(更新停止)ロストマンのセイリング・デイ(王直→ホーミング)   作:アズマケイ

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第95話

碇マークの旗がたなびいている。ウミット海運の船で埋め尽くされている港に、一隻だけ積荷が別のところに次々と運び込まれている。行き交う喧騒に飲まれ、それに気づく人間はあまりいない。

 

ウォーターセブン全体の復興を1ヶ月で仕事の合間に終わらせるべく、誰も彼もが急いでいた。急ピッチで作業を進める部下達に仕事を振りなおして、持ち場を離れた者達がいた。

 

その積荷を運んでいるウミット海運の社員達は、予定通りの時間にウォーターセブン廃線島にやってきた。宝樹アダムや注文された様々な部品を運び込んだ。

 

資材の真ん中でホーミングはフランキーと商品の品数や質を確認して回り、特に問題がないことを確認した。

 

「いやー、さすがはウミット海運。はえーな!」

 

「ありがとうございます。クラバウターマンが現れるような船の後継だと話したら、ウミットがやる気になりましてね。その魂を引き継ぐ船の材木なら、最優先だと。間に合ってよかった」

 

「あー、そういや、ウミット社長は昔ウォーターセブンで船大工してたんだっけか。トムさんがいってたな」

 

「彼の師匠にウミットは負けたんですよ」

 

「へー、そりゃ初耳だ」

 

船大工から成り上がったウミットにとって、クラバウターマンはそれだけでやる気がでる存在なのだ。

 

ゴーイングメリー号に宿り、木槌を用いた修繕作業のほか妖精の姿にならなくとも船自らの意志で出航したり、テレパシーを使って船員と会話するなど特異な能力が発現していた。一際強い信頼関係によるものだと思われる。

 

そんなゴーイングメリー号の逸話について、麦わら一味から詳しく聞いていてほんとうに良かった。

 

クラバウターマンは、船乗りに語り継がれている、船員達から大切にされてきた船には妖精が宿るという伝説である。特に造船業関連の職人の間で有名な伝説のようだ。

 

外見は子供のような姿をしており、手には木槌を持ち、レインコートを着用している。 航海中に船が危機に陥ったとき、人の姿をした化身となって現れて船内を駆けずり回って船乗りを救ってくれるという。

 

うちの宇宙船にはいるんだろうかとホーミングは思う。長年乗り続けている自信はあるんだが。

 

「よし、これで作れるぜ、あいつらの船が!」

 

「アニキー、アイスバーグだわいな」

 

「ウミット海運のストーカーだわいなー」

 

「なにがストーカーだ、気になったからついてきただけだ」

 

「それを世間ではストーカーっつーんだよ」

 

「やってるな、フランキー」

 

「おめーなにしに来やがったんだ?ん?」

 

「ンマー......おれが手伝っちゃダメなのか?」

 

「..................!?......けっ、テメェおれの設計図について来れんのか?」

 

「お前こそ、解体屋やってウデが鈍ってんじゃねえか?図面みせてみろ」

 

軽口の応酬をしていると、彼らが昔働いていた伝説の会社の肩書きで呼ぶ男達がいた。

 

「おや、またピンチヒッターのようですね、フランキー」

 

ガルーラカンパニーのパーティ以来の対面だったが、男達はホーミングを覚えているようだった。どうやら部下の社員達全員が、ゴーイングメリー号の逸話を聞いて、絶対に造船に携わるべきだと上司を無理やり送り出したらしい。ぽかんとしていたフランキーだったが、最終的に笑っていた。

 

「私はそろそろ失礼しますね」

 

「あれ、まだログたまらねえぞ、ホーミングさん」

 

「いえ、そうではなく、港に用がありまして」

 

「あー、あんだけ船あったらなんかあるか。引き留めてわりいな。またあとで」

 

フランキー達に見送られ、ホーミングは足早に港に向かった。碇マークの船達がならぶ港に、海軍所属の軍艦が入港するのが見えたからだ。ホーミングがくる頃には、どんどん、近づいてくる海軍の船は、それだけで港全体が騒がしくなる。サイファーポール9からアイスバーグ暗殺を阻止してくれた麦わら一味をウォーターセブン全体で庇っているのだ。

 

骨をくわえた犬の頭が船の先端である。HQ3と掲げられている旗により、海軍本部所属の上から3番目の地位。つまり中将クラスの将校の船であるとわかるのだ。しかもこの犬の頭といえば、海軍の英雄ガープ中将の船だとすぐわかるようになっている。

