私の使い魔は最後の人類   作:[ysk]a

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幕間

 校長室での一件も終わり、ようやく騒動の渦中から開放されたと言っていいルイズとステラは、その後授業に遅れて参加してはトラブルに見舞われるなど慌ただしい一日を過ごした。

 特に、ミス・シュヴルーズの授業――土系統の錬金についてが中心――では、彼女がルイズという問題児を初めて受け持ったこともあって、洗礼というか恒例というか、教室を爆発で揺るがすという珍事が起きたが、まぁいつも通りといえばいつも通りだったといえる。

 座学はトップでも実技は底辺。

 使い魔を召喚した後でも変わらないその事実に、結構な衝撃でもって心の根を凹ませていたルイズだったが、ステラの空気を読まないピントのズレた慰めや、宿敵ツェルプストーとの口論を経て、夕食の頃にはいつもの調子を取り戻していた。

 なお、その夕食についてはオスマンの言葉通り、ステラの食事を厨房の一角に用意してもらい、そのとんでもない健啖ぶりに厨房の職員一堂を驚愕せしめたり、昼間の騒ぎもあってか厨房の親方とも言えるトリステイン魔法学院が抱える料理人達の総大将たるマルトーに心の底から気に入られたり、給仕として料理の世話をしていたとあるメイドと仲良くなったりと、実に様々なことがあった。

 そして、日々は流れ、双月が昇る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 使い魔召喚の儀式より数日経ったとある夜のこと。

 その夜は、雲の多い夜だった。

 まばゆく輝く双月は、その分厚い灰色の幕に覆われ、薄暗い闇を照らすのは心許ない蝋燭の光である。

 そんな闇夜に滲む様に屹立する石造りのトリステイン魔法学院の本塔には、重要な施設が集中している。

 学生達が多く集うことになる食堂や大講堂は言うまでもなく、パーティ等の催し物に充てがわれるホール、他にも職員が作業をする"職員室"や"学院長室"といったものがその代表だろう。

 ただ、そんな本塔にあって異質な存在感を放つのが、本塔最上階学院長室の真下の階層に存在する"宝物庫"だった。

 文字通り、このトリステイン魔法学院において貴重、重要、高価と三拍子揃――わないものもあるが、まぁそういったアレやコレやを"適当に"放り込んである倉庫である。

 とは言え、中身の実体がどうであれ"宝物庫"という名を冠している以上、そのセキュリティには万全を期さなければならない。

 そう、彼女からしてみれば、この上なく厄介なくらいに。

 

 

 

「ほんと、お貴族様にしちゃ、万全すぎて腹立たしい事この上ないわね」

 

 

 

 重厚な扉と、いかにもなイカツイ錠前をぶら下げる宝物庫の扉を前にして、一人の女声が舌打ちを交えてつぶやいていた。

 腰まで流れる艶やかな緑髪に、怪しく輝く眼鏡の縁。

 佇むだけで絵画のように映え、漏らす溜息は妖しさを秘めた蠱惑を色を持つ。

 この学院において、このような色香を放つ大人の女性は一人しかいない。学院長秘書のミス・ロングビルだ。

 そんな普段の淑女の姿からは想像もつかない粗野な雰囲気を纏う彼女の片手には、この"下見"に備えた擬装用の書類が抱えられ、もう片手には、腕の裾に隠し持っていた杖が握られている。

 

 

 

「ま、"アンロック"程度でどうにかなれば苦労はしないんだけどさ」

 

 

 

 その言葉通り、彼女は既に目の前の錠前に対してアンロックの魔法を行使した後だった。

 目的は無論、宝物庫の中身である。

 罠を警戒し、最新の注意を払って――まぁ、できたらラッキー程度の気持ちではあったが――相当な魔力を込めて、何より盗賊御用達とも言われる錠前解除の魔法を行使してみたのだが。

 さすがは、トリステインが誇る魔法学院の宝物庫。そのセキュリティは伊達ではなかった。

 幾人ものスクウェアメイジによってあらゆる防犯対策が取られたこの宝物庫の堅牢さは、"一介のトライアングルメイジ"でしか無い彼女一人の力でどうにかするには、厚く硬すぎた。

