(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第81話

ルフィが轟かせた400年ぶりの島の音色は、反動が大きすぎて黄金の鐘の落下をもたらした。あらぬ方向に飛んでいく黄金の鐘。せっかくの黄金の鐘が青海に落ちてはまずいとルフィはなんとか捕まえたはいいが、今度は鐘が重すぎて落ちるスピードが加速した。ツタをつかめたはいいが、どんどん手は伸びていき、限界まで伸び切ったらようやく止まった。

 

そしたらまた空を舞った。何やってんだと総ツッコミされたが仕方ないのだ。覇気を修得してからまだ一カ月たっていない。武装色はまだ練度がひくいルフィである。さすがに痛いだろうなあ嫌だなあと呑気に考えていたら、物理的に速度を落としてくれる仲間がいた。

 

「大丈夫、船長さん......いえ、ルフィ?」

 

「にっしっし、大丈夫だ。ありがとうな、ロビン」

 

たくさんの手に掴まれる形で、ようやくルフィは帰還することができたのだった。

 

ルフィが黄金の鐘を持ってかえってきたことは、空島スカイピアの歴史の本文を諦めたロビンにも朗報だった。お礼にこれだけでも持って帰ってくれと宴会中のルフィを追いかけ回しているスカイピア人とシャンディアをぬけ、ロビンはベラミーの交渉に応じるべくトーンダイアルを片手に黄金の鐘のところに向かった。

 

すでにシャンディアの族長が待っていた。先に行われたはずのトーンダイアルの録音でトラブルでもあったのか、周りに誰もいない。厳重な警戒体制がひかれていた。

 

なぜかタンコブができている族長の息子をみて、ロビンはとう。

 

「彼がここにいてもいいの?」

 

「お前やベラミーほど頭は回らん男だが、もう22だ。そろそろかと思ってな。エネルは去った。ウミット海運とバロンターミナルで繋がりが復活する。ならばもう隠し立てする必要はない。そう判断しただけだ。これからの敵は青海からだけではないのだから」

 

意味深に空を見上げてから、族長はいうのだ。エネルの言葉を思い返したロビンは冷や汗が浮かぶ。族長は笑っている。

 

「......わかっていたなら、なぜゲリラをさせていたの?死んだら元も子もないわ」

 

「そこの馬鹿が好きにやっていただけだ。鐘を奪還しろとはいったが、玉砕しろとはいってない。シャンディアの族長として指示を出したことは一度もない。これこそが歴史の本文。我らの先祖が都を滅ぼされてもなお生き残り、守り抜くという勝利をささげた鐘。命をかけて守り抜いた石」

 

「黄金都市を見てきたわ。真意を心に口を閉ざせ。我らは歴史を紡ぐ者。大鐘楼の響きとともに。そう刻んであった。貴方達、代々歴史の本文を守る番人ね」

 

「さよう。歴史の本文を研究し、滅びたオハラの生き残りよ。よくぞたどり着いた、歓迎しよう」

 

「......空島から出たことがないあなたが何故知っているの?バロンターミナルで知った?」

 

「クローバー博士は昔やんちゃな男だった、それだけだ」

 

「!」

 

「さあ、読みなさい。お前の知りたいことがあるかはわからんがな」

 

ロビンは黄金の鐘に刻まれた歴史の本文を読んだ。冷や汗があふれてきてとまらなくなった。

ここに刻まれていたのは、古代兵器ポセイドンについてとそのありか。アラバスタとはまた別の古代兵器だった。

 

ここもまた真の歴史の本文ではなかった。それ自体はロビンを落胆させた。今までのロビンならば物騒なものがこの世に眠り続けていることに恐怖を感じ、世界政府が歴史の本文の研究を禁止する正当性を噛み締めただろう。

 

今のロビンは違うのだ。古代兵器の情報とそのありかの情報が海賊王に至るまでに必須であり、いかに歴史の本文が読める自分に価値があるか知っている。特にその価値を新世界でしのぎを削る四皇達が完全に把握していることを自覚している今のロビンは。わかってしまうのだ。

