(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング) 作:アズマケイ
「失礼、敵船につき少々威嚇した」
「テメェのツラ見るとあの野郎から受けた傷が疼きやがる」
「療治の水を持参した。戦闘の意思はない。話し合いたいことがあるんだ」
「海軍の艦隊全滅させてから、覇気を剥き出しにして現れる男の言い草か、バカヤロウ、グララララ」
2人だけで話をしたいということで、シャンクスを取り囲んでいた幹部達は目に見える範囲から姿を消した。互いにサイズにあう器が用意され、酒が注がれる。暗黙の了解で能力も覇気も種族としての特性も、すべて厳禁なガチの話し合いが始まった。
「西の海の酒だな?あんまり上等じゃねえだろ」
「世界中の海を回ったが、肌身にしみた水から作った酒を超えるもんはない。おれの故郷の酒だ、飲んでくれ」
「あァ......わるくねぇな」
そこから2人はしばし昔話に興じた。大海賊時代からすでに22年、ロジャーが四皇だっだころの時代を知る人間は少なくなっていた。白ひげと赤髪の直接関係した時代はもう遥か遠い昔の話になりつつある。なかなか顔を合わせる機会もないため、積もるものも沢山あるのだ。
「どっかのジジイは歳取るほど若返ってるが」
「グララララ、たしかに退屈しねえ男だ。話してると自分の年を忘れちまいそうになる」
「ジジイっていったのは言葉の綾だ、言わないでくれ。黒ひげみたいになりたくない」
「グララララ、そりゃ確約出来ねぇ相談だ」
そのうち、話はシャンクスの失われた腕に話が向かった。
「新しい時代にかけてきた」
「グララララッ、悔いがないなら結構だ。だが、そりゃあただの殺し文句じゃねぇかって噂を聞いたぞ?それが本当ならそりゃあ格好つかねえな。あちこちのガキに粉かけて新世代育てようと画策してるお前がいえた口か?鷹の目との勝負がつかねえのに、ガープんとこの孫を海賊にしたそうじゃねえか。腕まで失って準備がいいこった」
「そんなんじゃないさ」
「エルバフのガキにも粉かけてんじゃねえか」
「喜ぶやつがいるだけさ。しかし、ほんとに情報はやいな、ウミット海運と連合組んでるだけはある」
「別に人堕ちと組んでるわけじゃねーがな、結果的にそうおちついただけだ、グララララ。あいつの儲け話はいつも笑いたくなるもんばっかりだからな」
「調子良さそうなのは天夜叉のところの薬のおかげか?」
「まあな、どうやら相性がいいらしい。どっからかぎつけやがったのか、あてつけみてーに金髪でヒョウ柄が似合うナースばっかよこしやがること以外は満点だ。天夜叉んとこのナースじゃねえならおれの船にはのせねーんだがな。
......あのころ人堕ちはまだ人間じゃねえはずだが。王直みてーなことしやがって。あの野郎バラしたのか、口の軽いやつめ」
しばらく、雑談で話がそれた。
「で。おれになにしろってんだ?───────それが本題だろう?」
「黒ひげから手を引け。たったそれだけの頼みだ」
「あの男の最大の罪は、海賊船でもっともやっちゃならねェ、仲間殺しをした。鉄の掟を破りやがった。おれの船に乗せたからにゃあどんな馬鹿でもおれの息子よ。じゃなきゃ、殺された息子の魂はどこにいくんだ」
「アンタは一度、特例で見送ったじゃないか」
「......フフッ......グララララッ!なにをいうかと思えばそんなことか。エースの件か?男が守りてェもんのために戦うってんだ、邪魔なんて無粋なことするやつはおれの船にはいねえんだよ。仁義をかいちゃあ、この人の世は渡っていけねえんだ。渡っちゃいけねえんだとティーチの馬鹿に教えてやるのがおれの責任だった。だが、おれは人堕ちにでけえ貸しができちまった。しかも、殺しきれなかったという汚名まで着せちまった。おかげでティーチはそれだけで1億だ。その息子が仇討ちじゃねえ、違う理由で挑むってんなら、おれは止める理由がねえな」
「人堕ちか......だがエースはロジャー船長の忘れ形見だろう。あの男は黒ひげ以上に危険な男だ。ロックスの亡霊だとおれの勘が告げてる」
「たしかにロックスみてえなこと言う奴ではあるな。サイファーポールも海軍もおれ達相手にするにゃ世界政府の許可がいる。そのくせ海軍は楽園で高みの見物ってのが気に食わねえ。本気で平和を目指してんなら、おれ達に睨みを聞かせる新世界に本部をおくべきじゃねーのか?ビクビクしながら支部おくなんて名折れも甚だしいじゃねえかって言ってたな」
「もし、エースがなにもしなくても、そのためにエースを焚き付けただろう、あの男は。人堕ちはそういう男だ。誰も彼もに停滞も堕落も安全地帯も許しはしない。白ひげ、エースは白ひげ2番隊隊長だ。おでんさんの後釜だ。その肩書きの名声と信頼が話を拗らせる。今はまだ、エースと黒ひげを、こんな形でぶつけるべきじゃない。危険すぎる」
「だからどうした。奴は建前がねえと動かねえじゃねえか。自らに課した血の掟に背かねえ限り、おれは手を切るつもりはねえ。自らの闇を抑えきれなくなった時は介錯してやるつもりではいるがな。だいたい海賊同士の決闘に横槍入れようってんだ、死んでも文句は言うんじゃねえぞクソガキ」
「誰も止められなくなるぞ、暴走するこの時代を。ましてあの男は自ら時代のうねりになろうとしている」
「誰に口利いてんだ、おれァ白ひげだぞ。恐るにたらん。怖いのか、赤髪。新時代が」
「悪いがおれはカイドウを止めるぞ、白ひげ。まだアンタ達の領域に楽園は早すぎるからな」
事前通告でシャンクスは人堕ちホーミングから白ひげの意見を聞くまで保留するし、今回の戦争がもたらすであろう儲け話以上のものがないなら交渉に値しない。だからテーブルにつくつもりはないと返事を受けている。
覇気がぶつかる。天が割れた。ふたりの交渉が完全に決裂した証だった。