 

市民達は、エニエス・ロビーからフランキーとニコ・ロビンを奪還した麦わら一味を心配するのだ。無事帰ってきたアイスバーグの恩人を一網打尽にするため海軍が本気で送り込んできたのだと勘違いするから。早く知らせようと走っていくゾロの姿もあったのだが、真逆の方向なのはいうまでもない。

 

ざわつく港に海兵達が降りてくる。その両脇を固めた若い海兵達を引き連れて、ガープ中将はその地を踏んだ。

 

「久しぶりに会えると聞いて飛んできてみれば......。あなたが被り物をするなんて珍しいですね、ガープ中将」

 

「おお、ホーミングじゃないか!久しぶりじゃのう!アクア・ラグナの被害からまだ2日目なのに、北の海のウミット海運がウォーターセブンの復興事業に早速参入か?あいかわらず行動がはやいのう。あーこれか?これは単なる気分じゃ」

 

「あはは、あなたらしい返答だ。お元気そうでなによりです。なに、ウミットとウォーターセブンの旧縁に便乗しただけですよ。あとはエニエス・ロビーから依頼があれば大体は察します」

 

「なるほどなあ......派手にふっとばされたらしいのう」

 

「破壊したのは海軍でしょうに」

 

「あれはそういうシステムじゃ、主犯みたいにいうな」

 

「あなたこそどうされたんですか?3億なんて弱小海賊のためにわざわざ仕事しにこられるなんて。サボるにしてももう少し怪しまれない海賊選ぶでしょうに」

 

「がっはっは、なあに、麦わらの一味にあわせたい男達がおるんじゃ」

 

「へえ......よかったですね、ガープ中将。うちのドジっ子以来、ようやくまともな後継者ができましたか」

 

「そうなんじゃ!!ロシナンテはあれで上手いこと海軍の正義の矛盾に耐えられるまで、昇進できなかったのが塞翁が馬なとこあるがな。今ならなんとか飲み干せるようじゃ」

 

「それはよかった。今更海賊になられても、私はなにもしてやれない。まあ、そうなれば、昔の縁だからとドフラミンゴが拾うでしょうがね」

 

「なんじゃ、永久欠番の幹部は死んだ先代への敬意じゃなく、ただの避難所か?」

 

「さすがにそこまではわかりません。元海兵に師匠たる私の実子だからと大幹部の肩書きを与えるかどうかは」

 

「避難しなきゃならん事態になったら、目が届く地位を与えんと守れんじゃろ。なんじゃ、どこまでも家族が好きな男じゃなあ。血が繋がっとらんとはいえ、さすがは師弟。お前さんそっくりだ」

 

「......」

 

市民の面前であるため、表向きの関係が前提ではあるが、ガープ中将がいいたいことはかわらない。ニヤニヤしている。ホーミングは昨日ガープ中将の身内からガープ中将みたいだと言われたダメージがまだ癒えていなかった。

 

ホーミングとガープ中将が雑談をし始めたために、周りを遠巻きにみていた市民たちはだんだん落ち着きはじめるのだ。ガープ中将が麦わらのようにあわせたい男達がいる。その男達はおそらく後ろで待機中の、海軍の英雄の後継者と発言されて、なにやらクネクネしている若い海兵と固まっている海兵だ。

 

「紹介したいのは山々なんじゃが、先に麦わらの一味にあわせてやりたい。お前さん、仲介してくれんか?」

 

「30年目にしてようやく学んでくれましたか、ガープ中将。アクア・ラグナからの復興支援。私のこの儲け話を邪魔するような真似したら、今度こそ私はあなたの船を沈めなきゃならないですからね。今のウォーターセブンで騒ぎを起こしたら、市民から総攻撃されるのはあなた方だ」

 

「わっはっは、わかっとるわい。青キジとセンゴクからは耳が痛くなるほどいわれたからな!おつるちゃんが売店の煎餅人質にとりおった......さすがのわしもあれを取り上げられたら困る!」

 

「周りの苦労お察ししますよ、まったく」

 

ホーミングはガープ達を案内しはじめた。

 

平然としてはいても、今のホーミングの体中の血潮がざわざわと波立つような激情にさいなまれている。頭の芯のようなところが、カチンと醒めている。

 

まさかこんなところで将来の海軍の英雄と邂逅するとは思わなかった。ガープ中将と親交を結んできたきっかけがようやく現れた。それは時の流れの早さをホーミングに自覚させるには充分だっただろう。


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