 

古代兵器ポセイドンは赤い土の大陸にある世界政府の本拠地聖地マリージョアの真下、海底10000mにある魚人島を治める魚人族と人魚族による王国リュウグウ王国にある。なぜそんなものが聖マリージョアの真下にあるのだ。

 

ナミからアーロンの昔話を伝え聞いていたロビンはわからないのだ。なぜそんなものをかかえているリュウグウ王国を治めている魚人や人魚を公然と差別できるのだ、聖地マリージョアは。それはもちろん、差別できるだけの根拠があるからだろうとも気づいてしまう。

 

それだけで世界のあらゆる矛盾や闇が凝縮されている。この世界の世界政府がいう平和や正義がいかに薄氷の上に成り立っているにすぎないのか。なんて場所なのだ、偉大なる航路後半の海新世界は。

 

リュウグウ王国が世界最強の男四皇しろひげの支配圏なのは知られている。ウミット海運とも強い繋がりがあることも知られている。そもそもホーミングがリュウグウ王国と繋がりをもつのはある意味当然の流れなのだ。リュウグウ王国オトヒメの活動に理解をしめしたのが、人堕ちホーミングの誕生のきっかけなのだから。

 

それだけで新世界が新世界たる理由が察せる。

 

エネルがホーミングを敵視していたことを思い出す。かつて歴史の本文を守る守り手だったはずの、今は亡き空島ビルカの神官だったはずの男が、本来味方であるはずの目の前の彼を裏切ったのはなぜなのか。人の心でも読めない限りわからないだろう。ロビンは考えるのをやめた。

 

「お前の望むものは記してあったか?」

 

「......なかったわ、なかったけれど......それ以上の情報が集約されていたわ。この情報がここにある理由も今の私ならわかる。私の夢に近づいたのもわかる。ありがとう」

 

「それはよかった」

 

「お主、これが読めるのか......」

 

ガン・フォールが黄金の鐘の近くを指差す。

 

「なら、教えてくれ。20年以上前になるがこの空にやってきた青海の海賊がここに文字を刻ませていた。なんて書いてあるのだ?」

 

「......我ここに至り、この文を最果てへと導く。海賊ゴール・D・ロジャー......海賊王!?まさかきていたの、この空島に!?なぜこの文字が扱えるの!?」

 

「む......いや、それは」

 

「ガン・フォール、その先をいった瞬間に私はお前の首を取るといったぞ。忘れたか」

 

「......ああ、すまん」

 

「......?」

 

「新世界にいって確かめるがいい、考古学者よ」

 

「そう.....それにしても、海賊王は随分と親切なのね。ヒントを残してくれるなんて。海賊王になるには、避けて通れない場所が多すぎるみたいね、ふふふ」

 

ロビンは笑う。

 

あのとき、クロコダイルが教えてくれなかったとしても、この刻まれた言葉は、いずれロビンに教えてくれたはずだ。

 

歴史の本文には2種類存在する。情報を持つ石とその場所を示す石がある。この石は後者だ。世界中に存在する歴史の本文のうち、いくつかを繋げて読むことで初めて、空白の歴史を埋める1つの文章になる。それが真の歴史の本文。海賊王はそれらをすべて見つけ出した上に、最果てに導いたから海賊王になったのだと。

 

ただ、今のロビンはさらに読み取ることができる情報がある。古代兵器ポセイドンをもつリュウグウ王国はすでに四皇しろひげの支配下にある。古代兵器プルトンがあるワノ国はカイドウの支配下だが、白ひげの支援でレジスタンスが活動している。それなのにまだ誰も海賊王になっていないということは、古代兵器だけでは海賊王になれないのだ。

 

やはり、歴史の本文が読める自分が執拗に世界政府から狙われるのは......。歴史の本文が読める今は亡き空島ビルカの民が人堕ちホーミングの実質保護下にあるかわりに、外に出られないのは。

 

「......とんでもない船に乗ってしまったみたいね、私。ふふふ」


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