(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第91話

バロンターミナルがウラヌスに消されたくなかったら、サイファーポールのスパンダムとの取引については金輪際手を引け。私がウミット海運に雇われてから30年以上たって、今更五老星からそんな事を言われるとは思わなかった。

 

それだけ古代兵器プルトンの設計図の入手は悲願だったし、最大の功労者にして肝心のロビンを失った戦犯は大事なようだ。うまくいけば、サイファーポール全体に、取り返しがつかない精神的な致命傷を負わせることができたのだが、さすがに人の心はむずかしい。

 

それでも落とし前をつけられないことに対する補償は確約出来たので、ゆっくり考えたいと思う。

 

麦わら一味によるエニエス・ロビー陥落の大ニュースが世間を騒がせるには、さすがに昨日の今日では無理があるようだ。世界経済新聞すらないんだから、まだかかるのだろう。ならばなおのこと都合がよかった。今私はウォーターセブンにいるからだ。

 

偉大なる航路の海域は突発性のサイクロンや嵐などの予測不能な天候が起こる。その中でも定期的な周期で起こる、想像を絶する潮の満ち干きが起こる地域がある。それも広範囲の地域で多発的に起こる。その中でも、儲かる災害と儲からない災害がある。

 

私が知る中ではロングリングロングランドがまずひとつ。残念ながら儲からない災害だ。元は1つの丸い輪っか型の島となっている。だが、島の陸地が海底に沈んでしまっているため、10個の島が点在している様に見える不思議な島だ。

 

ロングリングロングランドでは1年に1度大きな引き潮によって海底に沈んでいる島と島を繋ぐ陸地が出現する。その陸地を渡って移住しているのが遊牧民だ。

 

そして、次にアクア・ラグナ。ウォーターセブンでは凄まじい引き潮の後にとんでもない規模の津波を引きおこす。こちらは儲かる災害にあたる。

 

世界一の造船都市と名高いウォーターセブンにて、誰もが街を破壊するほど狂暴な高潮を目の当たりにするアクア・ラグナ。毎年襲ってくることが決まっている自然現象で、そのためにウォーターセブンの水位が年々下がっているほど大規模なもの。この現象が起きる前兆としては、カロックという南方からの強烈な風が吹き抜けるのが特徴だ。

 

ウォーターセブンが「カロック」を感知。アクラ・ラグナ警報が発令され、住民たちは高台へと避難する。そして街に襲い掛かったアクア・ラグナは軽々と建物の高さを超え、市街地を飲み込み半壊させるという甚大な被害を生み出すのだった。

 

この津波は島が沈んでしまうのではないかと思える程の災害で、船が呑まれるとひとたまりもない威力で押し寄せてくる。

 

この2つとも、「月」の影響で、大規模の潮の満ち干きが起きている。

 

月というと、どうしても私は古代都市ビルカと言う遺跡が存在し、そこにあるはずの想像を超える技術力の残骸に思いを馳せてしまう。エネルはもう月についたころだろうから、スペーシー中尉と敵対しているか、友好にしているのかわからない。できるなら私が知り得ないビルカの技術があるかもしれないから、スペーシー中尉は破壊しないでやって欲しいとは思う。あの男の顛末を見るに、遺跡には最大の敬意を払うようだから、破壊の心配はしていないのだが。

 

懸念材料があるとすれば、アクア・ラグナは月により引き起こされる海底が見える程の引き潮だ。ウォーター・セブンに多大なる被害をもたらしている以上、エネルが「月の古代都市」を復活させるくらい暴れて、なんらかの技術を発動させないこと。さらにその影響がひどくならない事を願うしかない。

 

「お待たせしたな、ホーミングさん」

 

私はガレーラカンパニー本社兼アイスバーグ事実上跡に建てられた仮設本社にいた。

 

「おはようございます、ガレーラカンパニーアイスバーグ社長。ご注文の品をお届けにあがりました。1日もかかってしまい、申し訳ありません。さすがにこれだけ被害が甚大になると、こちらもご注文の品をすべて揃えて、輸送するとなるとお時間をとらせてしまいましたね。誠に申し訳ありません」

 

私が一礼すると、アイスバーグはとんでもないとばかりに返してきた。

 

「世界中探したって、そんなことで謝罪するのはアンタんとこだけだ」

 

「ありがとうございます。しかし、ウミットが本当に驚いていましたよ。いつもなら経済循環も考えて、海列車での資材の搬入などの観点から、うちをつかうことはまずないはずのアナタから、ご注文いただいたこと」

 

「納得してくれたか?」

 

「はい、よくわかりました。ここまで酷いのは初めてですね」

 

「ああ、いつものだと時間も資材も足りなくてな。明日には着工予定だから、ガレーラのパーティの時の約束を今果たしてもらおうと思ったわけだ」

 

「ウミットも喜ぶと思いますよ。ようやく力になれると」

 

