(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第8話

ウェザリアからモコモ公国という遠回りな空の旅を終えて深層海流を経由して宇宙船が浮上したのは、北の海にあるウミット海運の島だ。

 

古くから造船や海運が盛んだった島ではあるのだが、北の海はそもそも戦争が絶えない国が多く、国に雇われた海賊達により10年に渡り戦争を続けている地域もあるくらい、大変治安が悪い海だ。そのためか四皇や王下七武海、海軍本部などの強大な勢力の重要人物を多数輩出している海でもある。

 

そのため来航する大海賊達を相手にするうちに自衛団から始まった島の民の一部はいつしかマフィアになった。表向きは世界政府や海軍の仕事も請け負うのだが、裏ではノースの闇の物流を担う一角となった。

 

新進気鋭の若き運輸会社の社長は私の予想通りマフィアの元締めに気に入られ、後継者に指名される。なにせ破竹の勢いで事業拡大をするうちにお抱えの造船所だけでは仕事が回らなくなってしまい、いつしかこの島の仕事は全てウミット海運から回されたものになっていたからだ。いよいよこの島は全ての会社がマフィアの傘下になったも同然だった。

 

ゆえにこの島に海軍の支部はなく、ウミット海運の旗をかかげるこの宇宙船がどれだけ規格外のイカれた船でも危機意識をもつ島民は皆無なのだ。この船こそが私がウミットに持ちかけた儲け話の大本命なのだから。

 

宇宙船はウミット海運お抱えの造船所に停泊する。港に降りた私達をたくさんの黒服の男達に護衛されたウミット社長が迎えてくれた。冒険が大好きで海賊にかぶれているこの男は相変わらず海賊でもないのに海賊らしい服装である。

 

「これが......これが月がらこの星にやってぎだづー伝説の宇宙船ビルカなのが!!私が夢にまで見だ憧れの船なのが!素晴らしい!素晴らしいぞ、ホーミング!おめに私の夢託していがった、儲げ話さ乗っていがった!!これなら古代兵器プルトンにだって劣らねぁーべ!」

 

感動のあまりいつもなら田舎者だと笑われないよう控えているはずの北の方言丸出しで大喜びしている。お礼を言いながらぶんぶん握手され、ドフィは頭を乱暴に撫でられて嫌がって逃げていく。私になんとかしろとばかりに隠れてしまった。

 

とうとう感涙の涙まで流し始めた社長に感化されたのか、それともこの男の苦節を知るからか、黒服達も涙ぐんでいるように見えた。

 

実はこの男、家業の弱小海運会社を継ぐのが嫌で単身ウォーターセブンに乗り込み船大工として大成しようと働いていたことがあるのだ。ウォーターセブンに古くからある造船所で働いていたころ、地元で育った仕事仲間にある噂を聞いた。

 

それは太古の時代、ウォーターセブンで古代兵器である戦艦プルトンが造られたが、当時製造に当たった船大工たちは、万一他の古代兵器が復活した場合の対抗手段としてプルトンの設計図を代々最高の船大工に伝承させることにしたというものだ。

 

それを聞いてロマンを感じた男は必死に技術を磨いたのだが、運悪く一度もその同僚に勝てないまま、その継承の競争にも負けてしまうという挫折を味わうことになる。

 

ウォーターセブンから帰ってきて北の海の弱小海運の跡継ぎとなったウミット社長は、今や海運王になるための大きな足がかりを今日手に入れたというわけだ。

 

「なあ、さっきから連呼してる古代兵器プルトンてなんだよ」

 

宇宙船内部や構造についてスペーシア少尉達に説明してもらって案内されているウミット社長が何度も連呼するものだから、ドフィがつられて疑問をなげる。

 

「聞ぎでえが?聞ぎでえが?普通だら機密事項だが私の夢叶えでけだホーミングの息子だがら特別さ教えでけっぺ、感謝しろよドフラミンゴ!」

 

唾を飛ばしながら挫折の日々を語りながら自己陶酔の域まで入り始めたウミット社長の話を要約すると以下の通りだ。

 

