(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
ロビンはコブラ王をハナハナの実の能力で拘束しながら、連れて地下を進んでいく。その最奥に巨大な立方体があり、そこには歴史の本文があった。ロビンはそれを読んでいく。
「望むものは記されていたか」
コブラ王には答えない。
「他にはもうないの......!?これがこの国の隠してる全て......!?」
「不満かね?私は約束は守ったぞ」
「......そうね」
ロビンは賭けに負けたことを悟って、コブラ王との会話すらおなざりになっていた。今ここにロビンが最期の望みを託していた夢への道が閉ざされた。歴史の本文が読めるロビンにはわかってしまったのだ。この歴史の本文はハズレだ。プルトンはワノ国という今のロビンにはあまりにも遠すぎる新世界の非加盟国。しかも鎖国している上に、四皇カイドウが支配している国にあると書いてあるのだ。
この国の王は、後ろにいるロビンのハナハナの身の能力で拘束されている男は、唯一マリージョアに移住しなかった天竜人の末裔だ。だから、プルトンがあるかも知れないというクロコダイルがつかんだ情報には期待が持てたというのに。この国にあると思ったから、軍事国家が持てたら新世界にいけると思ったから、夢を見たから、ここにきたのに。
「......さすがは国家機密だ。知らなきゃ......見つからねえなこりゃ......こいつが歴史の本文か、ニコ・ロビン」
「......はやかったのね」
「......奇妙というか、なんというか。解読はできたのか」
「......ええ」
「......さあ、読んでみせろ。歴史の本文とやらを」
隣にやってきたクロコダイルをロビンはみた。
「どうした、ニコ・ロビン」
「ひとつ聞いてもいいかしら」
「なんだ」
「もし、プルトンが新世界にあると知っても、あなたは私にまだ夢を見せてくれるかしら」
「......なんだと?」
「新世界の海賊達と渡り合えるあなたにまだ夢を託してもいいかしら」
「......ほんとうにあるのか、プルトンが。この国じゃなく、新世界に?どこだ」
「......ワノ国よ」
長い長い沈黙がおりた。クロコダイルの口元が吊り上がっていく。
「クハハハハッ、ワノ国かッ!よりによって百獣のカイドウ、この世における最強生物が支配する国にあるのか、プルトンは!いや、逆か!だからこそカイドウは再三海賊王や白ひげに完全支配を邪魔されながらも、執拗にワノ国を狙い続けているわけか!あの男すらまだプルトンが見つからないから、探し続けているわけだな。アラバスタに居続けたおれのように、動けねえのか!諦めきれないから!海賊王が!いや、あの男のことだ。海賊王に繋がるなにかを手にするにはワノ国に行くしかねえから、待ち受けてやがるのか。あの男すら海賊王に届かねえ理由があるとしたら......」
「なに?」
「お前だ、ニコ・ロビン。世界で唯一歴史の本文が読めるオハラの生き残りよ。カイドウはお前がいないから海賊王になれねえらしいな」
「......そんなこと、あるの......?」
「そうとしか考えられねえじゃねえか。そうじゃなけりゃ、なぜこの歴史の本文にはワノ国にプルトンがあると書いてある?」
「......」
「さっきの答えならいうまでもないだろう。お前は本当に優秀なパートナーだよ、ニコ・ロビン。おれがお前を探し出し、計画を話したとき、お前が持ちかけてきた協定はたしかに達成された。この6年間、お前は頭脳、指揮力、共に優れたものだった。おれにとってはそれだけでも利用価値があったといえるが......」
「............」
「───────もう二度と、最初から人を信用しねえと思ってたんだがな。なぜ嘘をつかなかった、ニコ・ロビン。この歴史の本文はお前にとってはさらに遠回りな計画を強いるものなはずだ。生きることに疲れていたのに、なぜ嘘をつかなかった」
「..................あなたが、」
「あァ」
「..................うらやましくなってきたのよ」