 故に、先ほどの独白につながる。

 この学院に来てから既に二ヶ月。

 "いつも"決めている残留期間まで後一ヶ月といったところだ。時間は限られているし、残り少ない。

 就職環境としては、日々のセクハラさえ目を瞑れば言うことなしの給金の良さだが、しかしここは反吐が出る"貴族"の溜まり場である。言うなれば日当金貨一枚で肥溜めの掃き掃除をするようなものだ。一日でも早くこんなクソッタレな職場を離れたいのが彼女の本音である。

 次の標的はまだ決めていないが、そろそろ"村"の方も気になってきた頃だ。物資も心許なくなる頃であろうし、"差し入れ"ついでに様子を見に行くのも悪くない。

 そこでしばらく骨休めをして、次の標的を探すなりすればいい。

 そのためにも、"目的"を果たすための下準備はぬかりなく行わなければならない。

 この宝物庫に来たのも、その一環だった。

 

 

 

「……これはちょいと、長丁場に成るかしらねぇ」

 

 

 

 想定していた通りではあるが、現状手も足も出ないため止むを得ない。

 翻せば、これだけ強固な守りの奥にはどんなお宝が眠っているのか。想像するだけで身震いが止まらない程のものがゴロゴロ転がっていることだろう。

 

 

 

「特に、噂に名高い"破壊の杖"は、是非とも貰って行きたいところだけど……」

 

 

 

 夜分のこの時間、本塔の、それもこんな宝物庫周辺にまず人は来ない。それ故の独白であったが、直後、彼女は己の迂闊さに肝を冷やすことになった。

 

 

 

「おや? そこにいらっしゃるのは、ミス・ロングビルですかな?」

「ッ!?」

 

 

 

 らしくもなく、彼女はこの学院で通っている名を呼ばれたことで、その肩を大きく震わせた。

 慌てて振り返ると、そこには禿頭に眼鏡が特徴的な学院一の変人教師、コルベールがカンテラも持たずに佇んでいる。

 闇に溶けこむようなその姿は、ともすれば怪談話にでも出てきそうな出で立ちだ。

 

 

 

「(気付けなかった!? こんな近くまで!?)」

 

 

 

 己の失態以上に、こんな至近距離まで接近されたことに気づけなかった自分に驚く。

 仮にもロングビルは、このトリステインのみならず、ハルケギニア全土でその名を轟かせる大怪盗だ。人の気配には一際敏感であるし、何より自身の背後を取られるような間抜けな事は、"仕事"において一度たりともない。

 それはつまり、この学園一の変人教師がそれだけの手練ということになり――――いや、まさか。単に、自分が大きく油断していただけだ。

 こんなハゲ頭の中年オヤジに自分が遅れを取るなどありえるはずがない。あまりにもこの学院のお貴族様が腑抜けばかりだから、自分が考えている以上に気が抜けていただけだ。

 ならば、気を引き締め直すだけである。切り替えの巧さは盗賊の嗜みでもあるのだから。

 

 

 

「あら、ミスタ・コルベール。このお時間にどうされました?」

「いえ、学院長に届ける資料があったので伺ったのですが、どうやらいらっしゃらないみたいでして……いやはや」

「学院長でしたら、少し前に食堂に向かったはずですわ。確か、マルトー料理長にお酒をねだりに行く、とか……」

 

 

 

 その際に、あからさまに尻を撫でられたのを思い返して、ロングビルは意図せず険しい口調になる。

 それだけで何かを察したらしいコルベールは、少しだけ同情するかのような視線を投げ寄越すと、次にはその禿頭を撫でながら困ったように笑った。

 

 

 

「なるほど……どうやら入れ違いに成ってしまったらしい。いや、かたじけませんな」

「まぁ、この程度の事。お気になさらず」

「そういえば、ミスはこんな夜分遅くまでお仕事ですか?」

「はい。宝物庫のリスト管理なのですけれど、うっかり学院長に解錠していただくのを忘れてしまいまして。途方に暮れていたところですの」

「はっはっは、それは大変だ」

 

 

 

