(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第76話

「都市そのものの慰霊碑......都市が滅んだあとに......子孫が建てたのね。海円歴402年......今から1100年以上前も前、都市は栄え、滅んだのは800年前。偉大なる航路前半のどこにも残っていない空白の歴史に当てはまる......この島はもしかして......地上で途絶えた歴史を知っているのかもしれない......」

 

ロビンは無我夢中で手帳に書き込んでいく。

 

「これがシャンドラの全図......都市部に行けばもっとわかるかしら......語られぬ歴史の手がかりが......」

 

どさっと音がしたから振り返ると、ベラミー達が新たな襲撃犯を戦闘不能にしたところだった。身包み剥がれた哀れな敗北者は下手に動くと首が閉まる形でそこら辺からとってきたツタで拘束されている。

 

「おい、考古学者。ここいらの石碑は撮っていいやつか?」

 

「ええ、大丈夫よ。あなた達の儲け話のひとつにしていいことしか書いてないわ。翻訳はこれよ。無くさないでね」

 

ベラミーがダイヤルで撮影し始める横で、サーキースがお礼をいいながらリュックに仕舞い込んでいく。

 

歴史の本文は研究しなければバスターコールされることはない。その存在自体を知ることは罪にはならない。深入りしなければ問題はない。白い町フレバンスが滅んだ今、おそらく指折りに裕福な北の海の国ノーティス出身のベラミーとサーキースは実に弁えた男達である。この世界でうまく生きていく術をよく知っている。

 

ロビンはロビンで遺跡に歴史的価値が理解できない神官達の襲撃を受けなくてすむのは、ノーストレスで解読に没頭できて本当にありがたかった。

 

「んーふふふふふーこんな枯れた都市を調べにくる奇妙な青海人はあなた達くらーいですよー」

 

「げ、またきやがったか、めんどくせえなッ!」

 

「この書記碑の価値がわからない奴がなんでビルカの神官やってんたんだろうな、ベラミー」

 

「しるかよ、そんなもん。どーせまともな奴らは移住したか、ビルカで皆殺しにされたんだろうよッ!」

 

「そうね、先人の足跡を全く尊ばない者ばかりが今はなき空島ビルカの神官をしていただなんて信じたくないわ。私が一番嫌いな守ることだけに固執して、伝承を放棄したアラバスタのような、愚か者そのものだもの」

 

ロビンは新たな刺客の真後ろに手を生やして、のけぞらせ、ノータイムで足でありったけの力を込めて蹴り飛ばす。空高く舞い上がった刺客目掛けてベラミーは飛んだ。

 

「てめーらにお似合いの戦場はここじゃねえんだよッ!こい、連れてってやるッ!」

 

ざっと周りを目視して、遺跡のなさそうで樹木がたくさん生い茂った場所を探して、ベラミーは刺客と一緒に飛んでいく。バネバネの能力に有利かつ遺跡を破壊されない最速の方法を試行錯誤していたら、こうなったのだ。

 

「ベラミー、後ろだ。構えろ」

 

ククリナイフの斬撃が一直線に周りの樹木ごと叩き切っていき、狙撃しようとしていた者達ごと両断した。

 

「てめえ、サーキース覚えてろよッ!殺す気かァっ!」

 

「死んでないから問題ないだろ。横からの攻撃に弱いお前が悪い」

 

「よくねーよ、死ねッ!」

 

武装色が間に合わなければ上半身と下半身がお別れしていたベラミーの叫びが聞こえてくる。遺跡には傷一つついていないのはさすがだった。

 

「あなたたち、本当に1億以下の賞金首なの?とてもそうは見えないけれど」

 

「居座り過ぎてベラミーが、ドレスローザの凶弾って勘違いされるレベルだからな......。七武海の傘下と間違われてるともっぱらの噂だ。これも既成事実をつくるための一環なんだけどな」

 

「かしこいわね」

 

「だからドフラミンゴに体良く追い出されてるんだ、これ以上誤解が広まると困るんだろう」

 

「天夜叉も厄介なファンがいて大変ね」

 

サーキースは笑うだけで何も返さなかった。自覚は少なからずあるらしい。

 

豪快な音が響いている方向に歩いていくロビンとサーキースの周りにまた複数の殺意が見え隠れするのがわかる。それはただの女にしか見えないロビンやククリナイフ一本のサーキースより、ど派手に暴れているベラミーの方が危険と判断したのか消えていく。

 

また空をビルカ式翼をつけた影がとんだ。

 

また新たな刺客が遺跡を破壊したのか、馬鹿にしたのか。はたまたノーランドや黄金都市を侮辱したのか。もしかしたら、ビルカの恩人ドフラミンゴを馬鹿にしたのかもしれない。

 

ベラミーにとって、尊敬するドフラミンゴから託されたノーランドの冤罪の証拠が、ここにはたくさんあるのだ。ありすぎてゴロゴロ転がっている神の島アッパーヤードというこの場所は、いつも以上にベラミーの地雷を踏み抜く神官が多いらしい。

 

「そういえば、今日は一度もゲリラの襲撃がないな」

 

ふと思い出したようにサーキースがいう。

 

「そうね、なにかあったのかしら」

 

「なにか起こってるんだろうな、ここ神の島アッパーヤードで。しかし困った。黄金都市はゲリラが詳しいとガン・フォールがいってたから、話が聞きたいんだが、これでは話が聞けない」

 

たまに弾丸が飛んでくるが、空飛ぶ斬撃が弾丸や本体をそのまま両断するため、遅れて爆風や轟音がとんでくる。射程範囲外からの攻撃にはロビンが容赦なく首の骨といった即死箇所をへし折るため効率は良かった。それだけロビンは言わないだけでかなり怒っているのだ。

 

無理もない話だとサーキースは思う。空島において例外なく、本来神官は今はなき文明を今に伝える遺跡を守るために存在すべき地位だ。ここで神官を自称する者達は、誰1人としてサーキースですら抱く敬意というやつを欠いている。サーキースですら殺意を覚えるのだ。横を歩いている考古学者の怒りはどれほどのものか。

 

「武器が古い型で助かる。6年前から空島スカイピアはバロンターミナルの取引をやる余裕もないと聞いていたが、ここまで酷いとは思わなかったな。武器の質が落ちるのは当然だ。あるよりましだな」

 

サーキースはベラミーが倒し損ねた敵の戦意を完全に喪失させるような箇所に弾丸をぶちこんでいく。

 

「せっかくハイエナさん達が壊さないように避けてくれてるのに、どうしてひどいことするのかしら。許せないわ」

 

神の社とやらに近づくに連れ、刺客の数は激増している。ベラミー達の配慮ある戦闘を台無しにする神官達の登場は、とうとうロビンの怒りをかってしまう。

 

サーキースすらドン引きな制裁をロビンは課していく。男として同情はするがそれだけだ。ロビンだけは怒らせてはならないとあとでベラミーに教えてやらないといけない。

 

「あなた達が壊して回った遺跡は、無価の大宝なの。歴史は繰り返すけど、人は過去には戻れない。だからこそ尊いのに、あなた達にはわからないのね。許せないわ」

 

命乞いをする者もいたがロビンは意にも介さなかった。

 

「何もかも手遅れよ......ほんと、ひどいことするわ」

 

 

 


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