聞くたびにぴったりやなぁって。聴いたことない人は是非とも聴いてほしい。
綱吉が晴れて教師になってから後日、退屈だからと咬み殺しにくる風紀委員長や破茶滅茶な家庭教師のいない…この寺子屋では、今日も平和に子供たちが学校生活を送っていた。
「ツナせんせいあーそぼ!」
「あっ!ずりーぞ!ツナとは俺が遊ぶんだ」
「違うもん!あたしと遊んでくれるって約束したもん!!」
沢山の子供たちが綱吉の周りで騒いでいる。
どうやら、みんなが綱吉と遊びたいあまり、誰が綱吉と遊ぶか言い争っているようだ。当の綱吉は「あはは…」と困った顔で笑っている。
その光景に慧音はというと……
「(いや、流石に懐かれすぎじゃないか!?)」
心の底から驚愕していた。
綱吉がこの寺子屋に来てまだ二日目なのにも関わらず生徒の大半に懐かれている。
当初は自分に集まる生徒以外、または一部くらいを受け持ってもらう予定であったが、なぜか慧音よりも綱吉の方に生徒が集まっているくらいだ。
予想を遥かに超えており、一応目的であった慧音の負担の軽減は果たしているものの、何か釈然としない。
いや、理由はわかるのだ。これは綱吉生来の気質であり、決して慧音には真似が出来ないことなのだと。
「わかったわかった…。それじゃあ、みんなで一緒に遊ぼうか。何して遊ぶ?」
綱吉が聞くと、われ先にと「隠れんぼ!!」という声がした。そして、その後は【ママごと】や【鬼ごっこ】などが出た。
綱吉は男女両方が遊びやすいこと、一番最初に提案されたこともあって隠れんぼにすることにした。
「それじゃあ隠れんぼにしようか。鬼ごっこやおままごとはまた別の日にね」
綱吉がそう提案すると、子供たちはみんなで元気よく「「はーい!!」」と返事をした。
何人かは不満を持つ子もいたが、逃げ切れば綱吉からご褒美を与えると聞くと、途端にやる気を出す。
「よしっ!じゃあ、時間は昼休憩が終わるまで。寺子屋の外と危ないところには隠れないこと……いいね?」
念入りに注意すると、子供たちは頷く。
「それじゃあ始めようか。みんな逃げろー!」
「「わぁぁぁぁぁっ!!」」
綱吉が振り上げた手を下げて開始を宣言すると子供たちは一斉に逃げる。
綱吉はというと、ひとまず子供たちから解放されたことで気が楽になったのか、ホッと――息を吐いた。
慧音はそんな綱吉の元に向かうと、ポンと彼の肩を叩いた。
「大人気だな綱吉先生」
「あ、慧音さん」
慧音が揶揄うように言うと、綱吉は照れ隠しなのか困ったような笑みを浮かべていた。
「他の子達はどうしたんですか?」
綱吉がそう聞くと、慧音は教室がある方に視線を向けながら話す。
「ああ。他の皆もそれぞれ本を読んだり自主学習をしているよ」
そうなんですか……と綱吉が頷くと、次に慧音の方から問いかける。
「それにしても、君は子供の相手が上手いな」
「えーまぁ。実家にあの子達と同じくらいの歳の居候……いや、弟分や妹分がいまして…。慣れてると言いますか」
綱吉はそこで幻想郷に来るまでに交わした大切な約束を思い出す。
命の危機につい心の片隅に置いていたが、なんだかんだで大切な弟分との約束だ。
「(ランボとゲームをする約束をしていたんだっけ。不味いなぁ。怒られるなぁ……ちゃんと謝んないと…)」
事故とはいえ、約束を破ってしまったことは違いない。まず間違いなく機嫌を悪くし拗ねているだろう。
そこら辺のフォローはひとまず他の居候達に任せるとして、綱吉は帰りにはランボの好物の飴やたこ焼きを買っていくことを決めた。
「なるほどな…」
慧音は頷くものの、その心の中では真に納得しているわけではなかった。
