(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
宇宙船は完成した。スペーシー中尉達を乗せた船は月に目掛けて飛び立った。月までなら風船で行けると研究資料から書いてあったが、スペーシー中尉達の動力が電気な以上、なんとしても確保しなくてはならなかったから完成してなによりだ。ミンク族の電気に関する性質を特化させて衛生兵として何十体も乗せたから、きっと仇討ちは成し遂げられるに違いない。
見えなくなってしまった宇宙船と満月をドフィはまだ見つめていた。
「そろそろ私達も空の船出と行こうか、ドフィ」
「モコモ公国にいくなら深層海流のがいいんじゃねえのか?」
「ダメだ、空の方がいい。早く乗りなさい」
「父上?」
不思議そうなドフィやミンク族達を船に乗せる。
「ワタクシの出番ではないのでアリマスネ」
「そうだね、ドルネシア少尉。今回はスペーシア少尉の指示に従って欲しい」
「わかったでアリマス」
「船長、進路はいかがいたしますカ?」
「ウェザリアに進んでくれるかい?」
「かしこまりマシタ」
スペーシー中尉がこの船の操舵手として任命してくれた人工知能を搭載したロボット達が位置につく。なんとか船は無事に空へ出航したのだった。
一瞬で空が暗くなった。そして、一瞬にしてあたりが真っ白に塗りつぶされていく。あれだけ離れているというのに目を焼かれそうになる。真っ先に反応したのはサングラスをかけているために無事だったドフィやミンク族達だ。からくり島が吹き飛んだのである。これを見るのは3度目だ。ゴッドバレー以来だろうか。間一髪だった。少しでも遅れていたら、今頃私達は海の藻屑だろう。文字通り地図の上からしょうめつしたに違いない。
「私が放浪すると言った意味がわかったろう、ドフィ。船の建造に時間をとられてしまったが間に合ってよかった。機動力重視で正解だったね」
ツキミ博士の仇討ちに月に向かったスペーシー中尉達からの報酬は、ビルカ文明から再現された水陸両用ならぬ水陸空両用の宇宙船のような船である。雲に紛れて飛び立った船はやがて空島が浮遊するところまで到達した。なんとか逃げ切ったようだ。
「父上、なんだあれ。なんだあれ。からくり島が消し飛んだじゃねえか......」
「これで拠点を失うのは2度目か。やはり世界政府の目の届く場所で拠点は作るべきじゃなかったな」
「父上、放浪しなきゃならない理由ってのはまさか」
「その通りだ。世界政府が世界政府たる理由のひとつだよ、ドフィ。それしか私にすらわからない。あの光がなんなのかすらわからない。ただわかるのは世界政府のなんらかの逆鱗に触れたんだろうね、私達は......。いや、それにしては発動が遅かったからスペーシー中尉の宇宙船の方だろうか?」
「ビルカの文明関係ってことは、ビルカもいつか吹っ飛ばされるのか?あそこは人が住んでるじゃねえか」
「そんなこと、地図から見てる人間にわかりはしないさ」
ドフィ達が青ざめている。
「二発目が来ないから、やはり狙いはからくり島の抹殺だったようだね。安心しなさい、もう安全圏に入ったようだ」
ミンク族とドフィはそのまま座り込んでしまった。無理もない。まさかCP9を送り込む前にもいきなりあの兵器を使ってくるとは思わなかった。
「もしかしたら、もともと抹殺予定でたまたま私達がいただけなのかもしれないね」
「どんだけ運がねえんだよ、おれ達......いや、運がよかったのか?」
「とりあえず、助かったのだけは確かだね。私達の手配書が発行されていなければ、たまたま巻き込まれたことが確定だ。祈るしかないだろうね」
「ツキミ博士の研究室、移設しちまってるもんな」
「バレたら晴れて賞金首だ。どのみち生半可な強さなど何の意味もなさないのは変わらないがね」
「父上、見たことあんのか。さっきのやつ」
「知っているだけだよ」
「いつだよ、いつ調べた」
「さあ、いつだったか」
「また始まったよ、出所不明の知識」
ドフィは苦笑いしている。
「いつだったか、ロックスという海賊の話を社長としていただろう?あの海賊が壊滅した時の話をしてやろうか」
ハレダス博士にビルカの人々を移住させるなら早めにした方がいいことを伝えるため、船はウェザリアを目指している。予定外の遠回りだ。私の昔話にミンク族達も耳を傾け始めた。
現在、ロシーが扱かれているであろうモンキー・D・ガープが「海軍の英雄」と言われるようになった島であり、かつて世界最強の海賊団とされたロックス海賊団の船長ロックス・D・ジーベックを討ち取った場所がかつて存在した。
現在多くの謎に包まれている島の1つだが、今や誰も上陸することはできない。その島の名はゴッドバレー。西の海にあったと言われる島だ。
今から6年前、この島で当時既に海軍中将の立場であったモンキー・D・ガープが本来倒すべき相手であるゴールド・ロジャーと手を組んでロックス海賊団と交戦し、その結果船長ロックス・D・ジーベックが死亡し、ロックス海賊団が壊滅した。またこの島には天竜人も滞在していて、天竜人嫌いのガープは天竜人の奴隷たちを守るために戦いに挑んだと言われている。
この戦いがきっかけで「海軍の英雄」の伝説の始まりとなったガープ、大海賊のロジャー、「世界の王」という巨大な野望を持っていたロックス、そして今ある世界を創造した神と称される天竜人といった豪華な面子が揃った伝説の島。ゴッドバレーは現在地図に記されておらず、実際に跡形も無く消えている、まさしく世界政府が隠したかった島だ。
「ロックスってそんなにすごい海賊だったのか、聞いたことねえけど」
無理もない、と私は笑うしかない。
かつて「世界最強の海賊団」の名をほしいままにした伝説の一味ロックス海賊団は、海賊島「ハチノス」にて、1つの儲け話の為にかき集められてできた凶悪な集団であり、粗暴かつ独立心の強い個性豊かなメンバーばかりが揃っており、仲間同士の殺し合いが絶えなかったとされている。
メンバーは後に四皇と呼ばれるようになる白ひげ、ビッグ・マム、百獣のカイドウ、他にも金獅子のシキやキャプテン・ジョンなど、今では伝説と称される程のビッグネームの多くがこの海賊団に所属していた。
間違いなく6年前まではロックスの時代だった。
この面々をまとめ上げていた船長がロックス・D・ジーベック。 彼は大海賊ゴールド・ロジャーにとって最初にして最強の敵だったと言われる実力者であり、「世界の王」を目指した恐るべき海賊だった。
非常に好戦的で凶暴、海賊行為よりもテロ活動に重きを置いており、ロジャーとの戦いでは、ロックスが先頭に立って白ひげやビッグマムがそれに続いたという。
これほどの大海賊団が、壊滅からたった6年しかたっていないのに巷では名も知られていない理由は二つある。
一つは、船長ロックスが世界政府自体を狙っていた為、彼らが関わった事件の殆どは政府の情報操作によって徹底的に揉み消されている事。
もう一つは、所属メンバーの仲が仲間殺しが日常茶飯事な程で「チームワーク」の概念すら皆無の烏合の衆状態だった為、ロックス海賊団時代を半ば黒歴史として封印し誰も口外しない事が挙げられる。
逆に言えばそれだけの理由があり、世界政府の強固な情報統制が当時から敷かれていたにもかかわらず、ロックスが悪の代名詞として通じるレベルで暴れまわっていた規格外な連中の集まりであったともいえる。
現在、拠点にしていた海賊島ハチノスは、元船員で有る王直がナワバリにしている。そう、かつての私だ。