 朗らかに笑って、自然な足取りでこちらへと近づいてくるコルベール。

 一瞬、ロングビルは警戒の現れで足を引きかけるが、鋼の精神を持ってそれを抑え込んだ。

 ひょいと、ロングビルの持っていた帳簿を見て、コルベールは渋面を浮かべて唸った。

 

 

 

「失礼――――やや、差し出がましいようですが、ミス。この量ですと、これからかかりっきりになっても、少なくとも朝日を二度は拝んでしまいますぞ」

「まぁ、そんなに?」

「ええ、以前私も経験していますので、断言できます。悪いことは言いません、今日はもう、下でへべれけになっている年寄りに一言断りを入れるなりして、お休みになるべきです」

「そうですわね……ミスタがそう仰るのでしたら」

「なにより、その量は一日ではなく、数回に分けて行うべきですからな。作業でしたら、私も時間があればお手伝い致しましょう。経験者がいれば、作業も捗るというものです」

「では、その時は是非ともよろしくお願い致しますわ」

「喜んで」

 

 

 

 内心の警戒はおくびにも出さず、ロングビルは自慢の営業スマイルを浮かべ、さりげなく書類の束を下ろしてコルベールの視線から外した。

 コレ以上話を続けていては、何か悟られかねない。

 そんな直感を信じて、ロングビルは素直にコルベールの言葉に従うことにする。

 

 

 

「では、私は学院長を探しに食堂へと向かうことにしますけれど、ミスタはいかがされます?」

「ちょど良いので食堂までご一緒しましょう。私も、直接資料を渡すつもりでおりましたので」

「フフ、では、エスコートをお願いしても?」

「お任せください」

「有難うございます、ミスタ」

 

 

 

 互いに笑顔の応酬を交わしながら、連れ立って宝物庫を後にする。

 一瞬だけ、ロングビルは後ろ髪を引かれるように背後の宝物庫を振り返ったが、しかしすぐに意識を切り替えると、この隣をあるく奇人であっても知識量は豊富な教師から情報を聞き出すべく、己の"武器"も交えながら攻め立てることにするのだった。 

 

 

 

 

 

 

 また別の在る日の夜。

 その日は、ステラが学院のとあるメイドとの親交を深めた夜で、その際に洗濯の手際の良さに驚かれた日でもあった。

 綺麗に畳まれ、文句のつけようもないほどの仕事ぶりを見せつけられて、思わずルイズが「ぐぅ」と唸ってしまうほどであったのは余談だろう。

 もともと、ステラの引き篭もりであったが故の知識量と、それまで暮らしていた間における"家事"の基本的な経験は、おそらくこのハルケギニアにおいても並び立つものはいないだろうから、当然の帰結ではあったのだが。残念なことに、それを知るものは誰も居ない。

 無論、半ば八つ当たりのようにルイズに押し付けられた掃除も文句のつけようもないほどにこなしてのけ、ふくれっ面になったルイズの頬をステラが突いて怒られる一幕があったりもしたのだが、これも余談だ。

 

 そんなとある一日の、双子の月が空を紫紺に彩り、瞬く星々が静かに映える夜空の下。

 トリステイン魔法学院の一角で、二人の少女が闇夜に紛れて何事かに取り組んでいる。

 言うまでもなく、ルイズとステラだ。

 二人が立つのは、学院をぐるりと取り囲み、五つの塔をつなぐ城壁の傍――――つまりは、寝静まった宿舎から離れ、ある程度の騒音を出しても大丈夫な場所である。

 そこは、ルイズにとって秘密の魔法特訓所だ。

 入学して一月どころか一週間と経たずにルイズが見つけ出した場所で、その代価として宿舎塔周辺に警戒兼監視目的の使い魔が常駐するようになってしまったのは、宿舎等周りのセキュリティを強化することの礎となったと考えるべきか迷うところである。

 ともあれ、ここならば誰にも文句を言われず――ただし、物理的損壊があれば別――に魔法を練習できるのだ。

 無論、今この場にいるのも魔法の練習のためであり、同時に、ルイズはある種の希望を抱いていた事と、使い魔に主の勇壮たる姿を魅せつけるためという緊張感に満たされていた。