「(確かに慣れている理由はそれで合っているのだろう。だが、それだけであれだけの子供たちが懐くわけがない)」
綱吉の子供の接し方を見ると、“なぜ・どのような”悩みを抱えているのか、何を欲しているのかが理解しているように見えた。
例えば、子供の喧嘩も綱吉は加害者側に何が悪いのかをしっかり指摘し反省を促し、きちんと謝らせる。
落とし物で困っているのなら、綱吉は見つかるまでその子と一緒に探す。
聞き上手、話し上手で子供たちとの会話も大盛り上がりだ。
そうして絆されていった子供たちはまるで大空の下で日向ぼっこしているかのように安心しきっていた。
「(このあり方はもはや教師というよりも……。いや、流石に発想が飛躍しすぎか)」
どこからどう見ても綱吉は優しいだけの少年だ。
一瞬だけ湧き上がった自分の発想に慧音が首を振っていると、綱吉は生徒を見つけんと動き始めた。
慧音も付き添いながら校舎の中に入ると、教室から本を持った女の子が出てくる。
「あ、アキちゃん」
「あっ、綱吉せんせい……」
綱吉が見つけたのは昨日、綱吉に算数の相談をしていた女の子――アキであった。
「へぇ…どんな本読んでるの?」
綱吉がアキが持っている本について尋ねると、彼女は小さい声ながらも答えた。
「植物の本……慧音先生から借りた…」
アキが持っていたのは、いささか旧いものの植物についての説明が載った解説本であった。
ちなみにこの本は、もっと生徒たちに本を読んで欲しいと慧音自身が高額ながらも、何とか自費で購入したものの一部である。
「あぁ…その本か。それでどうだった?面白かったか?」
慧音が尋ねると、アキは少しおどおどしながら感想を言う。
「面白かったです。お花や草にも色んな名前や
当たり障りのないアキの感想。慧音はそのまま聴いていたが…綱吉は何かアキの様子に違和感を抱いた。
「アキちゃん…大丈夫?」
「えっ……?」
「綱吉くん、どういう意味だ?」
綱吉の質問にアキは目を丸くし、慧音は顎に手を当て不思議そうに綱吉を見る。
綱吉はというと理由を聞かれたからか、少し慌てるように口を開いた。
「あ……えっと、気のせいだったら良いんだけど。アキちゃんが何か困ってるような気がして。いや、ほんと気のせいなら良いんだよ」
綱吉がそう言うと、アキは少し俯いたと思ったら少し小さな声で呟く。
「…………大丈夫。大丈夫だから」
念を押すようなアキの言葉に、綱吉は訝しげに見るも、その後、微笑みながら口を開いた。
「わかった…深くは聞かないよ。でも、忘れないでね。俺も慧音先生も君の味方だから」
「そうだ…。何かあったら迷わずに先生たちに相談しなさい。良いね?」
二人の言葉にアキはゆっくりと頷く。
そしてその後、アキは話題を変えるように話し始めた。
「綱吉せんせいは何してるの?」
「俺?俺は…他の子たちと隠れんぼしてるけど……。あ、ちなみに俺が鬼ね」
綱吉が何をしているか軽く説明すると、アキは心配そうに見る。
「大丈夫?時間まで見つかる?」
隠れんぼはそれが心配である。
下手に見つかりにくい場所、さらに危ない場所に隠れられると教師としても見つけにくい。
しかし、綱吉は「大丈夫だよ」と歩を進めながら答えた。
この隠れんぼの結果がどうなったのか。
それはご想像にお任せしよう。
◇◇◇
「――――において、危険な場所は数多く存在するが、かといって人里の近辺が必ずしも安全かと言われればそういうわけではない」
今、行われているのは定期的に行う幻想郷における危険区域の復習である。