それは神の名を冠する古代兵器と呼ばれる3つのうちのひとつ。

 

島1つを消し飛ばすとも、世界を海に沈めるとも言われ、恐れられている兵器の総称で、「歴史の本文(ポーネグリフ)」にその在り処が記されているとされる。

 

あまりに強力すぎるため、世界政府は古代兵器が復活し、悪用される事を防ぐために一切の研究を禁じている一方、他派閥の手に渡る前の独占を考える過激派も出ている。

 

その正体は、大昔にウォーターセブンの技術者達が作りあげた最強最悪の戦艦。 現存する古代兵器が他の勢力に悪用された場合、それに対する抵抗勢力が必要だと考えた当時の技師たちが設計図を残し、以後代々ウォーターセブンの船大工達の間で密かに受け継がれている。

 

同僚が友情のよしみで一度だけ見せてくれた設計図をちらっと見ただけでもその恐ろしさを肌で感じるという凄まじいもので、人間が作れるとは信じ難かったらしい。

 

「私は若がったんだな。宇宙船手にした今どなっては笑い話だ。ウラヌスがら逃げだんだべ、この宇宙船は?なら設計図ど技術転用でぎれば私の会社は世界一の海運会社になれる!ありがとう、ホーミング!」

 

これが私の儲け話の全容だ。

 

「約束どおり設計図を渡そう。スペーシア少尉達をウミット海運の社員にしてくれていい。だだし」

 

ニヤリとウミットが笑った。

 

「言わねでもわがってる。この宇宙船世界政府の認可がおりるよう改造してけっぺ。ウミット海運の船なんだ、航海でぎにゃば意味無えがらな!」

 

「ありがとう、ウミット。これからもよろしく頼む。あと喜んでくれるところ悪いんだが、ひとつだけ問題があるんだ。ビルカの技術を転用する上で最大の障壁になるであろう電気を作り出す技術を再現するか、電気を扱う種族を大量に雇わないといけないだろう。その足がかりとしてはなんだがミンク族を雇ってみないか?見習いでも構わないから。まだ子供なんだ。どうしてもついていきたいと聞かなくてね」

 

さあおいでと私に手招きされて数人のミンク族の子供がやってくる。

 

「すまない、ウミット。一応モコモ公国の許可は得ている。ちゃんと降ろして親元に返したはずだったんだがね、お礼にポーネグリフを見せてもらっている間に密航していたようだ。気づいたのは北の海に浮上した後だったんだ」

 

つまり、ついさっきである。

 

「おめにしては珍しい失敗だな、ホーミング。託児所でもする気が?」

 

にやにやとウミット社長は笑った。

 

「父上、託児所なんかしねえよな?」

 

「託児所ではないが見習いとして、私の船に乗せることもあるだろうね。モコモ公国でいいことを聞いたじゃないか、光月一族とポーネグリフの関係について、だったかな。ワノ国と密約を結んでいるというんだ、有事の時力になると協力体制を敷いておけばのちのち役に立つこともあるだろうさ」

 

私の言葉にドフィはなにか考えがあるのか言葉を紡ぐ。

 

「なあ、父上」

 

「なんだい、ドフィ」

 

「世界政府が無視できなくなるくらいまで、なんでもいい。力を持てたら火炙りにあわなくて済むのかと思ってたけど、それだけじゃダメなんだな」

 

私は頭を撫でた。

 

「賢い子だ、そうだよドフィ。武力を得るだけではダメだ、ロックスのようになる。地位を得るだけではダメだ、天竜人のようになる。ならばどうすればいいか。答えはなかなか出ないものだ」

 

「だからマリージョア襲わないのか、こんだけすごい船手に入れたのに」

 

「まだその時じゃ無いと思うからね」

 

「その時」

 

「時代のうねりというやつだよ。それになにより大事なものがある。野望でも夢でもなんでもいい、なにか核になるものがなければ待ち受けるのは死だけだ。ドフィ、お前はこの世界でなにがしたいんだい?」


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