 

 

 

「それじゃ、いくわよ」

「うん」

 

 

 

 ルイズが使い慣れた杖を取り出し、淀みなく目の前に掲げる。

 既に体に染み付いた反復行動。

 一辺の迷いも、一切の躊躇もない。

 ただ、不安という唯一の負の感情を押し殺し、すべきことを為す。

 唱えるは発火のルーン。

 至極シンプルな、指定する一定点を発火させる現象の顕現。

 行程は単一。

 火を起こす、というシングルアクションは魔力消費も少なく、またその"わかりやすい"現象故に最も練習しやすい属性魔法の基本とされる。

 少なくとも、先日教室内で大爆発という惨事を引き起こすことに成った"錬金"という魔法に比べれば、難易度も被害も遥かに下回る、基本中の基本とも言える魔法だ。

 大別して属性魔法/エレメンツと基礎魔法/コモンに分かれる魔法の種類だが、生憎とこのルイズ・フランソワーズにとってはどちらも違いはない。

 であれば、わかりやすい成果が得られ、かつ練習において慣れに慣れ親しんだ"発火"を選んだのは、無難とも言える選択肢であった。

 

 

 

「《ウル・カーノ》!」

 

 

 

 その赤桃の唇から零れ落ちた詠唱が僅かに震える。

 あるいは、それが原因だったのか。

 結果として発火はならず、"いつもの如く"爆発だけがあった。

 ドカン、と軽く空気が振動し、そう弱くはない衝撃が二人の少女を撫でた。

 残されたのは、月夜の晩においてもそうと分かるほど黒く焦げた大地だけ。

 予定調和としか言いようのない己の"失敗"に、ルイズは忘れていた諦観を思い出す。

 

 

 

「やっぱりダメね。サモン・サーヴァントができたから、ひょっとしたら、なんて甘い考えを持ってた過去の自分を殴りに行きたいわ」

 

 

 

 自嘲の笑みを浮かべながら、ぷらぷらと手に持った杖を揺らすルイズは、恥ずかしさと悔しさから、興味深そうに現場を検証する己の使い魔をまともに見ることができなかった。

 そのまま感情に任せて杖を投げ捨てたい思いに駆られるが、かろうじてとどまる。

 なによりそれは、メイジとして恥ずべき行為であるし、同時にこの杖が、両親から与えられた愛情そのものであることを思い出したからだ。

 アルビオンにある樹齢四百年に匹敵する宝樹の樫から、力強くたくましい部分の枝をベースに、マンティコアの鬣を芯とする逸品。

 しかも、マンティコアは母と長年苦楽を共にしてきた騎獣から採取したもので、母の想いがそこに全て込められていることがわかる。

 樫の枝だって、わざわざ父がアルビオンへ直々に採集に行ったのだ。採取にあたって必要な諸々の手続きその他の全て自身でこなしてまで、というところに父親の過保護さが感じ取れる。

 そんな出生の秘密を持つ、こんな不出来な娘のためにそこまで骨を折ってもらって両親から賜った杖を、投げ打つような真似はできない。

 故に、溜息を一つ、盛大に吐き出すことで誤魔化した。

 ルイズがそうして悶々と懊悩している間も、ちょろちょろと現場検証を続けていたステラが、突然少しだけその声を弾ませ、主の名を呼んだ。

 

 

 

「ルイズ」

「……なによ」

「もう一度やって」

「……………」

 

 

 

 心なしか、ルイズを見るその目が輝いてるような気がする。

 いや、月明かりしか無いこの暗闇の中ではっきりと分かるほどに、今のステラは興奮していた。

 だが対するルイズの心境はもはや地に埋まって穴を掘る勢いである。

 ひょっとして、この使い魔は遠回しにこの自分を嘲笑っているのだろうか。

 わざわざたった今、目の前で魔法の失敗を見せてやったというのに、それをもう一度などと――――卑屈に物を見れば、無様な姿をもう一度見たい、と言われたに等しい。

 ……いえ、さすがにそれは穿ち過ぎよ、ルイズ。

 当初の目論見――カッコつけたかっただけともいう――が完全に崩れ去り、予想していたとはいえ全く持って喜ばしくない結果を受け止めていただけに、今のルイズは何かアレばすぐにネガティブな思考に陥りそうになっている。

