからの返事を伝える大事な仕事がまだ残っているだろう。下手に殺したら交渉決裂で全面戦争になる。今のお前に能力者なしで覇気と純粋な実力だけでのし上がり、層の厚い大幹部共を従えるに至った赤髪にまで届くだけの実力があるのか、イール?」
イールは無言ながら、安心した様に笑って首を振った。あいかわらずこの男の目には私がどう見えているのやら。一度でいいから頭の中をのぞいてみたい衝動にかられていけない。そんなくだらない理由のために、いつか手に入れたいメモメモの実の使用方法として検討したくはないから放置しているが。とりあえず世間からの評判を判断するにはちょうどいい鏡すぎてこまる。
私は執務室にもどり、さっそく封をあけて手紙を読み進める。イールはいつものように扉前で待機を開始した。そしてウミット海運の印字が入った便箋をだすと、胸のポケットから出した筆ペンに黒インクを染み込ませ、返事を書き始めた。同じ印字が刻まれた封筒にいれて、ウミット海運の特別製のロウで封をする。
治療中のロックスターを訪ねて、医務室に顔を出した。
「ロックスター、赤髪にはこれからいうことを伝えるだけでいいから、持ってきてくれた手紙と一緒にこれをそのまま持ってかえってくれるか。同じことを今書いたからな」
そして、そのままロックスターの包帯が巻かれている腹に封筒に入れ直してからおいてやった。
「儲け話に一番縁遠いはずの赤髪に可能かどうかはさておき。カイドウを上回る儲け話があるなら考える。今はなんともいえないから保留にさせてもらうとな。白ひげの対応をみてから決めさせてもらおう。いい儲け話を期待しているよ」