(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第71話

「勘違いするなよ、五老星。私は地獄に堕ちることを決めた時から、妻子の蜘蛛の糸になってくれたガープ中将のことしか信じるに値しないと知っている。人のまま修羅に堕ちることを決めさせたのは、貴様らだ、くれぐれも忘れてくれるなよ」

 

E・S事件。それは聖マリージョア襲撃事件以降、まずは当時在籍していたCP0とCP9のリストを開示し、更新するたびに開示する。次に天竜人と同等に彼らを扱える特権を与える。最後になにがおきても世界政府は不問とする。これらの特権をあたえることで、ようやく押さえ込むことになった男の狂気を世界最高権力が初めて知った事件だ。当時のリストにあった全員を、男は特権を行使して皆殺しにする落とし前をつけたのだ。おかげで貴重な人材が全滅し、若い人材を繰り上げる羽目になり、CP全体に多大な悪影響をもたらした。

 

それ以来、世界政府は事実上手に負えない男がまたひとり増えてしまった。

 

その男に四皇赤髪のシャンクスが接触を果たしたという報告が上がってきたときには、五老星に異様な緊張感が走った。それが使者を使った間接的なものと続報を受け取り、ひとまずの安堵が広がったところである。

 

そしたら今度は、赤髪が同じ使者を白ひげに派遣したのち、自ら動いて接触したという情報が上がってきた。

 

「───────だが、赤髪は人堕ちと違って暴れさせたら手にはおえんが、自分から世界をどうしようという男でもあるまい」

 

「さよう。それより今は七武海だ。クロコダイルの後任を急がねば。穴ひとつとて甘く見るな」

 

「たしかに、三大勢力の陣営崩壊は世界に直接ヒビをいれたい男の好機となりかねん。保たねばならん」

 

「はっ!......そのため、七武海に召集をかけておりますが、天夜叉以外、果たして何人が現れることか......。所詮は海賊、身勝手な連中でして......」

 

「天夜叉はやつの監視の目も同然、入れるんじゃない」

 

「も、申し訳ありません!」

 

「クロコダイルめ、厄介なことをしてくれた......。───────それを討ち取ったこの男ももはや野放しにできまい......」

 

「問題は、火拳が兄弟盃を交わしたと言ってはばからないことか」

 

「あの男の影を感じざるを得ない......か。人堕ちめ、どこまで貴様の差金だ?」

 

「奴にはどんな建前もやってはならん......好機とみたら今度こそあの男は......」

 

五老星の会話をかき消すように海軍本部から聖マリージョアへ伝令が流された。

 

「海軍本部からマリージョアへ。王下七武海、ドンキホーテ・ドフラミンゴ様。次いでバーソロミュー・くま様がおつきに───────」

 

 

 

 

 

聖マリージョアの円卓とはいえ、王下七武海が素直に座るわけもない。ドフラミンゴはベランダに腰掛け、くまは奥にあるソファで太陽十字信仰の聖書を読んでいた。真面目に円卓についているのはおつるだけである。センゴク元帥がようやく現れた。

 

「よく来たな、海のクズども」

 

「フッフッフ、おーおーえれえ言われようだぜ......」

 

「───────だが、的は射ている」

 

「おや、珍しく内職をしないのかい、ドフラミンゴ」

 

「フッフッフ、あいにくそんな気分にはなれねえなァ、おつるさん。こんなモン今さら見せられてもなァ。ホーミングの忠告から何日かかってんだ、センゴク元帥」

 

ドフラミンゴの手には、ふてぶてしい笑顔の男の手配書が揺れていた。

 

「1億ベリーか、桁がひとつ足りないんじゃねえのか?これじゃあ麦わらのルフィと同じだぜ?それとも謀ってんのか、うえは?」

 

「一度は壊滅が確認された海賊だ、目立った動きがない以上、難しいものがある」

 

「目立った行動ねェ......抑止には期待できそうにねえな。だったらよ、さっさとこの会議終わらせてしまおうぜ。話にならねえ」

 

「......始めようか。これ以上待っても誰も来まい。6名中2名も来てくれるとは私の想像以上だ」

 

「いつも通りの間違いだろ、センゴク元帥」

 

「黙れ、天夜叉」

 

「ふむ、海軍本部と七武海がつまらぬ馴れ合いをしているようだ。おれは来る場所を間違えたかな?」

 

「なにをいう、鷹の目。王下七武海は我々の側だということを忘れているのは貴様だ」

 

「......これで3名だね」

 

「フッフッフ、鷹の目か。砂の王は今日付でインペルダウン行きだ。わざわざ来てもらったのに悪いな」

 

「フン、おれはただの傍観者希望だ、別にかまわん。今回議題にあがる海賊達に少々興味があってな......それだけだ」

 

「おーおー、うれしそうな顔しやがって。さては前の話気にしてたな?」

 

「よほど沈没させて欲しいようだな、黄金帝の巨大船を」

 

「フッフッフ......いや、ほんと勘弁してくれ、洒落にならねえ」

 

ちょっとした笑いが漏れた。舌打ちしたドフラミンゴだったが、相変わらずベランダで外を眺めている。

 

突然内線用のデンデン虫がなり始め、待機している将校が受話器をとった。そして、そのまま口頭でおつるに耳打ちする。

 

「悪い子だね、ドフラミンゴ。お前の仕業だね?聖地マリージョアでイタズラするのはおよし。いいこだから、おやめ」

 

「フッフッフ、いい子だから......か。敵わねえなァ、あんたにゃ。おつるさん.....。だったらよ......人堕ちに警告されたんだ、催眠術対策もっとねりな」

 

「───────!?」

 

「招かざる客が来やがった。寄生糸潜り抜けやがって」

 

「やはり貴方でしたか。桁外れた見聞色と武装色は噂以上だ。この身にはなかなかに骨が折れました......この場でなければブチ殺してますよ、天夜叉」

 

「フッフッフ、そりゃどうも」

 

「お初にお目にかかります、天夜叉ドフラミンゴ。あなたのお師匠に負わされた傷が痛まない日はありませんよ」

 

そこにいたのは、痛々しい傷がスーツからも想像されるほど歪んで見える足をしたひとりの男だった。男の名はラフィット。今回賞金首になることは避けられた、元は西の海で保安官をしていたが、度を超えた暴力により国を追われて黒ひげ海賊団に加入した者。あるいはホーミングが初めて殺しそこねた男のひとり。

 

年齢の割に若々しく、シルクハットを被りステッキを手に持った色白な素肌のその姿は、良くてミステリアスであり、悪いと不気味ですらあった。

 

「私も傍観希望ということでよろしいですか?いや、傍観というのも少々違いますが......やはり王下七武海となると、そうそうたる顔ぶれですね。あわよくばこの集会に参加させていたきたく参上いたしました。この度のクロコダイル氏の称号剥奪を受けて、後継者を探しておいでではないかと。誰を推薦したいのか、もう皆様お分かりとは思いますが、自推は大事かと思いまして───────」

 

異様な緊張感が走ったのだった。


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