 それを自覚しているのは幸いだろう。

 同時に、てててと態々ルイズの傍まで寄ってきては「はやく、もう一度」と急かす使い魔を見れば、先ほど自分が邪推したような考えなど含まれていないことがわかる。なによりこのアホ使い魔は、文字通りアホなのだから。そんなに深いところまで考えているはずがない。例えそれが、ルイズのステラに対する偏った見識であったとしても。

 

 

 

「……はぁ。わかったわよ、ちょっと下がりなさい」

「うん」

 

 

 

 尻尾でもあれば千切れんばかりに振っていることだろう。

 そんな機嫌の良さをにじませながら、ステラはルイズからやや離れ、対象となる座標を指定する。

 

 

 

「向こうの小石にお願い」

「はいはい。《ウル・カーノ》」

 

 

 

 気怠そうに、そして先程とは打って変わってぞんざいな態度で魔法を発動するルイズ。

 普段、どんな状況であれ魔法の行使には毎度毎度真剣に取り組んでいる姿からは想像もできない投げやり具合である。

 内心としては、失敗することがわかりきっているだけに真剣にやることに意義を見出せないが故だが、これは期待していた分その期待が裏切られた反動が本人の想像以上に大きなダメージとなっていたからだ。

 無論、その"期待"を裏切らず、発火の魔法は小規模な爆発と成って現れ、運良くステラの指定した小石を爆砕した。

 もはや溜息すら出ない程に意気消沈する主とは対照的に、何がそんなに面白いのか、使い魔/ステラは爆発現場をしきりに検証している。

 

 

 

「……ステラ。そんな爆発跡見て何が面白いわけ?」

「PDCAサイクルって知ってる?」

「ぴ、ぴーでーし……なに?」

「計画、行動、評価、改善の四つの行動を継続して繰り返すこと」

「それがどうしたっていうのよ」

「ルイズの魔法は爆発を起こす。そしてそれは意図したものじゃない。どうして?」

「そんなの、私が知りたいくらいだわ」

「うん。だから、それを調べてる」

「……つまり、私の魔法の結果を"評価"してる、ってこと?」

「うん」

 

 

 

 ひいては、その評価に基づいて改善策を考えよう、ということなのだろう。

 その考え方が無いわけではないが、意識して行っているのは、例外なく優秀な人間であることをルイズは知っている。明確にどれがどの行動かはわからなかったが、身近にわかりやすい例がいたのだから。

 幸いではなく災いであるのは、その"評価"という行動において痛みを伴うことが多く、また"改善"という項目においても様々な意味で痛みを伴っていたため、ロクな思い出がないのだが。

 しかし、それを知っているということは、ステラは非常に高い教育を受けていることの裏返しでもあるということに、ルイズは気付く。

 ある程度賢ければそこに自分自身の足で踏み込めるのかもしれないが、少なくともそういう状況に置かれているということは、ある程度の学を持っていることが前提だ。

 だが、今現在のステラの行動は、言うまでもなく無駄な努力だろう、とルイズは内心で苦笑する。

 既にどれほどの試行錯誤が行われ、また湯水の如く金と権力が使われたことか。その結果が今の状況だ。

 

 

 

「生憎だけど、検証したって無駄よ。原因がわからないんだもの。改善のしようがないわ」

「視点を変えて」

「……視点?」

「どうして、ルイズの魔法は爆発するの?」

「どうしてって……」

 

 

 

 言われて、ルイズは言葉に詰まる。

 そんなの、わからないからに決まってるでしょう。

 だが、今ステラが問いかけている問題の答えとしては、そういうことではない、という確信がある。

 改めて考えてみる。

 ステラは"視点を変えてみたか?"と聞いている。では、今までのルイズの視点ではなく、別の視点で物事を考えてみなければならない、ということだ。

 今まで見ていた視点――――魔法を行使するにあたって、ごくごく"当たり前"とされてきた、貴族の視点における常識、所作、手順、方式。

……どれも、間違っていない。それは断言できる。

 では、何が"間違っている"のだろうか。

 

