(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
くるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるなくるな
ウミット海運直通のデンデン虫が真正面においてある。静かに目を閉じているデンデン虫の目が開かないよう祈り続けて、何時間経過したかスパンダムはわからない。
「スパンダム長官......そろそろお食事をとられては。これ以上絶食するとお体に差し障りが......」
「わるいんだが、ひじょーに申し訳ないんだがよぉ。............黙っててくれ、頼むからよぉ......気が散る。つーか、今なに食っても吐くからいらねェ......だから食べないことにしてんだ......お前新人だったな......覚えといてくれ......」
「......申し訳ありません」
申し訳なさそうに頭を下げる護衛に、スパンダムは首を振った。
スパンダインの親心はたしかに的確なもので、スパンダムに選択肢を増やしたのは事実だ。
しかし、ホーミングの暗殺を命じられて殺される運命が確定した同郷が、落とし前の慣例行事にあう光景を何百回もみることに繋がった。
拘束されている同郷の工作員の前で、驚くべき諜報力で調べ上げたと思われる任務内容を読み上げる人堕ちホーミング。スパンダインが淡々と頷くか、横を振るかの仕事をする。そして、ホーミングがヘッドショットする。それがいつも行われる落とし前の慣例行事の定型だった。
それだけなら、まだ一撃で屠られるからよかったのだ。一瞬で楽になる。スパンダムの知り得る中で、一番幸せな死に方だった。暗殺依頼なら一番楽に死ねるのだ。
ただ、ホーミングは落とし前をつけるためにその慣例行事を行なっているので、任務内容がウミット海運の儲け話となると工作員の末路はえぐさが増した。スパンダムもスパンダインも一日なにも食べられ無くなるくらいには、陰惨な最期を迎えた。
一番きつかったのは、人工悪魔の実の機密に関する任務だろうか。このころになると、スパンダインが呼び出された道中で教えてくれる、世界政府から受けた任務内容の段階で、工作員の末路がわかるまでになってしまった。
わかっているとはいえ、目の前で実行されるのは話が別だ。ホーミングが淡々とそんなにどうなるか知りたいなら見せてやるとばかりに、成分内容とか知りたくないことを全て話してから弾丸にこめるのだ。
そこまで話せるということは商品化の目処がたった証だ。半年もすればすさまじく高価ではあるが金を出せば購入できる闇のシンジケートの目玉商品になった。ホーミングが笑っていたのは、貴重な工作員を実験台にさし出してくれてありがとうという意味か。それとも詳細な情報をあげた数カ月以内に、海軍や世界政府のあるべき場所にその商品が配達される一連の流れを嘲笑う意味か。シンプルにご愛顧ありがとうございますの意味か。さすがにスパンダムにはわからない。
人工悪魔の実の失敗作から生成された弾丸を2発ぶち込まれ、骨のかけらも残らないくらい爆発四散した同郷の血肉をひっかぶる体験はなかなかないだろう。この時ばかりはさすがに数日食べる気が起こらなくて、最終的に親子揃って病院送りになった。
16年前に世界政府から人堕ちホーミングの暗殺命令が永久的に凍結されたのがどれだけ朗報だったか。それは、落とし前の慣例行事の頻度が激減することを指していた。ただ、暗殺命令がなくなるということは、頻度は減るが儲け話を邪魔する工作員への落とし前の慣例行事は続くということになる。悲惨な末路を迎える工作員をスパンダムとスパンダインは見送ってきた。
10年前に世界政府が完全に人堕ちホーミングの儲け話からも手を引くと決めて、ようやくスパンダムの地獄の日々は終わったのだ。
あとはもう、流れ弾というか、事故というか、不運にもホーミングの儲け話や身内にかかわる事案に触れなければセーフ。関わってしまえば年に一度か二度のアウトになった。人堕ちホーミングが死ぬか、世界政府がなくなるかしない限り、0には絶対ならない。
この身内というのが実に厄介だった。ホーミングと妻、ドフラミンゴとロシナンテ、エースは今や手を出すほど世界政府はバカじゃない。世界政府から先手をうち、直接手を出すと人堕ちホーミングは確実に出てくるのだ。
ただ、人堕ちホーミングや家族がなにもしていないのに、手を出されたから、という建前があるとうごく。建前がないとうごかない。
たとえば、ドフラミンゴファミリーがCP0を襲撃して天上金を襲撃し、奪った事件があった。このとき、おつるの部隊は動いたが、CP0も動いていたのだ。それは動かなかった。
たとえば、モルガンズで働く妻やロシナンテの事故死などの任務があれば、確実に動いた。
エースが兄弟盃を交わした麦わらの一味に入るのか、はいらないのか。それは非常に微妙な問題だった。なにせ前例がない。
だから、スパンダムとしては、ホーミングのデンデン虫がかかってくるか、こないかが唯一の情報源だった。人堕ちホーミングは、かならず事前に通告してくるのだ。そのたびに、スパンダムは処刑台に登る気持ちで出かけなければならなくなる。
だから、くるな、と唱え続けるのだ。
ちら、と時計を見た。スパンダムがこのデンデン虫を受け取るのと、全てのサイファーポール達の任務は一切関係ない。関わらせたこともない。だから、ルッチからのデンデン虫には意気揚々と出られる。ロビン捕獲と護送、そのほか諸々の任務は着実に進行している。
あとは人堕ちホーミングからの事前通告さえなければ完璧なのだ。
時間を確認する。人堕ちホーミングの事前通告は、工作員の捕縛を意味するため、失敗と同義だ。任務の円滑な進行はまだ人堕ちホーミングが動いていない指標にもなる。
カティ・フラムと電話してからどれくらいたったか、確認する。スパンダムにしかわからない、事前通告がこないと確信できる時間がようやくすぎたことをスパンダムは知った。
「───────たすかったぁ......兄弟盃は対象外か......。麦わらの一味がスカイピアみたいな儲け話に絡んでなければセーフなのか、人堕ちホーミング......」
今回の任務に事前通告があった場合、4名の優秀な工作員を一気に失うことになるのだ。その心配がなくなったことに安堵するあまり、一気に腹が減ってきたスパンダムは、食事をすることにした。
運ばれてくるまで時間がかかるだろうから、スパンダムはルッチ達に電話をかけた。
「喜べ、お前ら。朗報だ、人堕ちは動かない。わかってるだろうが、最大のチャンスが巡ってきた。四皇んとこに行く前で本当によかった。世界政府に許可えないと四皇には......おいこらルッチ聞こえてんぞやめろ」
向こう側で命令違反上等な発言が聞こえてくる。頭が痛くなるがさっきまでよりは数万倍マシだった。
「世界政府が20年も追い続けた女、ニコ・ロビンがこうも簡単に我々の手に落ちた。プルトンの設計図をもつトムの弟子、にっくきカティ・フラムも一緒に連行中。古代兵器復活の鍵を握る人間が海列車に乗って向かってる。世界を滅ぼせるほどの軍事力がおれのもと」
盛大な腹の虫が鳴った。