日常編入ります。
第十弾 “晴読雨読の貸本屋”『鈴奈庵』
二人は買い出しのために人里の中を歩いていた。
ちなみに今日の綱吉の服装は青い和服である。
いつも着ている制服は“死ぬ気モード”になった時に弾け飛んでしまった。その後、綱吉が落ち込んでしまったのは言うまでもない。
そんな彼らはまず里でも有数の商店である霧雨道具店にいた。
ここは所謂、雑貨店であり文房具や包帯を始めとした軽い医療器具、さらに多少値は張るが調味料類など…大体の物はここで買うことができるほどの規模を誇る。
二人はここで暫くの間、買い物をした後、次に向かうべく外に出る。
「なぁ綱吉くん、流石に荷物全て持ってもらうのは流石に悪いのだが…」
「まだ怪我が治りきってないんだから無理しないでください。このくらい俺が持ちますから」
「いや、しかしだな……」
霧雨道具店での買い物が終わって歩いている最中、子供に荷物を持たせることに申し訳なさそうにしている慧音と、怪我人に持たせるわけにはいかないと荷物を独占する綱吉という構図。リボーンから女性への対応を叩きこまれた(物理)綱吉としては男として女性に荷物を持たせることはできなかった。
「それで次はどこに行く予定なんですか?」
話を打ち切るように、綱吉は次の行先を聞き出す。
その態度に綱吉が荷物を渡す気がないことを察したのか。慧音は「ありがとう」と礼をしたうえで答える。
「寺子屋の備品はさっき買った分で充分か…。なら次は鈴n――貸本屋に行くつもりだが…」
「貸本屋……ですか?」
外の世界ではかなり廃れた分野の事業である。
副事業であれば、行っている大手のレンタル店ならあるが専門かつ個人経営している貸本屋などかなり珍しい。
少なくとも綱吉は見たことがなかった。
「ああ。何か娯楽に困ったら、覗いてみると良い……むっ、見えたぞ」
慧音が指し示した先には【
慧音が戸を開き、二人で暖簾を潜ると、目の前に広がるのは壁に沿うように配置された書架のある空間。そして、その奥のカウンターには綺麗な茶髪に二つの髪留めをした可憐な少女が読書をしながら座っていた。
「(女の子……?この店の人かな?)」
店員にしては幼い印象を受ける。少なくとも綱吉よりも年齢は下だろう。まぁ、見た目年齢に関してはそこまで違いが無いが。
そして、その少女は入店した際の音に気がついたのか、本から慧音達の方へ視線を向ける。
「いらっしゃいませ〜。……あぁ慧音さんでしたか。今日も何か資料をお求めで?」
少女は綱吉の予想通り、この貸本屋の店員らしい。
彼女は慧音と知り合いなのか、気軽に挨拶をする。
対する慧音は曖昧に頷いた。
「ああ……一応、それも目的だが……。今日は彼をここに連れて来たくてね」
慧音はそう言いつつ、綱吉の隣に立つよう身体を退かした。
少女もそこで慧音の背後にいた綱吉の存在に気が付く。
「そちらの方は?」
「彼は
「へぇ…そうなんですか」
綱吉を訝しげに見る小鈴。
ただそれも一瞬のことで、自分には関係ないのだろうと無関心な態度になった。
「け、慧音さんの寺子屋でお世話になってる沢田綱吉といいます。ええっと……君はーー」
「私はこの鈴奈庵で働いています
小鈴は愛想笑いを浮かべながらそう言った。
◇◇◇
一通り紹介を終えた後、せっかく来たということで、少しの間だけ店を見て回ることになった。
慧音はというと、授業で使えそうな資料がないか探しているようで、その間、綱吉も慧音とは別に店内を回っていた。
「本当に色んな本があるんだなぁ……」
小鈴の話によると、ここにある本のラインナップは外の世界から持ち込まれた所謂"外来本"と呼ばれるものとを中心に構成されている。
幻想郷では印刷・出版業が外の世界ほど普及しているわけではないからか、幻想郷産の本はそこまで多くはない。
ただそれでも外では滅多に見かけなくなった本が並んでおり、そこまで読書家ではない綱吉の興味すら惹きつけるほどの品揃えであった。
「ん……?この本は……?」
ふと、綱吉は隅っこにある本棚から一冊の本を取り出す。
そこまで手に取られていないのだろう。汚れも少ない。
パラパラと捲ると、覚えのある文字が目に入った。
「へぇ……
「あなた、その本読めるの!?」
「ひっ!?」
綱吉は驚きのあまり情けない悲鳴を上げ、危うく本を落としかける。
その後、傍を見ると目を輝かせた小鈴がいた。本の整理をしていたのだろうか。その手には積み重なった本が乗っている。