 

 

「全てをひっくり返してみた?」

「は?」

「ルイズは、今まで"正しい"魔法の使い方をしていた。でも、それで失敗する。なら、その前提をひっくり返す」

「――――全部、間違ってる?」

「そういう視点」

 

 

 

 あぁ、なるほど。

 思わず膝を叩きたくなる考えだ。

 であれば至極簡単なことで、ルイズは直ぐ様、先ほどのステラの問への答えを導き出す。

 

 

 

「二つ、考えられる」

「何?」

「一つは、全て正しいけど、なにか足りない」

「多分、それが一番可能性が高いと思う」

「もうひとつは――――あまりにも突拍子がないけど、そもそも、私の場合、辿るべき手順が一般的なものじゃない場合」

「そもそも、"ルイズが"取るべき手順が、常識はずれのもの」

「……あんまり言いたくないけど、そういうこと」

「それも、可能性が高い」

「なんでよ」

「アレ」

 

 

 

 ステラ示すのは、二回の爆発によって黒焦げになった爆心地だった。

 砕けた小石と焦げて黒く変色した地面は、決して小さくない爆発があったことの証左だ。

 同時に、どう考えてもあり得ない現象の残骸でもある。

  

 

 

「ルイズは、爆発がどうして起きるか知ってる?」

「そりゃ、私の魔法が失敗したから――――って、アンタね、嫌味言ってるわけ?」

「違う。魔法じゃなくて、現象としての爆発」

「……いいえ、知らないわ。秘薬の硫黄を使えば簡単に爆発なんて起きるもの。言い換えれば、"爆発"っていう現象はそういった限られた方法でしか起こせない。だから、火の魔法は攻撃面において最も効率的って言われてるのよ」

「じゃぁ、ルイズの魔法は火の系統?」

「違うわ。確かに今は発火の魔法を試して爆発したけど、これはあくまでコモン・マジック。系統魔法には分類されない」

「でも、ルイズの説明だと、爆発は火の系統だよ」

「そうだけど……でも、この前みたいに土系統の錬金でも爆発するし、水系統の凝縮でも爆発した以上、その可能性はないわね」

「だからこそ、ルイズの爆発には大きな意味があると思う」

「?? もっとわかりやすく言って」

「爆発は、本当にざっくり言ってしまえば、急激な体積の膨張によるもの。そして、体積の膨張は分子運動の一種で、ルイズはそれを制御していないだけ」

「??????」

 

 

 

 淡々としたステラの言葉に、しかしルイズは頭上でいくつもの疑問符でワルツを躍らせる。

 その様子を見て、ステラは自身の言葉による説明を諦めた。潔いにも程がある。

 代わりに、今のルイズが納得しやすい言葉を思案し――――思いついた。

 

 

 

「つまり、魔力や術式の問題じゃなくて、あくまで"想像"と"理論"が定まっていないから失敗する。引き起こしたい現象に対する理解と、明確な想像力を鍛えて」

「えーっと、ようは、修行不足ってこと?」

「……そんな感じ?」

「なんで疑問形なのよ!?」

 

 

 

 最後の最後で梯子を外され、ルイズは思わずその場に突っ伏しかける。

 せっかく自分の失敗魔法に光明が見えたのに、結局は"努力不足"で片付けられた挙句、それも疑問形なのだ。内心の落胆たるや、先ほどの失敗魔法を見た瞬間のそれに匹敵する。

 というか、途中までとてつもなく真面目かつ実りある議論ができていたというのに、何故に最後の最後でいきなりチェス盤をひっくり返すような真似をしてくれるのか。

 考えれば考えるほど、ルイズは目の前の使い魔の脳天気さに腹が立ってくるのを自覚する。

 無論、八つ当たりだ。

 しかし、ルイズはルイズ・フランソワーズであり、あの"ラ・ヴァリエール"なのだ。

 母も、姉(長女)も、その筋どころか貴族界隈においては知らぬものはいない、火に油ならぬ硫黄に爆炎に等しい危険物扱いをされている女性貴族の一員であり、しかもその上第三女である。八つ当たりのないラ・ヴァリエールの女など、アルコールのないワインと同じとさえ揶揄されていることを、知らぬは本人達ばかりなのだが――――おそらく、一生知ることはないだろう。知らないほうが幸せなことだって、人生にはあるのだから。

