(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
400年前、地下から突き上げる巨大な水流が、ジャヤの一部を持ち上げて空まで吹っ飛ばした。遥か下から飛んできた陸は空の世界にある巨大なツタの塔まで到達する。それは二組の太いツタが絡まりあって天に向かって伸びて、槍のようになったものだった。その上で勢いを落とし、突き刺さって静止。神の島アッパーヤードと呼ばれるようになった。
エネルは、今まさにその神の島アッパーヤードを落とそうと集中砲火を浴びせていた。ツルを根本から沈めようとしているのだ。ツルを支えている地盤をうしなったら、神の島アッパーヤードは墜落する。砕けてしまう。そうなったら最後、空飛ぶ船を起動したエネルに誰も届かなくなってしまう。
ツルの上をかけあがっていくウェイバーのナミとルフィが最後の希望だった。他に万策尽きたのだ。誰もが祈るように雷鳴轟き、次々に空島の都市を破壊していく空飛ぶ船を止めてくれることを願っていた。
「あっ、船が!」
「せっかくあそこまでいったのに!」
「離れるのが早すぎるぞ!卑怯者ッ!ちゃんと戦えー!!」
無情にも空飛ぶ船がツルからどんどん離れていくのがみえた。いくらルフィがゴム人間でも伸ばせる腕には限界がある。あのままでは届かなくなってしまいそうだった。
誰もが空を見上げている中、ひとりだけあちこち走り回っている男がいた。
「ハァ......ハァ......無駄だ、エネル......おまえには落とさせやしない......シャンドラの地に生きた誇り高い戦士達の歴史を......」
ぼろぼろになりながら立ち上がる男がいた。ワイパーだ。今にも倒壊しそうなほど揺れ、雷が降ってきて、あらゆる瓦礫が降り注ぐなか、ツルから動こうとしない。
「どこにあろうと力強く、生み出し育む、この雄大な地を落とさせやしない!お前がどれだけ森を焼こうと!どれだけ遺跡を破壊しようと!大地は負けない!!」
「ワイパー逃げて、死んじゃうよー!!」
アイサが叫ぶ。
そんななか、1人の青海人がワイパーに声をかけた。
「おい、そこのシャンディア!ワイパーっていったか?なんでもいい、今持ってる一番威力があるダイアルはなんだ!お前らや神官どもがダイアル持ってんのは調べがついてんだ!どいつもこいつも、こんな大事な時に限って使い切りやがってめんどくせえ!!」
いきなり言われたワイパーは反射的に仕込んでいるダイヤルを取られないよう隠す。エネルを討伐するために仕込んでいた相打ち上等の排撃貝だった。青海人達が神官を2人も落としたから使う機会に恵まれなかったものだ。
「あんだな、よこせ」
「ダメだ」
「ダメかどうかなんて聞いてねえんだよ、早くよこせ!」
「ダメに決まってるだろう!これは絶滅危惧種の排撃貝!使用者に衝撃貝とは比べ物にならない位の反動ダメージが返ってくる!まともな人間なら一回使うだけで死ぬ!ましてこれはエネルをうつために決死の覚悟で蓄えたエネルギーがある!超人クラスでも反動には耐えられない!青海人が使ったら死ぬぞ!だいたい何に使うつもりだ!排撃貝を使う対象が一撃必殺で倒せるレベルなら相討ちという選択肢も生まれるが、エネルはもはや空の上!一撃では倒せない相手や強敵が存在する場面では反動ダメージが邪魔で使い物にはならない!」
「勝手に決めんな、使い道があるからよこせっていってんだろうが!なんに使うって、決まってんだろ!麦わらを黄金の鐘まで吹っ飛ばすんだよ!」
「馬鹿をいうな!死んでも構わないというなら手軽に強力な一撃を一回だけ繰り出せるが、いくらあの男がゴムでも反動に耐えて衝撃で飛ぶのは無理だ!あまりにもリスクが高すぎる!」
「誰が麦わらにぶち当てろっていったァ!?あいつはこれからエネルをぶっ飛ばさなきゃなんねーんだ、そんなことできるか!おれに当てろって言ってんだよ!」
「はあっ!?青海人のお前になぜ当てなきゃならない!?気でも狂ったか!?」
「狂ってねえよ、だいたいダイアルが空島だけのもんってどんだけ遅れてんだ、てめーは!ダイアルは養殖されて普通に出回ってんだよ!絶滅危惧種の排撃貝って何年前の話だよ。天然物はそうだろうけど」
「お前がなにいってるんだ?排撃貝が普通に流通してるわけがないだろう!?」
「だーかーらーっ!!こちとら世界最強生物がトンタッタ族欲しがってしょっちゅう傘下の海賊どもが襲撃にくるドレスローザで凶弾やってんだぞ!?その程度武装色で耐えられるわッ!カイドウの雷鳴八卦クラスの排撃貝喰らうよりマシだッ!!いーからはやくよこせ!それかおれにぶちあてろ!おれはバネバネの能力者だ、跳躍には自信があるんだよ!!」
男の勢いに気押されたワイパーは、その隙に無理やり排撃貝を奪われてしまう。なんの躊躇もなく足蹴にし、スイッチをいれようとする男を止める暇もなかった。やけに使い方が慣れていたのが印象的だった。
エネルとの相打ち覚悟で仕込んでいた排撃貝が発動する。あまりの衝撃にあたりに衝撃波が走る。男のいうとおり、血溜まりに沈む暴発はなかった。武装色というのがよくわからないが、マントラの一種だろうか。男は、排撃貝の衝撃や反動をうまく利用して異常な速度ではるか上空にとんでいくのがみえた。
「鐘を鳴らせぇ麦わらァ!クリケットさんにノーランドの冤罪は晴れたってしらせてやれェッ!!黄金郷は実在したんだって知らせてやんだ!!このまま鐘んとこまで飛ばしてやるから掴まりやがれ!一回きりだ、ヘマすんじゃねーぞ!!」
「ベラミー!!」
ウェイバーから飛び降りたルフィを捕まえて、ベラミーはさらに跳躍する。そして、ぎりぎりまで跳躍してから、ルフィを一気におしあげた。ベラミーが一気に落下していく。
「行っけー!麦わら!神なんざ倒しちまえ!おまえならできる!!」
「まかせとけー!!」
ルフィがふたたび戦線に復帰する。
「晴れろおおおおっ!!」
ルフィの黄金が雷鳴轟く空に、大きな穴をあけた。そして、その勢いのまま腕がのびたルフィはエネルのところまで到達する。
「ゴムゴムのォ!」
黄金の球体が限界まで引き延ばされ、一気に回転をはじめる。
「黄金回転弾ッ!!」
それはエネルの船の一部を粉砕し、黄金の鐘までとどく。
「とどけー!!!」
ルフィの願いに応えるように、巨大な黄金の鐘がふれる。右から、真ん中、左にふれる。からあああん、という世界中に響き渡りそうな島の歌声が400年ぶりに鳴り響いたのだった。