彼女の愛想を全力でぶん投げたような強い圧に綱吉は屈するようにおどおどと口を開いた。
「よ…読めると言いますか………読んだことあるというか――――」
むしろ、読まされたというべきか――――綱吉は最後に心中で呟いた。
「そうなの。意外と読書家なんですね」
「(な、何なの急に……)」
突然のことに綱吉はしどろもどろになる。
「そ、そういうわけじゃないんだけど……」
というか”意外”とはなんなのか。
彼女の目には綱吉がどう映っているのだろうか。
「どうしたんだ一体?何があった?」
慧音がいくつかの本を手に綱吉の元へと戻って来る。
すると、綱吉が持つ小説が目に入ったようで……。
「ふむ…見たところ、日本語ではないようだが……。これも、この店の本かい?」
慧音は空いた方の手を顎に当て首を傾げていた。
どうやらラテン語が分からないらしく、小鈴に本にについて尋ねている。
すると、彼女は慧音の前だからか、再び店員としての振る舞いに戻る。
「ええ。そうですね。ここ最近、入荷して状態も良いので置いてみたんですが。やっぱり手に取る人が少ないんですよねぇ……。物凄く面白かったのに……。知り合いにお勧めしても全く無意味で」
「あれ?君も読めるんだ」
日本では趣味で取る人がいるくらいで、基本的にマイナーだろう。
そもそもラテン語自体が難しい。英語すら見る機会がほぼない幻想郷の人里で読める人間などまずいないに違いない。
なのに、目の前の少女がラテン語の小説を読んだ事実に綱吉は素直に驚いた。
「私の場合は"能力"で読めるだけですけどね」
「へぇ…凄い能力なんだね」
小鈴の能力は"あらゆる文字を読める程度の能力"。
基本的にどんな言語であろうとも文章の内容の意味を知ることができる能力だ。
小鈴の能力について聞いた綱吉は表では感心しているように振る舞ってはいるが心中は穏やかではない。
「(リボーン…いやどんな組織でも絶対に欲しがる能力だ……。下手をすれば
この娘がいればどんな暗号でも機密文書でも解読できてしまう。
小鈴がいれば“情報”の分野において他の組織より遥か先に抜きん出ることが出来るだろう。
この世において情報は何にも勝る武器。はっきり言って世界を制する可能性すら秘めたとんでも能力だ。
「(この
綱吉は心の中で安堵の息を吐く。
しかし綱吉は気が付いていない。マフィアなど嫌だと言ってきた彼が裏社会のパワーバランスや戦争について無意識的に考えてしまっていることを。
「というより…私からすれば綱吉くんがそのラテン語?を読めることが驚きなのだが……」
「いや…まぁ。最低限の単語や文脈は書いたり、話したりできるようになるまでは覚えましたから……」
綱吉がそう言うと小鈴は感嘆したように見る。
小鈴の能力はあくまでも“文字の意味を知る”能力。書いたり、会話することが出来るようになるわけではない。
「私みたいに能力を使っているわけじゃないんですよね?」
「いやいや。俺にそんな便利な能力なんてないよ」
「(それは本気で言っているのか?)」
あんな反則レベルの勘を持ち合わせておきながら、この少年は何を言うのか。
困った顔で手を振る綱吉に慧音は心の中で呆れていた。
そんな彼女を他所に綱吉は苦笑まじりに言う。
「俺の場合、家庭教師に叩き込まれただけだし…。後、友達にも教えてもらったかな。うん……俺一人の力じゃ絶対に無理無理。みんながいてくれたから…………」
「ほう……綱吉くんの友人か……」
慧音が興味深そうに呟く。
それに反応した綱吉は朗らかな笑顔で語り始めた。
「はい!俺の友達なんですけど、すっごく頭が良くて。学校でも一番なんです。性格はちょっと不器用ですけど、何だかんだで優しくて。……俺の自慢の友達」
別にラテン語を読めること自体にはそこまで態度に出なかったのに、自分の身内の話になると、途端に嬉しそうに語る綱吉。
小鈴もそんな彼とは割と話しやすいのか、話がさらに進む。
「そういえば家庭教師雇っているのね。良いところの家なのかしら?」
「ううん。普通の一般家庭だよ」
「えぇ……」
家庭教師など幻想郷では極一部の富裕層くらいにしかいないだろう。
そんなことを嫌味も何もなく、さらりと否定する綱吉に小鈴はちょっと引いていた。まぁ、それが幻想郷の人間と外来人の価値観の差なのかもしれない。
「(いやぁ……ほんとキツかったなぁ……)」