「ウチはウチの大事な繋がりがあるからな、気軽にウミット海運使うわけにもいかない。ここぞという時のためにとっといただけだ、即伝えてくれ」

 

「喜ぶと思いますよ。ところで......そちらでものすごい轟音立てているのは、アナタのところの船大工ですか?」

 

「いや、気にしないでくれ。自分で自分の身体を再構築中なだけの家族なんだ」

 

「!!」

 

「ご家族の方でしたか、失礼いたしました。私はウミット海運副社長のホーミングです。よろしくお願いします。なにやら大怪我をされたようだ、ご愁傷様です」

 

私が自己紹介をすると、なにかに気づいたのか、自己紹介もそこそこに、フランキーを名乗る改造人間の男が声をかけてきた。

 

「アンタ、まさか人堕ちホーミングか?」

 

「裏社会ではそう呼ぶ者もいますね。そちらの件でなにかご依頼でも?それともなにか聞きたいことでも?」

 

「聞きてえことがある」

 

「それはアイスバーグ社長がいても大丈夫な案件ですか?」

 

「ああ、気を遣ってもらわなくても大丈夫だ。どっちも当事者なんでな」

 

「わかりました、どのようなことでしょうか」

 

「古代兵器ポセイドンがリュウグウ王国にあって、四皇白ひげがそれを押さえてるってのはほんとうか?アンタでもいいんだけど」

 

「ああ、ニコ・ロビンから聞きましたか?公的に知られた歴史の本文が読める人間は彼女だけですからね。エニエス・ロビーにでも行かれましたか?」

 

「ああ、そんときスパンダムに言われたんだよ。巨悪がすでに古代兵器を押さえてるって」

 

「巨悪か......実に的を射ている。その問いについては、実際にリュウグウ王国にお越しくださいとしかいいようがありませんね。国家機密なので」

 

「あー......まあ、そうなるよな。リュウグウ王国に泥を塗るようなこと、アンタが答えてくれるわけねえか。すまん、聞かなかったことにしてくれ。まあ、もし本当だとしても、アンタと白ひげは違うだろ。カイドウとは違うってことくらいはわかるぜ。トムさんがいってたからな」

 

「伝説の船大工の魚人からいっていただけるとは光栄でしたね。できれば直に聞きたかったが、10年前はリュウグウ王国はそれどころではありませんでした。惜しい男をなくしたものだ」

 

「ホーディってやつがなんかしたのは知ってる。アンタも大変だな」

 

「いつものことですからね、お気遣いなく。あの頃のリュウグウ王国は、様々なことの転換期でしたのでね」

 

雑談をしているうちに、アイスバーグから支払いが行われた。私は碇マークの鞄に入れた。

 

「ウチにもエニエス・ロビーから、色々と依頼が入っていましてね。そちらで耳にしたのですが、麦わらの一味がこちらにいるのは、ほんとうですか?大将青キジから止められているせいで、場所はわかっているのにいけないと、海兵の皆さんが騒いでおられましたが」

 

「青キジが?まじかよ、バスターコールをスパンダムに渡しやがったくせに」

 

「オフレコでお願いしたいのですが、この件は我々の完敗だそうですよ。あの男はいつも引き際を間違えないですからね、安心してもいいと思いますよ」

 

「そうか、そりゃいいこと聞いた。あいつらも安心すると思うぜ」

 

「......フランキー、ホーミングさんだからいいが、闇雲に話すなよ。お前がここにいることも、麦わらの一味がいることも秘密なんだからな」

 

「いいじゃねえか。なあ、ホーミングさん。さっきの話、麦わらの一味に伝えてくれねえか。ご覧の通り、おれはまだ動けないんでな」

 

「フランキー」

 

「いいだろ、あいつらも一回くらい会った方がいい」

 

「ンマー......それは一理あるか。海賊なら魚人島は避けては通れないからな」

 

「私のことならお気遣いなく。もともと麦わらのルフィに用があってきたのです」

 

「え、アンタが?」

 

「はい、彼は私の......火拳のエース......いや、息子からは兄弟盃を交わした男だとよく聞いているのでね。一度会ってみたいと思っていたのですよ」

 

「あー......そりゃタイミング悪かったな。あいつ、寝ながら暮らしてんだ、今」

 

「おや、そうなのですか。エースみたいなことをする少年だ」

 

「え、モノ食いながら寝るのか、エース」

 

「なんなら、いきなり気絶しますよ」

 

「あははっ、マジか!マジの兄弟みたいだな、そっくりじゃねえか!」

 

「私はこの通り多忙な身でしてね。恥ずかしながら信頼おける知人に託したんですが、彼には同年代の孫がいた。それが麦わらのルフィなんですよ」

 

「へー、そうなのか。世間てのは狭いんだな」

 

私がフランキーと雑談に興じていると、アイスバーグが案内してくれるといいだしたので、応じることにした。


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