 とまれ、ルイズはそんなラ・ヴァリエールの女なのだ。すべからくして、その八つ当たりには意味がなく、また意義は在る。

 

 

 

「ステラ」

「なに?」

「前々から思ってたのよ、私」

「何を?」

「アンタ、私の使い魔よね?」

「うん? そうだよ?」

「じゃぁ、アンタのご主人様は?」

「ルイズ」

「……使い魔は、基本的にご主人様に従うものよね?」

「そうだね。たぶん」

 

 

 

 淡々とした対話の末、悲しいことに、また一つ、ラ・ヴァリエールの堪忍袋の緒が千切れ消し飛んでしまった。

 

 

 

 

「どぅあからぁッ!! なっっんでアンタはいつも肝心なとこで疑問系になるのよッ!! つーかたぶんじゃなくて確定! 事実!! 当然なの!! 義務なの!!!」

「……」

「そんな渋い顔したって無駄よ! いいステラ。アンタは私の使い魔。私はアンタのご主人様。使い魔はご主人様の下僕! はい、復唱!!」

「………やだ」

「ッ――――ほ、ほほ、ほっほーう? い、いいい、いい度胸じゃない」

 

 

 

 ルイズの目から、光が失せる。同時に、その据わった目が、ぷいっと顔をそむけて頬を膨らませる己の使い魔を睨みつけた。

 声が震えているのは、決して泣きそうだからなどではない。フリとかそういうのではなく、一切断じてそんなことはない。

 では何故かと言うと――――まぁもはや言うまでもないことだが。

 

 

 

「ご主人様を敬わない使い魔には、し、ししし、し躾が大事よね。躾は、罰を以って為すのが適当よね」

「!?」

「ステラ、アンタ明日ご飯抜き」

「まっ! 待ってルイズ!」

「マルトーさんにも話は通しておくから。あと、あのメイド。確かシエスタ、だっけ?」

「ごめん! ごめんなさい!」

「無駄よ! 無駄無駄! 今更謝罪したって、お、おお、遅すぎたわね!! アンタは、私を、怒らせたッッ!!」

 

 

 

 烈火の如く怒り狂い、その舌っ足らずな喋りが震えるほどに憤怒に染まる主に、ひたすら平服低頭する黒髪の使い魔の少女。

 最後にはその主の短いスカートにしがみつき、挙句脱がせてすっ転ばせて、さらにお仕置き/飯抜き期間がもう一日伸びてしまったのは、まぁ……おそらく、余談なのだろう。

 

 

 

「ルイズぅ……」

「ダメったらダメーッ! ずぇえったいに許さないんだから!!」

 

 

 

 寝静まる学生寮であることすら忘れて、自室に戻るまで散々喚き合う二人の少女達。

 紫紺の帳に浮かぶ双月が、そんな主従に苦笑いするように瞬いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




提督業が忙しかった(言い訳

E-6 が くりあ できません(^q^)
ばけつ が E-6 だけで 300 へりました(^q^)
しげん は かんがえたく ありません(^q^)
くりあ したら つづき が かける と おもいます(^q^)



まぁ冗談(真実です)はともかくとして。
そんなこんなで幕間の短い話となりました。
プロットを作っている上で、なんか前回の話の終わりが、想像以上にキリがよかったので、このまま第二章に移行することに。
今回は一章にで保管しきれなかった主従のいちゃいちゃっぷりと、次章への下準備です。
ミス・ロングビル……彼女ハ一体ナニモノナノデショウネ(棒読み


9月からまた忙しくなりますが、それでも頑張って更新し続けます。
そんな「のいはの」を今後とも生ぬるく見守っていただければ幸いです。
読者の皆様への感謝に打ち震えながら、それではまた、次の更新に。



*誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます(白目
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