「そいつはどういう意味だ」
ロビンはその理由を話そうとしたが、できなかった。クロコダイルがアラバスタを乗っ取り、軍事国家にしたてあげ、ワノ国に侵攻するという展望がみえたことで、コブラ王が地下神殿を崩壊させるシステムを起動したのだ。
そして、崩れゆく神殿に殴り込みに来た少年がいた。綱渡りのような奇跡の連続で何度も復活するたびに覇気の練度が上がっていく麦わらのルフィに、かつての自分を思い出すのか苦い顔をするクロコダイル。決着をつけるからお前は外にいろと言われた。気づいたら外にいた。
そして、大穴が開いている地下神殿からクロコダイルの叫びが聞こえてくるのだ。
「お前の目的はこの国にはねえはずだ」
麦わらのルフィは海賊王になると公言する少年だ。
「他人の目的のために死んでどうする」
なぜ敵であるルフィにそんな問いをなげるのか。まるで他人の目的のために死んだ人間がいたみたいではないか。
「仲間のひとりやふたり、見捨てれば迷惑な火の粉はふりかからねえ」
まるで仲間のひとりやふたりが誰かを見捨てられなかったせいで、火の粉をかぶったことがあるみたいではないか。
「全く馬鹿だ、てめえらは!」
それは誰に向けた言葉なのか。
「わからねえ奴だ、だからその厄介者を見捨てちまえばいいとおれは」
その厄介者を見捨てられなかったから、死んだ人間がいるみたいではないか。
「死なせたくないから、仲間だろうが!!!だからあいつが国を諦めねえかぎり、おれ達も戦うことをやめねえんだ!」
「......たとえてめえが死んでもか」
「死んだ時は、それはそれだ」
それはクロコダイルにとってどう聞こえたのか、ロビンにはわからない。ただ、ひどく胸が締め付けられて目を閉じていた。
最終決戦がはじまろうとしていた。
雨が降り始めていた。
ロビンが夢を託した男は麦わらのルフィに敗北し、はるか上空へ吹き飛ばされていく。ずっと向こう側の国王軍と反乱軍が全面戦争秒読みの広場のど真ん中で音がした。ハナハナの実で目をひらくと、落下したクロコダイルが気を失っていた。
突如足元が崩壊する音がして、慌ててロビンは後ろに下がる。ロビンがいるところの崩壊はやんだが、つい先ほどまでクロコダイルと麦わらのルフィが激闘を繰り広げていた地下神殿は崩壊の一途をたどる。
このまま放置すれば麦わらのルフィとコブラ王は生き埋めになるだろう。助かったとしても毒が回り、満身創痍な麦わらのルフィと戦う力を持たないコブラ王だ。ロビンがその気になれば殺すこともできる。特技は暗殺だ。麦わらのルフィが覇気使いだとしても今のルフィにロビンに使う力など残っているはずもない。
「......」
しかし、ロビンは真顔のまま目を閉じた。無言のままハナハナの実の力で気絶している麦わらのルフィとコブラ王を崩壊する神殿から助け出した。しばらくして崩壊の音が止んだ。完全にアラバスタの歴史の本文は瓦礫に飲み込まれる形で闇に葬られた。
「......いいのか」
ロビンとクロコダイルの会話を終始聞いていたコブラ王は、ロビンが涙ぐんでいることに気づいて口をつぐんだ。傍には毒が回り、ぐったりしているルフィがいる。コブラ王がルフィを背負う。
「......いいわけ、ないでしょう。わたしはゆめをたたれたのよ」
雨が激しさをましていく。コブラ王は足を止めた。
「............でも、むぎわらのルフィは、海賊王になるっていうから......。あきらめきれないゆめが......おなじだっていうから......わたしにはできない。ゆめをみたのは、おなじだもの......ゆめをみてしまったのよ......海賊王になるのにわたしがひつようなら......わたしのゆめがまだつながってるなら......わたしは......わたしは......」
泣き声は雨にかき消されて行った。
「モンキー・D・ルフィ」
「ん?」
「あなた、私になにをしたか忘れてはいないわよね?」
「おいお前、嘘つくな!おれはなんもしてねえぞ!?」
「いいえ、耐え難い仕打ちを受けました。責任とってよね。私を仲間にいれて」