(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
ベラミー海賊団がようやくうそつきノーランドの末裔、モンブラン・クリケットを訪ねた時には、ゴーイングメリー号が先に停泊していた。
潜水病にかかっていた彼の治療が麦わら一味総出の看病もあって無事終わり、彼が目を覚ましたことで話を聞いているところだった。
麦わら一味は東の海出身で、北の海出身のサンジというコック以外は馴染みがなかったようだ。うそつきノーランドの絵本と実際の航海日誌を読み比べたところだった。
ショウジョウとマシラという猿みたいな人類が外で殴り合っていることに驚きつつ、ベラミー海賊団もお邪魔したというわけだ。
「にっしっし、おれのが先についたな、ベラミー」
「んだとォ?今までうそつきノーランドの話聞いてたんだろ、麦わらァ。おれ達はすでに知ってたからな、ノーカンだ、ノーカンッ!まだ空島への行き方教えてもらってねーんだろ?ならセーフだ!」
「なんだよそれ、ひきょーなやつだなおまえ!」
「戦いに卑怯もクソもあるかよ、ばーか」
「はいはい、ちょっと黙ろうかベラミー。海楼石の弾丸脳天にぶち込まれたくなかったら、静かにしてくれるか?まだおれたち自己紹介してないだろ」
「ハハッハハ......いやすまん、冗談だって。いきなりフルスロットルはやめろよ、リヴァーズ。さすがに死ぬだろ」
さっそく自己紹介をしたベラミー海賊団がやったのは、サインペンと色紙を準備するところだった。
「おれ達、うそつきノーランドの大ファンなんだ!サインくれ、サイン!」
ベラミー海賊団全員からサイン色紙をねだられたモンブラン・クリケットは、ショウジョウやマシラみたいな絵本の大ファンなのかと笑いながら書いてくれた。握手を求められたことはあったが、サインをこんなに求められたことはない。そんな笑い話をしていたら、握手してくれとベラミーがいうものだから、ちょっとした握手会になった。
サイン色紙を受け取るなり額縁を用意して船長室に飾るとニュー・ウィッチ・ベロ号に戻っていくベラミーをみて、麦わら一味はまたかという顔をする。
「ベラミー、めっちゃうれしそうだな。そんなにすきなんだな、うそつきノーランド」
「実際、色紙飾るとか凄い筋金のファンしてんな」
「あ?あー、まあさすがにドフラミンゴと同じとは言えねえが、大ファンなのは事実だぜ。おれ達はノーティス生まれだからな。うそつきノーランドで育ったようなもんだ。ドレスローザに行ったら、誰だってファンになるんじゃねーか?特に北の海出身の奴らはよォ」
「ドレスローザ?七武海の天夜叉ドフラミンゴが拠点にしてる国じゃないか。お前らノーティスからドレスローザまでいけるのか、すげえな。わざわざこんなとこまで何しに来たんだ」
「麦わらと一緒だ、空島スカイピアの黄金を探しにきたんだよ。ドフラミンゴの入団試験がかかってんだ、おれ達にも空島スカイピアへの行き方教えてくれ!」
「はァッ!?ドフラミンゴファミリーの入団試験だァ!?もしかして、ドフラミンゴもうそつきノーランドの大ファンなのか?無茶苦茶な試験だな?」
「そんなに驚くことかァ?うそつきノーランドはほんとの話だろ?つーかノーランドが非業の死を遂げてなお辱めを受けてる話ってのはドレスローザじゃ常識だぞ?アンタがジャヤにいるのは、ノーランドの末裔が嘘つきノーランドの汚名を晴らそうとしているからだろ?めっちゃ、誇り高いノーランド一族なんだ、サイン欲しくなるに決まってんじゃねえか」
ベラミーはなにを当たり前のことを聞いているのだとばかりに話し始めた。
ベラミー海賊団が逆走してきたドレスローザは偉大なる航路後半部新世界にある王国だ。ドレスローザの領土である小島グリーンビットの地下には、トンタッタ王国という小人族の国がある。
尖った高い鼻に、丸く膨らんだ尻尾を持ち、尻尾は一見ふわっとした印象を受けるかもしれないが、芯には硬い骨と筋肉があり、俊敏な移動を助け、戦闘では打撃を与える武器にもなる。
「~です」を「~れす」など舌足らずに発音するのが特徴。
目にも止まらぬ速さで所持品を強奪したり衣服を剥ぎ取ったりすることができる俊敏さと、パンチ一発で大人間が住む一軒家を破壊する怪力を持ち、植物栽培にも長けている。平均寿命は150年。
このように種族としてのスペックは人類をはるかに凌駕しており、小人と馬鹿にして捻り潰してやるとかイキった態度をとった人間はまず間違いなく痛い目にあう。
「2年前のおれらみたいになァ」
「イキってたもんねえ、アタシら」
「いい薬だったよ、今思えばな」
ただ、一族揃って真面目で素直すぎる性格のようで、とても騙されやすい。一度騙されたと自覚してもとってつけたような嘘でなだめられるとすぐに納得してしまい、相手がどこの誰であっても言われたことをそのまま信じてしまう。
また、「立ち入り禁止」などの標識を「入っちゃいけないって書いてある」という理由で、敵地であってさえ忠実に守ろうとし、それを意図せず破ったマウジイを非難するなど、非常に利用されやすい性質をしている。
しかしその底抜けの正直さは、仲間(トンタッタ)は決して嘘をつかないという強い信頼を相互に生み出している。
「......トンタッタ......」
クリケットはなにか記憶にひっかかりがあるのか、不意に立ち上がるとノーランドの航海日誌を開き始めた。
「探すならグリーンビットでな、クリケットさん。ドフラミンゴんとこで見せてもらった写本だと、何ページだったか」
「100ページ台だったのは覚えてるわ、アタシ」
「面白すぎて一気に読んだから細かいとこ全然覚えてなーい」
「145ページか」
「航海日誌暗記してんのか、すげーなクリケットさん」
とりあえず、ベラミー達が覚えてあるのは400年以上前、悪い人間によって島を荒らされ困っていたところを、グリーンビットを訪れたモンブラン・ノーランドによって救われたことだ。
そのため、トンタッタ一族は、ノーランドにカボチャの種を与えてその栽培方法を教え、伝説のヒーローとして王国に銅像を建立した。
そのカボチャの種は植物学者でもあったノーランドが気候にあった植物を冒険した島民にプレゼントした。そのため、ノーランドはカボチャの伝道師として知られている。
ドレスローザでは、ドフラミンゴが私的に集めた本が一部王国図書館に寄贈されており、ベラミー海賊団はノーランドの航海日誌の写本を読んで感動したというわけだ。
「ノーランドはうそつきなんかじゃねえ、誇り高い海の戦士だ。なら、ノーランドがいってた黄金都市は絶対あったに決まってんだよ。ドフラミンゴは勉強熱心でなんでも知ってるからな、空島スカイピアに黄金があるんじゃねーかと考えたんだろうよ」
「あの人堕ちホーミングすら手が出せないってのが怖すぎるんだけどな」
「ほんとやばいよね、今のアタシらなら大丈夫って思ってくれたんだろうけど。まあ、失敗して死んだら死んだでそこまでだよねー」
軽口を叩き合うベラミー海賊団をしりめにずっとページをめくり続けていたクリケットは、ようやく該当ページを探し当てたのか一心不乱に読み始める。
「お前らが読んだのはこのページか?」
「そうそうこれだこれ!こっからカボチャがどう世界に広がっていったのかわかるのがおもろいんだよな!」