綱吉が思い出すのは、去年の夏休みに行われた“リボーン式語学留学”。たった二週間でラテン語を始めとしたイタリア語やその地方語を
留学といってもあくまでリボーン式。
バンジージャンプの風切り音の暴風雨の中でのリスニング。
貸切水族館でワニに襲われながら、檻の中で文章の
『ボンゴレ式二宮金次郎だぞ』などと言われ、飛んでくるミサイルから全力逃走(背中に重石付き)しながら、ひたすら暗記。
今でも思い出す、自らの悲鳴の数々と爆発音。
度重なるリボーンの
「なんというか…人間、
「(し…死ぬ気でやれば……か。普段なら冗談か何かだと思うが…)」
「(変に説得力があるというか、なんというか……)」
笑いながらも、まるで魂が抜けたかのように色の抜け、悟りきった僧侶のような綱吉の瞳。
彼の言葉はあまりに実感が伴っており、その重さに慧音も小鈴も何も言うことが出来ない。
「(ん…?あれ?なんか変な空気に…?もしかして、俺また余計なこと言ったっ!?)」
この妙な雰囲気もとい慧音たちのドン引きした視線に気がついた綱吉は、また自分が粗相をしでかしたのではないかと冷や汗を掻いていた。
反応に困っているのは他の二人も同じであったが、小鈴は店員として接客しなければならないこともあり、あくまで店員として綱吉を立てるように言う。
「それにしても凄いですね。歳も
「え゛」
小鈴の言葉に綱吉は頬を引き攣らせる。
いや確かに綱吉は高校生にしては童顔である。身長も160㎝に満たず、変声期を迎えた後でもかなり高い。女装をすればあのリボーンが引くほどに似合っているレベルだ。しかも周りは高身長美形ぞろい。そのせいで、今でも子供料金として扱われることもある。
故にコンプレックスとはいえ、初見で子供扱いされるのは慣れているといえば慣れているのだが、流石に自分よりも明らかに年下であろう少女に歳下扱いされるのはショックが大きい。
「え、えっと……」
心へのダメージの大きさのあまり、綱吉の口はおずおずとおぼつかなくなっている。
「その、あっと…。俺、これでも16歳……」
「え?」
途端に凍り付く空気。
小鈴だけではなく、何故か慧音まで意外そうに綱吉を凝視している。
そして少しの間の後、解凍されたのか小鈴は大きく目を見開いた。
「えぇぇぇぇぇぇッッ!?あ、アンタ私より歳上だったのー!!?」
「どんだけ驚いてんのーっ!!?」
もはや店員としての最低限の振る舞いまで放り投げた小鈴の絶叫に綱吉もまた釣られるように張り上げた声を上げる。
店中に響き渡る二人の大きな声。片隅には思わず耳をふさいだ慧音が。
この後、近所迷惑だと小鈴の親に二人が怒られたのは言うまでもない。
こんなことはあったものの、今日の鈴奈庵は平和であった。
こんにちは味噌漬けです。
とりあえず新編、三分の一くらいまで書けたので番外編的な感じで投稿しました。
また三分の一かけたら投稿しますねー
【キャラ紹介コーナー】
《沢田綱吉》
年齢…16歳
能力…全てを見透かす程度の能力?
属性…大空
一応、16歳。
中1のころから殆ど背が伸びないことについて、めっちゃ気にしてる。だって、他の仲間が基本的に高身長×美形ばかりだから仕方ないよね。
ちなみに綱吉の学力自体は現時点ではそれなりに高い。第一話で赤点をとっているが、それは理解できなかったというよりも、寝不足故に解答欄をズレて書いてしまったという凡ミスである。リボーンからしたら、そっちの方がタチ悪いとのこと。
《上白沢慧音》
年齢不詳
種族…半人半獣
能力…歴史を食べる(隠す)程度の能力(人間時)
属性…霧
ツナの年齢聞いて、内心でかなりビックリしていた。
まさか15歳以上だとは思っていなかったらしい。…が、年齢詐欺について彼女が言う資格はないと思います。
《本居小鈴》
年齢…13歳
種族…人間
能力… あらゆる文字を読める程度の能力
属性…晴
家業である鈴奈庵で働いている少女。というか、殆どの業務を一人でこなしている裏の店長である。筆者的に相当ヤバい能力の持ち主の一人。何がヤバいって、影響は凄まじいのに自衛手段に乏しい点である。この子を巡って争いがよく起きないなって…。
ちなみに普段は店員と客としての距離感は保っているが、今回に関しては布教したくて堪らない本を偶々読める綱吉が手に取ってしまったために、理性が決壊したが故に起きたことである。
後、鈴奈庵面白かった。