(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第77話

違和感を覚えたのはさすがだとしかいいようがなかった。ロビンはいうのだ。黄金都市はノックアップストリームで島ごと吹き飛ばされた。普通に考えるなら神の社とやらが上にあるなら、それは遺跡の一番上だ。普通なら神の社への道とやらが黄金都市に続くはず。だが、ようやく見えてきたのはツタの絡みついた奇妙な階段だけ。まわりにそれっぽい遺跡や遺構は転がっていたが、なにもかもが中途半端なのだ。まるで上と下でひきちぎられたみたいに。

 

そういうわけで、試しにサーキースが武装色を纏ってピンポイントで近場の雲をくり抜いたのだ。ロビンの見立てどおり、引きちぎられた遺構は下に下に続いていた。真下にもまだ遺跡は続いていた。延々と雲に埋まっているのだ。

 

どうやら黄金都市はふっとんできた時に、なんらかの理由で勢いが途中で殺され、積帝雲に突き刺さるような形で止まったらしい。

 

あとはもう、ベラミー達が交代してもなお、最後の方は、誰もがぼやきすらこぼれないほど淡々とした作業が続いた。そして、何十回目かわからない着地のその先で、このとき見た光景をベラミーとサーキースは一生忘れないだろう。

 

800年前に滅びたシャンドラの都は、今もなお堂々としていて雄大で、当時の繁栄を誇示し続けていた。ベラミーは無言でダイアルに記憶していく。雲の中に埋まっていた黄金都市は、そのおかげで風化を免れたようで、ほぼ完全な形で保存された状況だったのである。

 

ロビン達は様々な遺構が完全に保管されている場所を見て回り、ベラミーはダイアルにおさめた。そして、ある一角に辿り着いたとき、ロビンがいうのだ。

 

「ハイエナさん達は絶対に入ってこないで。ここはだめよ。一歩でも入ったらバスターコールされるレベルの情報が無造作におかれているわ」

 

ロビンは遺跡の奥に単身進んでいった。

 

無造作に歴史の本文に使われている文字が刻まれた壁や床、天井が目に止まる。なんとか踏まずに歩けそうなところはないか探したが、諦めるくらいには頓着ない扱いをされていたのがうかがえた。

 

ロビンは確信する。間違いない。黄金都市シャンドラは、かつて歴史の本文を刻める者達と協力関係にあった場所なのだ。

 

「真意を心に口を閉ざせ。我らは歴史を紡ぐ者。大鐘楼の響きと共に......。いったいどういう......」

 

ベラミー達には伏せていたが、これだけ当時を残しているはずの遺跡で、歴史の本文をつくれる文明でありながら、紙という最強の記録がなにひとつ残っていないのだ。燃やされた痕跡はあった。いろんなところにあった。あまりに執拗なのでロビンはバスターコールされたあの日を思い出すくらいには恐怖を思い出してしまった。

 

黄金都市シャンドラは、歴史の本文を刻む者達を守るため。あるいは匿った歴史の本文を奪われまいとして戦い、滅びたのだ。こんなに栄華を誇った国なのに歴史を守るために消されたのだ。それ以上の敵意によって。そして、生き残ったのが───────。

 

黄金都市シャンドラの書記碑から写し取った文には、4つの祭壇の中心位置にあるとされていた大鐘楼がなかったことをロビンは思い出す。黄金の金に歴史の本文が刻まれていたのなら、あるいは近くにあったとしたらと予想していたのにはずした。

 

敵意によって持ち去られたのかとロビンはため息をついた。

 

「おい、考古学者。あそこにあるトロッコはなんだ。随分と新しいけど」

 

「えっ!?」

 

どなりつけるような、ベラミーの声だった。あわててロビンは入口を戻っていく。ベラミー達は暇を持て余して、まだいっていない場所を回っていたようで、だいぶ下の4つの祭壇近くまで降りていたようだ。指を指す腕がかろうじて見える。

 

たしかに明らかに後から設置されたと思われるトロッコの軌条があった。ベラミー達は歩いていくつもりのようだ。ロビンもいこうとした。

 

「ヤハハハハ」

 

「───────!?」

 

いつのまにか、背後に男が立っていた。

 

「見事なものだろう。空に打ち上げられてもなお、奇跡によりかつての繁栄を残す雄大な都市シャンドラ。伝説の都も雲に覆われてはその姿を誇示することすらままならぬ。だが風化を免れたのだから一長一短ではあるか。───────私が見つけてやったのだ。先代の馬鹿どもは気づきもしていなかった。先住民は奪還に固執して伝承を忘れた。お前の言う嫌いな存在とやらは大いに肯定しよう」

 

「───────あなたは?」

 

「神」

 

自称神はロビンを褒め称えた。こちらは遺跡の発見に数カ月を要したし、文字をあっさり読めたことを賞賛した。ロビンは戦慄するのだ。この男は歴史の本文が初めから読めるのだ。

 

今は亡き空島ビルカの元神官であるこの男は、歴史の本文が読めるのだ。

 

この瞬間に七武海ドフラミンゴが見聞色で神による滅亡を予知したという美談は、全く別の意味をもつことになる。バロンターミナルに移住する計画を人堕ちホーミングと共に空島ビルカの民に提案し、了承された。今は亡き空島ビルカは歴史の本文が読める民がいた場所なのだ。

 

歴史の本文を研究してオハラを滅ぼされたロビンは、本当に空島ビルカを滅ぼしたのはこの男なのか疑問に思った。世界政府に例外はない......いや、あることをたった今知った。人堕ちホーミングの儲け話にのり、バロンターミナルに移住した人々は生きている。故郷を滅ぼされるかわりに生きている。

 

そのかわり、バロンターミナルから外に出た人間は海賊として名を上げ始めた怪僧ウルージ率いる破戒僧海賊団くらいしか聞かない。

 

保護される代わりに出られないの間違いではないだろうか。

 

もし、ロビンの頭を駆け抜ける恐ろしい妄想を実現するような兵器があるとしたら、バスターコールよりすさまじい威力があるに違いない。古代兵器という言葉がこびりついて離れない。

 

「ヤハハハハ、頭が回るというのは大変だな」

 

にたあと自称神は笑っている。

 

「すべては運命か、偶然か。さすがはホーミング、おれが唯一よめなかった男だ。いつもお前は時を超えておれを邪魔してくる。いつもおれの夢を先んじて行う不届きものめ」

 

なぜ人堕ちホーミングがここで出てくるのか、ロビンにはわからない。ただ、自称神の興味がベラミー達に向いているのだけはわかる。

 

「ヤハハハハ」

 

ひとしきり笑ってから、自称神はロビンにいうのだ。

 

「私はひとつ賭けをしよう、青海の優秀な考古学者よ。そろそろゲームを終わらせようじゃないか。人堕ちホーミングと縁深い者達ばかりが集う青海人よ。今ここに招待してやるから、止めてみるがいい。私は空島スカイピアを青海に返してやりたいと考えている。とめたければ、私を倒してみよ」

 

自称神が雷撃を放つ。神の社からここまでの底が一気に抜ける。おのおのの目的は全く違うにもかかわらず、自称神の気まぐれによって、生き残りゲームは一気に加速し始めたのである。


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