(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第85話

親友サウロの遺志を継ぎ、20年間ニコ・ロビンを散々庇い続けていた疑惑が根強い大将青雉から託されたバスター・コール。その重みがスパンダムの前に鎮座している。麦わら一味と交戦した時の報告書を険しい顔で読みながら、スパンダムは視線も外さず問いを投げた。

 

「いつまでいやがる、ジャブラ。出てっていいっていったろ。もうすぐルッチ達も帰ってくるんだ。エニエス・ロビーまで届けるのが仕事なんだ、先上がっていいぞ。打ち上げ先さえ急な変更がなきゃな」

 

「フクロウにはおれとクマドリでよく言っとくからな、長官」

 

「いつものことだろ、いちいち気にすんじゃねえよ」

 

「アンタはよくても、我々がよくねえんだよ」

 

不意にスパンダムのデンデン虫が緊急通信を受け取った。スパンダムは硬い顔をしたまま受話器をとる。

 

「こちら正門ッ!正門から長官及び本島前門へッ!!」

 

「どうした、こんな大事なときにッ!何事だァッ!?」

 

「侵入者が1名正門を越え、本島前門へ疾走中!!」

 

いつものスパンダムならば、侵入者1人くらい落ち着いて対処しろといいたいところだったのだが。麦わらの一味の詳細な個人情報が掲載されている書類を1時間前まで散々読み返すハメになっていたスパンダムは思わず聞いてしまうのだ。

 

「おいまさかッ、まさかとは思うがッ?!麦わら帽子かぶってるとか言わねえよなァ!?」

 

「えっ、あ、はいッ!私の目が正しければ麦わらのルフィかとッ」

 

スパンダムは深い深いため息をついた。いつもそうだが、この手の嫌な予感は、かなしいかな、一度も外れたことが無いのである。

 

「───────あァ、そうか。なら全隊員に告ぐ。気をつけて対応するだけ無駄だから、その場で待機しとけ。一歩も動くな。怪我人でるだけウチの損になる。むしろ邪魔だから今から船で避難しろ」

 

いきなりスパンダムに言われて、戸惑いの声が上がるが、怒気をはらんでもう一度叫べば伝わったようだ。どこの通信も静かになった。

 

「懸賞金1億ベリーの麦わらのルフィが、ニコ・ロビンを奪還にきやがった。あの砂の王を倒した男だ。白ひげ2番隊隊長火拳のエースの弟だ。あのホーミングの息子と兄弟盃を交わした男だ。まさかとは思うが、このエニエス・ロビーでそれがなにを意味すんのか、理解できねえやつはいねえよなァッ!!」

 

今回、ホーミングの落とし前の慣例行事は回避されたが、それを知るのはサイファーポール9のみ。普通のエニエス・ロビーに所属する者達なら、それだけでスパンダムの命令に必ず従う威力を誇る。

 

麦わらのルフィが危険なのは間違いないが、今回スパンダムがこの指示を飛ばしたのは、怒りのあまりしわがよったルフィの資料に理由がある。

 

モンキー・D・ルフィは、たしかに人堕ちホーミングの息子白ひげ2番隊隊長火拳のエースと兄弟盃を交わした男だ。それだけではない。この男は人堕ちホーミングが、世界で唯一信頼していると五老星に宣言した海軍の英雄ガープの孫なのだ。革命軍総司令官ドラゴンを父に持つとまで書いてある。人堕ちホーミングの一家もなかなかイカれた経歴揃いだが、ガープの家族もまた意味がわからない存在なのは間違いない。

 

東の海のはずれで拾ってきたガキふたりを、ちょっと鍛えただけで、一気に昇格させることができるようなガープの孫なのだ。異様なスピードで賞金が跳ね上がるのも納得しかない男なのだ。

 

スパンダムはこの時点で確信していた。ルッチからの報告をみるに、麦わらの一味の相手になるのはサイファーポール9しかいないだろう。

 

「重ね重ね、正門より報告を!」

 

「今のこの状況で必要なもんならいってみろ」

 

「前方の鉄柵を越えて、怪物馬車に乗った不審者侵入ッ!援軍もとむ!援軍をッ!援軍をっ!ぎゃああああ!!」

 

「だからいったじゃねえかッ!下手に迎え撃たねえではやく逃げやがれ。お前ら育て上げるのに何百万ベリーかかってると思ってる!!」

 

「しかし、長官ッ!」

 

大爆発のような音がして通信が切れてしまった。デンデン虫が気絶してしまったのだろう。受話器をおいたスパンダムは頭をかいた。

 

「......カティ・フラムの子分どもが麦わらの一味と組みやがったな......!?」

 

カティ・フラムのつくる船の威力と荒唐無稽さは、かつて師匠の船大工を死刑にするのに利用したからよく覚えている。あれなら正門につっこんできてもおかしくはないだろう。だから大爆発が起こったんだろう。冷や汗が浮かぶ。

 

「本島全門より長官!本島に入られました!」

 

「動いてねえだろうな?」

 

「あ、はい、ですが、オイモとカーシーは就寝中です!起こしますか?」

 

「馬鹿いえ、ウミット海運がエルバフにも支部あるのは有名な話じゃねえか。麦わらのルフィと下手に接触されて、面倒なことになったら困る。麦わらがもういねえなら、たたきおこしてにげやがれ」

 

「侵入者ごときにそこまでしなくてもいいだろ、長官......。我々もいるんだ。いやマジでなんでそこまで騒いでるんだよ、アンタ」

 

「んなの決まってんだろう!!相手が途方もない馬鹿だからだッ!!麦わらのルフィは、仲間のためなら、砂の王とバロックワークスを相手にたった8人で殴り込みかけるような男だぞッ!そんなやつに、あのニコ・ロビンが《あなたの夢は私がいないと叶わない》って言いやがったんだ!!いつの間に自分の価値に気づきやがったんだ、あの女ッ!!とんでもねーことになるぞ、おい!!!」

 


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