(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
麦わら一味とベラミー海賊団はジャヤの南の森にやってきた。
網があるから3手にわかれることにした麦わら一味とちがい、ベラミー海賊団は2つしかない。ベラミーは能力があるからいらないし、サーキースは一緒にいくため不用なためだ。虫は絶対に嫌だと断固拒否した女性陣の代わりに、狙撃手リヴァースと戦闘員のロスのコンビ。あとコックのヒューイットに女性陣と同じく嫌だと絶叫しているのに引きずられてきた可哀想な航海士エディもいる。
さっきからエディに非常に同情的なサンジの挙動が実に不審だが、もしかしたらエディみたいに病的なまでに虫が嫌いなのかもしれないとベラミーは考えた。エディは生理的に嫌いなのではなく、衛生管理に神経質になるにはいくらなってもいいと主張してやまない男だ。
コックのヒューイットと共に船にネズミやゴキブリが湧くことを不倶戴天の敵みたいに思っている。その正しさはベラミー海賊団では当たり前でおわるが、もし麦わら一味みたいに行儀悪く食い散らかす船員がベラミー海賊団にいたら、即日エディとヒューイットに海に沈められるだろう。
そういう意味ではコックのサンジのおかげで、麦わら一味は衛生的に安全な航海ができているのかもしれない。
それはそれとして、はやくサウスバードを捕まえないとメシにありつけないから、エディの主張は黙殺されるわけだが。
「エディ観念しろよ。ヒューイットが心底嫌だけど我慢してきてるんだからおまえもいいかげん腹括れ」
「よくそんなこといえるな、サーキースッ!いわせてもらうが、ここはノーティスじゃないんだぞ!?やつらは飛ぶしでかいし突進してくる!剃すら使ってくるじゃないか!嫌だ、死にたくない!」
「ハハッハハッ!あいかわらず、おもしれえこというじゃねえか、エディ。ドレスローザに2年もいてなにいってんだ、お前」
「ちがう、ちがうぞ、ベラミーッ!!それとこれとは話が別だ!ドフラミンゴファミリーの拠点だから我慢できるだけだッ!ここには我慢できる要素がなにひとつない!!」
「なっはっは、どんだけ虫嫌いなんだよ、おまえ」
「今すぐに火炎放射器で焼き払いたいくらいには嫌いだ、麦わら」
「......いくぞ、エディ」
「ぎゃー!」
サウスバードのはるか上空が暗くなってきた。このあたりでは昼なのに、夜が訪れることがある。それがノックアップストリームの前兆であるため、サウスバードは気にしなかった。はじめは。
「ハハッハハッ、聞こえるかサウスバードッ!やあっとみつけたぜ!手間かけさせながってェッ!」
そんな声がしたかと思うと、螺旋を描きながら真っ黒ななにかがサウスバードのとまっていた木を中心に広がっていく。夜の帳のように降りてくる。
「この密林をざっと回らせてもらったが、気づいたことがある!ある場所を越えるとやつらの襲撃してくる方向が変わったんだよ!」
サウスバードは飛び立とうとしたが、円形に螺旋をえがくそれはすさまじいスピードでザルのようになっていく。視界が黒に潰されていく。
「だからおれはこう考えたわけだッ!サウスバード自体はたくさんいるがァ、配下は別で共有してるわけじゃねーんじゃねーかッてな!むしろテリトリーが決まってんじゃねーかッてな!」
隙間を狙って逃げようとしたが、弾き飛ばされ、一瞬だけ黒いなにかに触れた。硬すぎてサウスバードは落下した。見えない頑丈な武装を纏っているような何かにサウスバードは近づけもしなかった。
「そこまで啖呵きって、実は全然違ったらどうするんだよベラミー。トナカイに聞いたほうがよくないか」
「うっせえ黙ってろサーキースッ!今いいとこなんだから水さすなッ!!あー、だから、その、あれだッ!海側やモックタウン側のサウスバードはどっかしら、気にしなくていい場所があるッ!だが、てめーみてえに四方八方をテリトリーで囲まれてるサウスバードはそうはいかねえわけだ!」
とうとうサウスバードのいた木々や大地を丸ごと囲う巨大な鉄のボウルが完成してしまう。
「テメーが一番ヒエラルキーが上なのかッ!逆に下だから一番あぶねえとこをテリトリーにするしかねーのかッ!それはこの際どうでもいい!なんでかわかるかッ!」
自重でたわむそれは、バネのように飛び跳ね、ぐわんぐわんとゆれているため、実際はたくさんのヒモ状のなにかが重なっててきているのだとわかる。
「いつ攻められてもおかしくないあぶねえ場所テリトリーにしてるやつはッ!慢心する暇がねーからだッ!」
それは次第に収縮し始める。速度調整ができるのか、サウスバードが飛行する場所だけ緩やかで、いない空間が歪に歪みサウスバードを取り囲んでいく。
「ドフラミンゴもバカはいらねえっていってた。おれもこれからホーミングすら手が出せねえ空島スカイピアにいくんだ。普通のサウスバードはいらねえ」
サウスバードは起死回生の雄叫びをあげる。
「勝負しようぜ、サウスバードッ!ちょうど、どこまで遮断できるか知りたかったとこだからなァ!ちょっと付き合ってくれよ。そんで、勝ったらおれんとこ来やがれッ!いっとくが、ドフラミンゴ程じゃねえが、おれの鳥籠特別製だぜ!!」
よっしゃ決まったと悦に浸るベラミーにいつものことながら、サーキースはためいきである。
「カッコつけてるとこ悪いが、右手塞がるのどうにかならないのか、ベラミー。はやいとこ覚醒しろよ、お前。おかげでガラ空きなお前の右側に守らなきゃならない、おれの身にもなってくれ」
ククリナイフを引き抜いて、サーキースがぼやく。サウスバードの絶対絶命の危機である。配下の昆虫、動物、そして毒性をもった生物まで四方八方を取り囲んでいた。
「いいじゃねえか、上手くいきゃ面白いことができるぜ。完成するまで付き合ってくれよ、サーキース」
「ドフラミンゴの奥義パクるのはいいけど、もっと応用考えろよ。覚醒もしてないのに名付けたのがちゃちな技だといよいよ殺されるぞ、お前」
「..................よし、これが終わったら麦わらとトナカイとカブトムシ勝負してこようぜ、サーキース!」
「こっち向いていえ、ベラミー。ベラミー。おい聞いてるかベラミー」