幻想郷最強にして最恐の妖怪が縄張りとしている【太陽の畑】
かの吸血鬼が住む館があるとされる【霧の湖】
人間を蝕む瘴気が蔓延する【魔法の森】
数多くの危険な妖怪たちが棲むとされ、頂上へ続くロープウェイ以外の方法で無理に登ろうとすれば、まず命がない【妖怪の山】
上に挙げた例以外にも危険な場所が数多く存在するのが、この幻想郷なのだ。
「(ひぇぇぇ!人里の外、怖ぇー!!)」
綱吉もその話を聞いてビビリにビビりまくっていた。
綱吉が外の世界に帰る上で行かなくてはならない博麗神社も一応、人里の外だと知ったら…なんなら、外に出る人間がそれなりにいると知ったら、綱吉は一体どんな顔になるのだろうか。
「例えば昔、人里に住む一人の男が薬草を売って大儲けしようと里外のすぐ近くにある森に向かったが……その男は妖怪に襲われて命を落とした」
ちなみにそこは綱吉がルーミアに襲われた森のことである。
「賢い君たちなら分かっているだろうが…決して、人里の外に出ようとは思わないように。命を落としたくなければな…」
脅すような強い口調であるが、そのくらいの念押しが必要なくらい人里の外は危険なのだ。
まして子供なんて大多数の妖怪からしたら、放置された肉塊も同然なのだから。
「(大げさ…ではないよね。俺も襲われてるし)」
自分が体験したことに今更ながら鳥肌が立つ。
ルーミア一人だけだったから、まだ何とかなっただけでもっと凶暴な妖怪が複数で襲いかかってきてもおかしくなかったのだから。
「君たちが傷付けば、君たちだけではない。家族も友達も…そして先生も含めた皆が傷つくということをくれぐれも忘れないように」
慧音はその言葉を最後に授業を終える。
綱吉が教師になって初めての寺子屋は平和に終わった。
綱吉は思う。元の世界に戻るまで、この平和な生活が続きますように……と。
しかし……綱吉は気が付かない。
この寺子屋において、一番初めに心を通わせた生徒が慧音の話をまた別の意味で真剣に聞いていたことを。
そして、それが綱吉をこの幻想郷でもトラブルに巻き込んでしまうということを。
おはよう御座います味噌漬けです。
身体も心もくたくた。でも、何とか書いております。4月からは本格的に研修始まるので書く時間を作れるか不安なり。
【沢田綱吉】
年齢16歳
属性…大空
勤務初日にして子供たちからやたら懐かれている。
教師としてというより、近所の面倒見の良い兄ちゃんと思われているが、その方が綱吉らしい。
ちなみに隠れんぼはフゥ太の【綱吉にさせちゃいけない遊びランキング】において一位になってたりする(当の本人は知らない)。この遊びの結果がどうなったのかは読者の皆様の想像にお任せしましょう。
【上白石慧音】
年齢不詳
種族…半人半獣
能力…歴史を食べる(隠す)程度の能力(人間時)
属性…霧
綱吉を雇用したのは良いものの、何故か子供達の人気をかっさられパルパルした複雑な心境に。沢山の子供相手に隠れんぼの後、「うちの居候達よりも手がかからない」と言い切った綱吉を見て、どんだけ濃い家庭だったんだ?と戦慄したのは内緒。ちなみに隠れんぼを綱吉の側で見ていて、彼にドン引きしたのは言うまでもない。
【アキ】
年齢 6歳
種族 人間
父親行方不明、母親病弱、貧乏というフィクションではベタベタかつ厳しい家庭環境の中、将来母親を楽させたいと毎日勉強を頑張る良い子。ただ最近、症状が悪化した母親を見て心の底から心配している。本来なら、家で看病したいが当の母親が無理にでも寺子屋に行くように言っているため、不安を必死に押し殺しながら登校している。
ヒロインにはならない。